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2020/07/27

『フォークロア』テイラー・スウィフト(Album Review)

 昨年8月にリリースした『ラヴァー』から1年を待たずして発表された、テイラー・スウィフトの8作目となるスタジオ・アルバム『フォークロア』。英NMEやメタクリティック、米ローリング・ストーン誌といった音楽サイト/評論家からは、早くも軒並み高い評価を受けている。

 初期のカントリー・アルバムとも、『レッド』(2012年)以降の流行を追った曲とも、また違うサウンド・プロダクション。全曲をテイラー自身が制作し、敬愛するザ・ナショナルのアーロン・デスナーを共同プロデューサーとして迎えた、まさに意欲作。サプライズ・リリースという話題性を除き、これまでの売れ線を狙った感じは一切なく、商業的とは言い難い内容にファンは多少困惑しただろう。しかし、フォークを基としたミディアム~スロウで固め、自らの意思で生み出した点に、このアルバムの意義と誠実さを感じる。

 本作に収録された16曲は全て新録で、コロナ禍のロックダウンによる外出自粛期間中に自宅で制作したものだそう。テイラー曰く、これまでのアルバムはリリースするタイミングを図り過ぎていたところがあったが、本作は自分が納得した時点で発表すべきと踏み切ったそう。過度なプロモーションをせずとも自信をもって提供できると、自らの作品をもって証明したわけだ。

 ベス・ギャラブラントが手掛けたモノクロのカバー・アートも、これまでの女子ウケ必須の“映える”感じとはまったく違うテイスト。間もなくデビュー15年目、30歳を迎えたタイミングで心機一転、新たな章のはじまりを伺わせた。なお、ジャケットは異なる各8種類のパッケージが1週間限定で販売されていて、フィジカルのみ17曲目の「the lake」が収録される。

 アルバムは、良い具合に経年劣化したピアノの低音が物悲し気に響く「the 1」で静かに幕開けする。テイラーのお得意とする過去の想い出をノスタルジックに書き下ろしたナンバーで、悟りを開いたような歌いっぷりは、キャリアと年齢を重ねた深い味わいがある。

 2曲目の「cardigan」は、アルバムのリリースと同時にカットされた本作からのリード・シングル。日本でも大ヒットした「ウィ・アー・ネヴァー・エヴァー・ゲッティング・バック・トゥゲザー」(2012年)や「シェイク・イット・オフ」(2014年)など、過去の先行シングルと比較すると相当温度差はあるが、シンプルが故、鋭く痛烈なメッセージがダイレクトに刺さる。アラサーの重たい未練を詞的に描いたフレーズ、それを乗せたメロディラインの表情も甘美。同日に公開されたミュージック・ビデオも自身が監督・スタイリングを務めた力作で、ファンタジー・テイストのテイラーらしい世界観が画かれている。同曲は、ストリーミング・サービスSpotifyのグローバル・チャートで初日700万再生を突破し、YouTubeの公式チャンネルでは3日間で2,000万再生を記録している。「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ」(2017年)以来となる、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”での首位獲得も期待できるかもしれない。

 前2曲からテンポアップしたコンテンポラリー・フォーク「the last great american dynasty」を挟み、4曲目にはボン・イヴェールをフィーチャーした「exile」が収録されている。中心人物のジャスティン・ヴァーノンは、前述のアーロン・デスナーの紹介によりアルバムに参加したと、コラボレーションした経緯を話し、テイラーの才能とソングライターとしてのポテンシャルの高さを絶賛した。ボン・イヴェールの風味も漂わす、ピアノと弦の奏が美しい極上バラードで、ジャスティンとテイラーの高低差あるハーモニーも絶妙。後半の盛り上がりもドラマチックで、「cardigan」に次ぐ人気曲なのも納得できる。男女の失恋感を歌った曲では「ザ・ラスト・タイム」(2012年)にも通ずるものがあると、そんな話題もチラホラ。

 次の「my tears ricochet」には、昨年世間を賑わせたビッグ・マシーン・レコードの身売り騒動に触れた、スコット・ボーチェッタへの恨み節が満載。『レピュテーション』(2017年)~『ラヴァー』にもこの手の曲はいくつかみられたが、その中でも群を抜いてどぎつい。同曲は、アルバム制作において最も早く手掛けたナンバーとのことで、当時の心境が如何なものだったかを物語る。スーパースターであるが故の悩みとしては、アーティストとしての自分をミラー・ボールに置き換え、ダンスフロアの上を漂うだけ……と悲観的に歌った「mirrorball」や、鬱状態やアルコール依存について歌った、ラナ・デル・レイ路線の物憂げでミステリアスな「this is me trying」という曲も切ない。

 アコーディオンとバンジョーの演奏をバックに、優しく諭すように歌う「seven」や、遠い夏が蘇る「august」など、初期の作品を彷彿させるノスタルジックなカントリー・バラードもいい。後者は、長年テイラーの作品に携わってきたジャック・アントノフとの共作で、ジャックはその他にも前述の「my tears ricochet」や「this is me trying」、デビュー作『テイラー・スウィフト』(2006年)に収録された「シュドゥヴ・セッド・ノー」の続編とされている「illicit affairs」など、計6曲に参加している。

 中でも、アーロン・デスナーと共同プロデュースした「betty」は、今も揺るがないカントリー魂を感じさせる好曲。ネット上では、このベティというタイトルが「親友のブレイク・ライブリーとライアン・レイノルズ夫妻の第3子の名前では?」という話題で盛り上がっているようで、本作の中でも注目度が高まっている。また、この「betty」と「exile」には、ウィリアム・バワリーというソングライターがクレジットされているが、それが交際中のボーイフレンドで俳優のジョー・アルウィンではないか、との噂も浮上。いずれもファンやゴシップ誌の予想ではあるが、それをニオわせるあたり、相変わらずの策士だなぁと……感心してしまう。

 その流れでいうと、11曲目の「invisible string」という曲も、元カレのジョー・ジョナスについて歌った曲ではないかとウワサがされていたり。たしかに過去の恋愛を振り返る曲ではあるが、若干こじつけ過ぎという感じがしないでもない。誰に向けられた曲かはさておき、ヴィオラやマンドリンを起用したバック・サウンドには胸がすく思いだ。テイラーをディスって物議を呼んだカニエ・ウェストに言及した(であろう)「mad woman」や、新型コロナウイルスによる生活不安やストレス、暴力について歌った「epiphany」なども、歌詞はヘヴィ級に重たいが、優しい旋律とオーガニックなサウンド、そして包容力あるボーカルに救われる。「cardigan」に類似する最終曲「hoax」は、触れたら崩れてしまいそうなほど繊細で刹那的。

 ジャック・アントノフは、本作について「テイラーの人間性や温もり、生々しい感情をそのまま表現した、心地よい感覚のアルバム」と称えている。SNSやアーティスト間でのトラブル、異性関係、そしてレーベルとの確執、裏切りなど、様々な困難を経てきたテイラーが、こういったご時世だからこそありのままを表現できた、真摯に向き合えた作品。以前までのキャッチーなポップ・アルバムを期待していたファンには、ちょっと物足りない印象を受けるかもしれないが、聴き込む毎に味わい深く、メロディ・ラインや歌詞の個性は継承されていて違和感もないハズ。

 本作は、全世界80か国のiTunesチャートで1位を獲得し、リリースから24時間で130万枚のワールド・セールスを記録したと所属レーベル<Republic Records>が報じている。また、Spotifyでは初日だけで8,000万再生という女性アーティストのストリーミング記録を更新し、Apple Musicでもポップ・アルバムの初動最高ストリーミングを記録したそうだ。前作『ラヴァー』に続く全米アルバム1位獲得は間違いなさそうで、実現すれば通算7作目の記録更新となる。

Text: 本家 一成

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