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2020/03/31

『3.15.20』チャイルディッシュ・ガンビーノ(Album Review)

 2020年3月15日にリリースされ、12時間で取り下げられたチャイルディッシュ・ガンビーノによる4枚目のスタジオ・アルバム『3.15.20』。当時の米情勢を個人的主観で表現した「This Is America」(2018年)や、昨年の【コーチェラ・フェスティバル】でサプライズ公開した短編映画『Guava Island』もそうだが、話題性のあるプロモーションにおいてドナルド・グローヴァーの右に出る者はいない。

 前日の3月21日に公式ウェブサイトでカウントダウンを開始し、翌22日に配信リリースされたこのアルバム。真っ白のカバー・アートや、途切れず繋いだ「ロング・バージョン“Donald Glover Presents”」、それに付随して各曲のタイトルが“秒数”で表示されるなど、構成も話題性・インパクト大。本作には、先行リリースされたシングルや、デモ音源として出回った曲、ライブで披露したナンバーなど、ファンが待ち望んだ全12曲が収録されている。トータル・プロデュースは、ケンドリック・ラマ―やトラヴィス・スコット等のヒット作を手掛けるDJダヒが担当。

 アルバムは、“We Are”だけ何度も不気味に響き渡るイントロ「0.00」から、ARアプリでのみ公開されていた「Algorhythm」で幕を開ける。同曲は、人生のアルゴリズムを歌ったサイケデリック・ファンクで、ナイン・インチ・ネイルズの「Closer」(1994年)と、90年代のクラブ・シーンを彩ったジャネイの「Hey Mr.DJ」(1993年)がサンプリング・ソースとして使われている。90年代っぽい音は、元ネタの影響もあるだろう。この曲と次曲「Time」は、時間表記ではなく正式なタイトルが付けられた。

 アリアナ・グランデがボーカルを担当した「Time」は、昨今ブームになりつつある80年代風のシンセ・ポップ。独特のユルいテンポとアリアナの透明感ある声質効果か、どこか夏っぽい雰囲気を醸していて、聴き心地良い。ソングライターには、先述の「This Is America」や前作『アウェイクン、マイ・ラヴ!』にも参加したルドウィグ・ゴランソンとチュクディ・ホッジがクレジットされている。なお、両者のコラボレーションは、アリアナの2ndアルバム『マイ・エヴリシング』(2014年)に収録された「Break Your Heart Right Back」以来、6年ぶり。

 4曲目の「12.38」には、ラッパーの21サヴェージと、米LAの女性シンガーソングライター=カディア・ボネイがゲストとして参加。両者の特色を活かしたオーガニック・ソウル風のサウンドに、黒人らしい歌詞を乗せたブラック・ミュージックの真骨頂……とでも言うべきか。 地味ながらディープなアプローチを試みた秀作とイチオシしたい。フェイドアウトに間髪入れずはじまる「19.10」も、黒人文化を歌ったチャイルディッシュ・ガンビーノらしい一曲で、ノイズを交えたインダストリアルっぽいサウンドが聴き応え十分。

 シンプルなメッセージで愛と感謝を歌うラブ・ソング「24.19」は、古いソウル・ミュージックを焼き直したようなミディアム・バラード。ゴスペルっぽいコーラスも曲によく映えている。ナチュラルで穏やかな空気感の「24.19」から繋ぐ「32.22」は、サウンド&リリック共に攻めに転じた、緊張感を煽るノイズ・ミュージック。この曲は、「Warlords」というタイトルで【コーチェラ・フェスティバル2019】でも披露され話題を呼んだ。次の「35.31」ではフォークやカントリーの乾いた音を取り入れ、「39.28」では、エフェクトをかけたアカペラという斬新なパフォーマンスで度肝を抜く。「39.28」は、【This is America Tour】で「Human Sacrifice」としてパフォーマンスされ、Google Pixel 3のCMソングにも起用された。

 「42.26」は、2018年の夏にリリースした2曲入りEP『サマー・パック』に収録されたうちの1曲「Feels Like Summer」。悪化する世界情勢・環境問題について訴えた意欲作で、トップスターがこぞって参加したアニメーション・ビデオも1億7千万視聴を超える大反響を呼んだ。なお、同EPに収録された「Summertime Magic」は本作のトラックに含まれていない。「Feels Like Summer」の続編的なレトロ・ファンク「47.48」にも、暴力の溢れる世界を非難しつつ、子供が安心して住める平和な世界への願いが込められている。ラストは、ライブ映えしそうなヘヴィー・ファンク「53.49」で〆。メロウで終わらせないあたり、メッセージの破壊力と意思の強さを感じる。

 ドナルド・グローヴァーは、3年前にチャイルディッシュ・ガンビーノとしての活動を終わらせることを宣言していて、本作はチャイルディッシュ・ガンビーノ名義のラスト・アルバムだと報じられている。アーティスト名は何であれ活動は続けていただきたいものだが、こういったコンセプトのアルバムはもう作らないのかもしれない。

Text: 本家 一成

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