2020/03/18 18:00
1994年生まれ、米カリフォルニア州サンフランシスコ出身。アトランタやフィラデルフィアに移住した経緯もあり、そういった環境の変化がロックやヒップホップ、R&Bまで幅広い音楽を網羅できる現在のラウヴを形成した……との見解もある。幼少期にはピアノやヴィオラのレッスンを受け、学生時代はバンド活動やジャズの勉強にも勤しんでいたというから、根っからの音楽人なのだろう。
主には、グリーン・デイやジョン・メイヤー、コールドプレイ等のロック系アーティストから影響を受けたというが、先述の通り、彼の作る音楽はジャンルに捕われていない。ケイティ・ペリー等からヒットの傾向を研究したそうで、“どこかで聴いたような”と思わせるサウンドは、そういった意図があるからだろう。シンガー、ソングライター、プロデュース業も熟せるマルチ・プレイヤーにして、ルックスとファッション・センスも備えている、まさにパーフェクト・ガイ。
本作『~ハウ・アイム・フィーリング~』は、デビューからおよそ5年を経てようやくリリースされる、ラウヴの実質上のデビュー・アルバム。全21曲中、10曲がシングルといういわばベスト盤に近い内容で、聴きごたえも抜群。なお、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高27位を記録したブレイク曲「I Like Me Better」は収録されていない。
アルバムからは、UKチャートで初のTOP10入り(8位)を果たした、トロイ・シヴァンとのデュエット・ソング「i’m so tired…」が大ヒット。涼やかで憂いに満ちたサウンドと、解消できない鬱憤を綴った歌詞がフィットした傑作で、両者のボーカルも相性抜群。ロードの「Buzzcut Season」(2013年)を引用するあたりが、この曲、そしてラウヴらしい。ミュージック・ビデオも、ラブラブな2人がドライブする様を後部座席から見守るという、シンプルながら曲の世界観に見合った構成。
「Drugs & the Internet」は、自身の弱さや塞いだ気持ちについて自責した曲。タイトルが示す通り、現実からドラッグとインターネットに逃避する様を少し冷めたように歌っているが、リズミカルなメロディやカラフルなMVが、歌詞の重たさを緩和させてくれる。プロデューサーには、ゼッドの作品で知名度を上げた米NY出身のラッパー=ジョン・ベリオンがクレジットされていて、低音をきかせたオルタナっぽい仕上がりになっている。
制作にダラス・ケイが加わった「Sad Forever」も、薬物中毒や鬱について歌われた曲だが、内容は「Drugs~」よりも更に重く、底辺に落ちた状態を苦しそうに綴っている。サウンドはフロア映えしそうなエレクトロ・ポップだが、ボーカルはどこか物悲し気。この曲は、昨年のアジア・ツアーの際に書いたそうで、同ツアーのマニラ公演を撮影した映像をMVに起用している。会場のファンが中央に座るラウヴをライトで照らし、光を導くような演出が曲の結論……と、とれなくもない。
1人目のゲストは、日本でも高い人気を誇るポップ・シンガーのアン・マリー。共演曲「Fuck, I'm Lonely」は孤独さをあざ笑うように歌うキャッチーなポップ・ソングで、アン・マリーのちょっと毒づいたキャラクターも活かされている。カラフルな部屋がスライドされるカリードの「Talk」みたいなビデオもお洒落で、センスに溢れた一曲。テーマに沿ったドラマ『13の理由 シーズン3』のサウンドトラックにも収録されている。
女性シンガーでは、エキゾチックな魅力のソフィア・レイエスとデュエットした「El Tejano」と、「Here」のヒットで知られるアレッシア・カーラをフィーチャーした「Canada」の2曲もある。前者は、スペイン語を織り交ぜたラテン・ポップで、アルバムの中でも異色を放っている。「El Tejano」とは、米LAにあるバーの名前だそうで、そこで落ち合う男女の恋模様を歌った、比較的ポジティブな曲。後者はツイッターのトレンドからヒントを得た曲だそうで、現状に満足していないならカナダに移住し、最高の生活を取り戻してみては?という術を施している。いずれも、両者の出身地に特化しているが故説得力がある。
同色のエレクトロ・ポップ・トリオ=レイニーとタッグを組んだ「Mean It」は、彼等の代名詞である“セツナ・ポップ”に乗せて、失恋後のもどかしい関係性を綴ったナンバー。切り替わりに気づかないほど、ラウヴとポール ・クラインの声色は相性が良く、ウェットな旋律にも調和する。米カリフォルニアの砂漠地帯で撮影されたビデオでは、両者とも俳優顔負けの美しい演出を披露した。BTSとコラボした「Who」も、哀愁漂う好メロウ・チューン。
本作の中で“最も重要な曲”だと公言した「Modern Loneliness」は、ピアノのシンプルな伴奏と、繊細なボーカル・ワークで聴かせるバラード曲。スマホの普及により利便性が高くなった半面、孤独な人も増えているという現代ならではの問題点に触れたナンバーで、絶望の中にもある愛の存在を訴えている。無垢な世界を再現したような、癒度100%のミュージック・ビデオも最高。曲と画のマッチング、歌詞の奥深さ含め、たしかに本作一の出来栄えといえる。
同じピアノ・バラードでは、「Changes」という曲も奥が深い。ドラッグによる後遺症かアーティスト活動の行き詰まりか、諸々うまくいっていない状況を打破するため変わろうというメッセージが込められているが、その中には“そうはうまくいかないけど”という現実味のあるフレーズもあり、色々考えさせられてしまう。これも、「最もパーソナルな作品」と本人が言うだけの価値ある力作。アップがウリのラウヴだが、バラード曲にこそ彼の真意がある、かもしれない。
その他、ザ・モンスターズ・アンド・ストレンジャーズがプロデュースしたドラマティックな展開の「Lonely Eyes」や、カイリー・ミノーグやブリトニー・スピアーズといった大御所も手掛けるスターリング・フォックスとの共作「Sims」、愛犬の名前を拝借したドリーミーなミディアム「Billy」、アンソニー・ロッソマンドらしいアコースティック・メロウ「For Now」、おセンチな男心を歌った「Sweatpants」~「Invisible Things」など、語りつくせない魅力に溢れている。
制作に時間は掛けたが、行き詰った時期を経たこともあり、自分自身を開放することができたと話すラウヴ。サウンドのクオリティはいうまでもないが、歌詞の意味を読み取って聴くと刺さり方が全然違ってくるだろう。なお、カバー・アートに散りばめられた“小ラウヴ”は、それぞれ自身の中にあるキャラクターだそうで、 紫は「実際に存在している自分」、青は「夢見がちで可哀想な自分」、緑は「間抜けな自分」、黄色は「ポジティヴな自分」、オレンジは「やんちゃな自分」、赤は「刺激的な自分」を意味しているとのこと。
本作は、リリース翌週の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で16位に初登場し、すべての作品を含むアメリカでの最高位を大きく更新したばかり。また、イギリス(UKチャート)では9位、ニュージーランドで6位、オーストラリアでは5位をマークするなど、主要各国でTOP10入りを果たしている。
Text: 本家 一成
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