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2020/05/26

<コラム連載 Vol.2>ライブエンターテイメント業界の存続を目指した支援や取り組みを解説

 コロナ禍で大きな打撃を受けたライブエンターテイメント業界の先行きはどうなるのか。

 政府は5月25日、全都道府県で緊急事態宣言の解除を発表した。街には少しずつ日常が戻り、政府は外出の自粛やイベントの開催制限を段階的に緩和していく方針を発表している。

 社会経済活動の再開に向けた議論が始まる一方、ライブエンターテイメント業界の苦境は長引く見通しだ。前述の政府方針でもこれまで通りの規模でライブやコンサート開催を再開できるのはかなり先のことになる。ライブハウスやイベント事業への打撃は深刻だ。

 こうした事態に対して、どんなアクションが起こっているのか。営業自粛要請により経営危機に瀕しているライブハウスへの支援と、新たな取り組みについて、いくつかのポイントにわけて解説していきたい。


1)有志団体によるライブハウス支援

 最初に取り上げたいのは、企業やアーティストなどが発起人となった有志団体によるライブハウス支援の動きだ。

 タワーレコードは、4月27日、協力企業・協力アーティストと共にライブハウス支援プロジェクト「LIVE FORCE, LIVE HOUSE.」を開始した。賛同する支援者にピンバッジを販売し、利益全額を支援金として全国の独立系ライブハウスに送金する仕組みで、4月27日から4月30日に実施した第一次緊急支援募集では総額6千万円超の支援金が集まった。5月15日から5月31日にかけて第二次支援募集が行われている。

 J-WAVEは4月1日から「#音楽を止めるな」プロジェクトを始動し、その一環として5月15日よりBEAMS RECORDS制作協力のもとライブハウス支援を目的としたオリジナルTシャツの受注販売を開始した。千原徹也やウィスット・ポンニミットなどのクリエイターがデザインを手掛けたTシャツを販売し、売上から制作・販売にかかる経費を差し引いた全ての金額を、都内を中心としたライブハウスに支援する。

 4月19日にはロックバンドのtoeが立ち上げたライブハウス支援プロジェクト「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」がスタートした。こちらには、東京事変、安藤裕子、スチャダラパーなどミュージシャン約70組が参加。特設サイトから支援したいライブハウスを選び、金額を設定してフォルダのアクセス権をダウンロード購入、そのお礼として賛同ミュージシャンが提供した楽曲データを期間内(2020年6月末日まで)であれば好きに聴いて楽しむことができる仕組みだ。こちらは1ヶ月で3万件を超える支援が集まっている。

 ライブハウスに対してドリンク代金を前払いするプロジェクト「SAVE THE LIVEHOUSE」も始まっている。こちらはMASH BROWNの小田翔武らが発起人となって始めたプロジェクトで、支援したいライブハウスを選び二杯目以降のドリンク代金を前払いで支払うことができるという仕組みだ。こちらは5月21日時点で1,400万円を超える支援が集まっている。

 他にも数々のライブハウス支援プロジェクトが立ち上がり、草の根的に支援の輪が広がっている。


2)ライブハウス独自の施策

 全国各地のライブハウスも、存続と事業継続のために、様々な取り組みを始めている。クラウドファンディングの立ち上げ、Tシャツなどのグッズ販売などによる支援の呼びかけが中心だが、その一方で、動画配信チャンネルの開設、フードメニューのテイクアウトなど、いわゆる“三密”を作らない形での新たな営業形態の模索も進められている。

 イープラスによる「ライブハウス支援まとめ」など、こうしたライブハウス個別の取り組みをまとめた情報サイトも立ち上がっている。


3)電子チケット制の有料ライブ配信サービス

 無観客ライブの配信事業を成立させるための電子チケット制の有料ライブ配信サービスも広がりを見せている。

 その理由として大きいのが「投げ銭」モデルの限界だ。

 ライブハウスの中には自らのYouTubeチャンネルを立ち上げ、無料で配信しつつスーパーチャット(投げ銭)で収益を見込むというモデルでライブ配信を行っているところも少なくない。しかし、スーパーチャットとして課金された総額の3割はYouTube側に手数料として徴収される仕組みと言われている。それ以外にも決済、サービス、アプリの手数料などもかかり、ライブハウス側の手元にわたる金額の割合は相対的に少なくなってしまう。

 また、そもそもYouTubeやSHOWROOM、17 Liveなどのプラットフォームで双方向のコミュニケーションに長けた形で活動してきた動画配信者に比べると、ライブハウスでステージに立つミュージシャンにとっては、リアルタイムで「投げ銭」を受け取るという仕組みがそもそもパフォーマンス的にあまりそぐわないという課題もある。

 こうした点から、電子チケット制の有料ライブ配信サービスに対するニーズはとても高い。

 そんな状況のなか、いち早くサービスをスタートさせたのが電子チケットプラットフォーム「ZAIKO」だ。ZAIKOでは3月12日にceroの電子チケット制の有料ライブ配信サービスを開催し好評を集めるなど、2ヶ月間で150件近くのイベントを開催している。

 THECOO株式会社が運営する有料会員制ファンコミュニティアプリ「fanicon」による動きも早かった。同社は3月19日に有料ライヴ配信サービス「fanistream」のサービスをスタート。同時に「#ライブを止めるな!」プロジェクトを立ち上げ、サービスの使用料に加え、ライブ配信用機材使用料、ライブ配信用スタッフ人件費、提携ライブハウス使用料を4月末までの期間限定で無償提供。wacciやSCOOBIE DOなど13組のアーティストがこのサービスを活用しライブを行った(5月23日現在)。

 4月29日にはZOOMのウェビナー機能を用いた「#オンラインライブハウス_仮」というプロジェクトもスタートした。

 「#オンラインライブハウス_仮」は、「お家にいながら、オンラインでライブに行こう。」をテーマに、演奏するミュージシャンとチケットを買った観客が一つの空間でライブを共有するオンラインスペース。プレイガイドでチケットを買った観客は、ZOOMのウェビナー機能を用いてミュージシャンのプライベートスペースからのライブに参加する仕組みだ。

 5月からは大手プレイガイドによるオンラインライブのサービスもスタートした。

 ぴあは「PIA LIVE STREAM」、イープラスは「STREAMING +」というサービスをスタート。それぞれ有料の電子チケットを購入した人がオンラインライブにアクセスできる仕組みだ。

 今後、いわゆる“三密”を避けた形でライブやコンサート興行を行うことが可能になったとしても、人が密集することが感染拡大のリスクとなるゆえ、しばらくはこれまでと同じようなキャパシティでイベントを開催することは難しいだろう。そうした意味でも、長期的な視野において、こうした電子チケット制の有料ライブ配信サービスが新たなインフラとなっていく未来が予測できる。


4)行政からの補償や支援

 こうした支援の動きや新たなサービスの展開に比べて、政府や行政からの補償や基金設立の動きは乏しいと言わざるを得ない。

 5月21日には、演劇・音楽・映画業界の有志が手を取り合い、国に公的支援を求めるプロジェクト「#WeNeedCulture」がスタートした。

 ライブハウス休業に伴う補償を求めるプロジェクト「SaveOurSpace」、ミニシアターの支援を主に行っている「SAVE the CINEMA」、演劇界への公的支援を求める「演劇緊急支援プロジェクト」の3団体が主催するプロジェクトだ。

 5月22日には、「演劇緊急支援プロジェクト」の日本劇作家協会会長で女優の渡辺えり、日本劇団協議会会長の演出家西川信広氏、「Save Our Space」の加藤梅造ロフトプロジェクト社長、「SAVE the CINEMAプロジェクト」の諏訪淳彦監督らが、文化芸術の復興・継続のための「文化芸術復興基金」の創設に関する要望書などを関係省庁に提出。記者会見とオンラインでのシンポジウムを行った。

 ドイツのモニカ・グリュッタース文化相は3月25日、「非常に多くの人が文化の重要性を理解している」「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要である」と明言。文化機関や文化施設を維持し、芸術や文化から生計を立てる人々の存在を確保することは、現在ドイツ政府の文化的政治的最優先事項であるとして、フリーランサーや芸術家、個人業者への手厚い支援を約束した。他にも各国で多額の支援や基金創設が始まっている。

 日本でも、5月25日、新型コロナウイルスの影響で延期や中止を余儀なくされたコンサートなどをあらためて開催する場合、5,000万円を上限に費用の半額を補助する方針を政府が打ち出した。こうした施策は歓迎すべき動きだが、コロナ禍によって打撃を受けた芸術家や関連の零細事業者を救済するためには、より広く手厚い行政からの支援も必要になってくるだろう。

 これまでも、ライブハウスやクラブは各地で音楽文化の発信拠点としての役割を果たしてきた。先行きは厳しいが、存続を目指した取り組みに引き続き注目したい。


◎プロフィール
柴 那典(しば・とものり)
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者、音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「ORIGINAL CONFIDENCE」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。