2020/03/14
レーベルとのトラブルから引退宣言をし、インスタグラムの投稿を削除する等荒れ模様だった2019年。年末にリリースした本作からの先行シングル「Futsal Shuffle 2020」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初登場5位を記録し、リード曲としては7位をマークした「XO Tour Llif3」(2017年)を超える自己最高位を更新。華々しい復帰劇を遂げたリル・ウージー・ヴァートの最新作『エターナル・アテイク』が、ようやくサプライズ・リリースされた。
その「Futsal Shuffle 2020」は、EDMとトラップを掛け合わせた近未来的サウンド、難易度の高い踊りを披露したミュージック・ビデオと今っぽい仕上がりで、同名のハッシュタグによるダンス動画を拡散させるという、昨今主流のプロモーションも功を奏し、ヒットに繋いだ。同曲には、タイラー・ザ・クリエイターの「Boredom」(2017年)がサンプリング・ソースとして使われている。
本作には、その他にもネタ曲が満載。発売直前に公開された「That Way」は、まさかのバックストリート・ボーイズ使い。彼らのヒット曲の中でも人気・知名度の高い「I Want It That Way」(1999年)を、自己流に“良いとこ取り”したメロウ・トラップで、独特のねっとり感が全盛期のリル・ウェインを彷彿させる。メンバーのニック・カーターも絶賛しているようで、ラップ・チャートでは早々にTOP10入りを果たした。同曲には、ヒップホップ・ネタではお馴染みリン・コリンズの「Think」(1972年)も一部使われている。
ポップ・ソングからは、アリアナ・グランデの「raindrops (an angel cried)」(2018年)を起用した「Celebration Station」という曲がある。ボーカルをフィーチャーしたというよりは、バックで響かせる効果音的な使い方がこれまた絶妙。「That Way」もそうだが、ポップ・ソングを織り交ぜることでトラップの息苦しさみたいなものを緩和できる、ように思える。歌詞の淫靡さからすると、アリアナちゃんの楽曲との相性はどうなのか、という疑問も生じるが……(対比効果?)。
ヒップホップ・トラックからは、トラヴィス・スコットが2016年に発表した『バーズ・イン・ザ・トラップ・シング・マクナイト』から「Way Back」(2016年)のイントロ部を拝借した「Prices」、ブっ飛んだキャラクターで人気を博した米シカゴのラッパー=チーフ・キーフの未発表曲「Skkrt Skkrt Skkrt」をフィーチャーした「Chrome Hearts Tags」、前述の「XO Tour Llif3」をサンプリングした「P2」の3曲がある。
それから、マイクロソフトのゲーム『Windows 3D Pinball Space Cadet』の効果音を使用した中毒性の高い「You Better Move」という曲も奇抜且つ上作。ショット音をバックに言葉を畳みかけるユニークな構成で、全トラックの中でもインパクトの強さはピカイチだった。歌詞はさておき、本作のサウンド・プロダクションは最先端且つ綿密でレベルが高い。サー・ミックス・ア・ロットの大ネタ「Baby Got Back」(1992年)を使った次曲「Homecoming」も、懐かしさと近未来的サウンドが共存した傑作。
本作は「Baby Pluto」、「Renji」、「Lil Uzi Vert」の3部構成。「Baby Pluto」と「Renji」は自身の別人格名=オルター・エゴのことで、それぞれのキャラクターに沿った楽曲が6曲ずつ収録されている。
“エターナル・アテイクへようこそ”から始まる「Baby Pluto」は、若手ラッパーらしい強気な発言満載のオープニングに相応しい曲。歌ってることはどうにも褒められたものではないが、ラップ・スキルの高さには称讃せざるを得ない。2曲目の「Lo Mein」もリリック、サウンド共に「Baby Pluto」を引き継いだようなナンバーで、冒頭からヘヴィなトラックが続く。アグレッシブな「Silly Watch」~舌の回り具合に息を呑む「Pop」も強烈。
キャラクターの特色からか「Renji」に切り替わると少しトーンダウンする。 スペイシーなオープニングのメロウ・チューン「I'm Sorry」 は、過去に交際していたブリタニー・バードへの謝罪を主とした曲で、オセンチなフレーズをおきながらも、どこか恨み節をニオわせている。過去の出来事を引用した「Bigger Than Life」や、せびられた経緯を綴った「Bust Me」もそうだが、ここでは女性に対しての不平不満を吐き出している、ようにも思える。
唯一のゲスト・クレジットは「Venetia」に参加したジ・インターネットのシド・ザ・キッド。「Lil Uzi Vert」のオープニングを飾る同曲は、自身の「Queso」(2015年)やドレイク、ミーゴス等のヒットを手掛けるウィージーによるプロデュース曲で、両者の掛け合いもいい塩梅に交わった。「Venetia」や「Secure the Bag」は若干マンネリ感否めずだが、「Futsal Shuffle 2020」~「That Way」の締め括りが満足度を上げる。
宗教団体とひとモメした カバー・アート含め、色んな意味で意欲的な取り組みがみられた本作『エターナル・アテイク』。2017年にリリースした1stアルバム『ラヴ・イズ・レイジ2』に続き、自身2作目の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”首位獲得となるか、チャート・アクションにも期待が高まる。
Text: 本家 一成
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