2020/03/16
昨年末から1Dのメンバーによるソロ・アルバムのリリースが立て続いている。12月にはハリー・スタイルズとリアム・ペインが、そして前月にはルイ・トムリンソンが1stアルバム『ウォールズ』を発表したばかり。掉尾を飾るのが、ナイル・ホーランの2ndアルバム『ハートブレイク・ウェザー』。
2017年10月にリリースした1stアルバム『フリッカー』は、シングル曲「ディス・タウン」~「スロウ・ハンズ」を筆頭に、フォークやカントリーを主とした傑作だった。米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で初登場1位に輝いたのも、米ローリング・ストーン誌が絶賛したのも納得できる、いいアルバムだった。
その『フリッカー』からおよそ2年半ぶりとなる新作『ハートブレイク・ウェザー』は、タイトルが示す通り、失恋後の移り気な感情を盛り込んだ作品。自身の体験談もあれば、“こういう曲を探してた”という誰かの要望に応えたような曲もある。
昨年10月にリリースした1stシングル「ナイス・トゥ・ミート・ヤ」は、前作やハリーの新作にも参加した米カリフォルニアの音楽プロデューサー=ジュリアン・ブネッタが手掛けた英国産グラム・ロック。曲調に合わせてか、歌い回しもクセ強めに、ミュージック・ビデオでは黒のラウンド・サングラスでクールにキメる“男臭さ”も演出した。この曲をはじめ、本作では2年半を経て醸し出した色気や余裕が随所に感じられる。
一転、次曲「プット・ア・リトル・ラヴ・オン・ミー」は、親友であるルイス・キャパルディの大ヒット「サムワン・ユー・ラヴド」にインスパイアされたようなピアノ・バラード。リアルな経験から綴られた、本作のテーマ直結の切ない“失恋ソング”で、ヘイリー・スタインフェルドに向けられたものであろう、との見解もある。なお、ヘイリーも今年冒頭にアンサー・ソングと思われる「ロング・ダイレクション」という曲をサプライズ・リリースしたばかり。お互い、まだ未練を解消できずにいる……か?
アルバムからの3rdシングル「ノー・ジャッジメント」も出来高。「スロウ・ハンズ」の制作チームであるジョン・ライアンと、ラッパーとしても活動する米マイアミのシンガーソングライター=エスカードが制作陣に加わったナンバーで、ファンキーさやエキゾチックな雰囲気も濁らす、独創的なアップ・チューンに仕上がっている。年配夫婦の行く末を描いたビデオはコメディー・タッチながら、歌っていることは意外とシビア。
アルバムの発売同日には、タイトル曲「ハートブレイク・ウェザー」のMVも公開されている。オープニングを飾る同曲は、「ディス・タウン」の制作者でもあるジェイミー・スコットとの共作。どの国においてもスタンダードといえる王道のポップ・ソングで、先述の3曲とはまた違う、聞き心地の良いボーカル・ワークも◎。キャスターに扮して天気を伝えるコミカルなMVは、前月に公開したトラックリスト映像の続編的な内容になっている。
ウエディング・ソングとして書いた「ブラック・アンド・ホワイト」を手掛けたのは、ショーン・メンデス等の作品でもお馴染のスコット・ハリス&テディ・ガイガーによるコンビ。制作陣に共通点があることもあるが、本作はショーンの作品を意識したようなサウンドもちらほらみられる。別れの印影を思わす「エヴリホエア」や、エイミー・アレン&モゼラの女性シンガー・ソングライター2人が制作した「ニュー・エンジェル」あたりは、そのテイストが濃厚。
人気プロデューサーのグレッグ・カースティンは、「プット・ア・リトル・ラヴ・オン・ミー」に匹敵する女々しさを歌った「アームズ・オブ・ア・ストレンジャー」と、前述の「ニュー・エンジェル」、日本盤ボーナス・トラックに収録されたジュリア・マイケルズ との共作「ドレス」の3曲を担当。「プット~」~「アームズ・オブ・ア・ストレンジャー」のドラマティックな展開は、本作のハイライトというべきか。
第三者目線で諭すように歌う、スローダウンしたオルタナティヴ・ロック「ベンド・ザ・ルールズ 」、歌詞は「ナイス・トゥ・ミート・ヤ」、サウンドは「スロウ・ハンズ」の続編的な「スモール・トーク」、ライブ映えしそうな風通しの良いポップ・ソング「クロス・ユア・マインド」、同地での思い出に更け、自分自身を取り戻そうと歌うメロウ・チューン「サンフランシスコ」等、カメレオンのように変化する曲調・声色からも、タイトルの“天気の移り変わり”的な要素を感じる。
繊細なミディアム「ディア・ペイシェンス」やエンディング曲「スティル」のようなアコースティック・メロウも無論良いが、個人的には「ナイス・トゥ・ミート・ヤ」や「ノー・ジャッジメント」のようなアップをもう少し強化しても良かった、ように思える。まあ、アルバムのコンセプトからするとミディアム~バラードが中心になるのは致し方ないが。
ナイルは、本作を中心とした北米ツアー【Nice To Meet Ya 2020 Tour】を翌4月から開催する。オープニング・アクトには、前述のルイス・キャパルディも参加する予定。
Text: 本家 一成
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