2020/03/24 18:00
1998年生まれ、米カリフォルニア州サンディエゴ出身。アイルランド人の父親と日本人の母親から受け継いだ美しい顔立ちと、ビンテージ・テイストを取り入れたファッション・センスも高く評価されていて、ジェンダーレスの主張やYouTuberとしての活動等、諸々今っぽい要素が満載。“男版ビリー・アイリッシュ”的な報じられ方もしているが、なるほど、そういった捉え方もできなくはない。
そんな“今風男子”のコナン・グレイが完成させたデビュー・アルバム『キッド・クロウ』は、リリース前に発表された先行トラックだけで既に5億回以上のストリーミングを記録している。中でも、オーストラリアやニュージーランドでチャートインした「Maniac」の人気は高い。Spotifyで9,000万回、全世界では1億5000万以上のストリーミングを記録していて、昨年10月の発売と同時に公開されたミュージック・ビデオも、新人ながらわずか半年で1,000万回を超える視聴回数を叩き出した。
「Maniac」は、80年代っぽさを漂わすインディー・ポップ。上下デニム・スタイルで写るカバー・アートや、ネオン・カラーのミュージック・ビデオもエイティーズ感満載で、彼のキャラクターやスタイルにも絶妙にマッチしている。思わず腰が浮くライトなアップ・チューンだが、歌っているのはメンヘラ系の恋人に向けた怨み言、という対照的な作り。内容、登場人物共に今どきの“若者の事情”が伺える。
昨年6月に発表した1stシングル「Checkmate」も、スピード感あるポスト・パンクに乗せて、もて遊ばそばれた“誰か”への恨み節や復讐を歌った、コナンらしい曲。ミュージック・ビデオでは、ストーカーのように付け回し、新しい恋人と楽しむ“誰か”を睨みつける演技が光った。男性なのか女性へのリベンジなのか、曖昧なニュアンスにしているところも「枠組みにとらわれない」と公言する彼らしい作品といえる。そういった意図から、コナンの作品では「She」や「He」ではなく「They」という三人称が頻繁に使われている。
アルバムのオープニングを飾る2ndシングル「Comfort Crowd」は、前2曲とはテイストの違うアコースティック・メロウ。ボーカルも決して張り上げることのない終始ソフトな味わいで、そのゆらぎに身を委ねたくなる。現代の若者が抱えがちな“孤独”からくる不安定さと、その状況を打破するために“誰か”が必要だということを訴えた、オセンチなサウンドとも一致した“エモい”作品に仕上がっている。この3曲だけでも一目瞭然だが、コナン・グレイというアーティストはとても繊細な人だと思う。
それもそのはず。アジア人の血をひくそのビジュアルが原因でイジメを受けたことや、YouTuberとしても活躍していた時期にも心ないバッシングを浴びせられることもあったという。そういった経験が、ネガティブな要素や悲観的な表現に繋がったといえなくもないが、表現者としては強みであり、こうして作品のクオリティにも直結している。
「Maniac」の後にリリースした「The Story」でも、過去のしがらみに苦しめられている自分自身と、同じ思いでいる誰かへのメッセージが込められている。米カルフォルニア州で生まれ、幼少期は日本の広島県で過ごし、再びアメリカのテキサス州に移住した経緯をもつコナン。ここで歌われているのは 米テキサス州での出来事で、ビデオではその町から抜け出し、希望を見出そうとするストーリーが描かれている。曲調は、物語に見合った古き良きカントリーやフォークを取り入れたバラードで、「Comfort Crowd」以上の感情の揺さぶりみたいなものを感じた。
一転、発売直前に公開された「Wish You Were Sober」は、青年らしい妄想を働かせたアップ・チューン。エド・シーランの「I Don’t Care」を彷彿させるパリピ嫌いと、そんな自分と見合わない“誰か”への憧れみたいなものが綴られた、タイトル通りのラブ・ソング。ビデオも同様の内容で、アブなそうな連中が集うホームパーティーが舞台となっている。このテの曲は数十年前からちらほらみられるが、その中でもコナン・グレイの説得力は群を抜いている。
最終曲のような壮大さと存在感を放つロッカ・バラード「The Cut That Always Bleeds」では、断ち切れない関係に砕かれそうになる“心の傷”について歌っていて、曲間ではもどかしい気持ちを叫び、エモーショナルな爆発を起こしている。次曲「Fight or Flight」は、ゲームの中のような非日常的シチュエーションを歌った、ミディアム・ロック。曲調や歌い回し含め、どこかビリー・アイリッシュを意識したようなニュアンスも感じられる。お金の価値観について実体験から書いた「Affluenza」では、富を得ても幸せを掴めるとは限らないという、ありそうなことを歌ってはいるが、大成功する前の21歳の若者が書いたと思うと驚異的。
1分弱と簡易的にまとめた「(Can We Be Friends?)」も、友達の大切さを歌ったいい曲。英ロンドンのDJ=ジャム・シティが参加した、ノスタルジックなフォーク・バラード「Heather」では、ヘザーという女性に憧れを抱いた“誰か”への想いを、「自分がヘザーだったら…」という表現を用い歌っている。米LAの音楽プロダクション・チーム、キャプテン・カッツがプロデュースした「Little League」は、若い頃をリトル・リーグと比喩した青春ポップ・ソング。本作は、コナンが経験した10代の想い出や悩み、今吐き出したいことが存分に詰まっている。
2018年の11月にリリースした初EP『サンセット・シーズン』は、米ビルボード・ヒートシーカーズ・チャートで2位を記録している。パニック!アット・ザ・ディスコの前座を務めたり、メンバーのブレンドン・ユーリーや、The 1975のマシュー・ヒーリー、友人でもあるビリー・アイリッシュが後押ししたこともあり、本作『キッド・クロウ』は総合アルバム・チャート“Billboard 200”でもランクインするかもしれない。功績を取っ払ってもいいアーティストだし良い作品だが、2020年は商業的なブレイクにも期待したいところ。
Text: 本家 一成
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