2020/02/05
昨年12月にリリースされたハリー・スタイルズの2ndアルバム『ファイン・ライン』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で2週連続の1位を記録したばかり。彼等には、どうしても「ワン・ダイレクションの……」という肩書きが記されてしまうが、ハリーの場合、もはやそんなステータスも不要といえるほどの大成功を収めている。一方、リアム・ペインのソロ・デビュー作『LP1』は鳴かず飛ばずに終わっている。
ルイ・トムリンソンの場合、ゼインやリアムのようなキャラでもないし、ここ最近のゴシップといってもエレノア・カルダーとの交際が順調かどうか、ということくらい。逮捕歴あり、バツイチ・子持ちという破天荒さもあるが、話題性には乏しく、“ブッとんだお騒がせセレブ”というイメージは薄い。
アーティストの場合、それがマイナスに働いてしまうことがある。特に、問題児こそ注目されるアメリカの音楽市場にとっては。ルイ・トムリンソンのソロ・デビュー作『ウォールズ』も、キャラクターに比例して正統派すぎるが故、若干退屈に感じてしまいがちだ。しかし、スタンダードなブリット・ポップ~UKロックを好みの方には、受け入れ難い要素は一切ない、良質なサウンドを聴かせてくれる。個人的には、ソロ・アルバムの中では最も1Dの作風に近い気がするし、決して駄作ではない。
その“UKっぽさ”が全面に出たのが、発売直前にリリースしたタイトル曲。オアシスの「キャスト・ノー・シャドウ」(1995年)、「アクイース」(1998年)、「ストップ・クライング・ユア・ハート・アウト」(2002年)の3曲をモチーフにしたそうで、当然といえば当然。昨今アーティストが悩まされる“盗作疑惑”が浮上しないよう、ソングライターにはノエル・ギャラガーの名前もクレジットされている。たしかに、サビのあたりは「アクイース」まんまと言えなくもない。
メンバーの姿と思われるシルエットも話題となったミュージック・ビデオも、キャリアや人間関係について綴った歌詞の世界観を美しく画いていて、いい出来栄え。オアシスっぽさも上手く自己流にまとめあげ、タイトル・ナンバーに相応しい傑作といえる。ノエルの他には、スコットランドのソングライター=デイヴ・ギブソンも制作陣にクレジットされている。
カルヴィン・ハリスやミーカの作品でも知られる、マーク・クルーによるプロデュース曲「トゥー・オブ・アス」は、3年前に白血病で死去した母について歌われたもの。生前残した母からのメッセージも歌詞に登場する切ないロック・バラードで、ルイの繊細なボーカルも見事マッチした。ピアノの弾き語りではじまるモノクロのMVは少々退屈……ではあるが、歌詞やメロディが売りのこの曲は、これくらいの温度で丁度いいのかもしれない。
米LAのソングライター/プロデューサーのジェイミー・ハートマンが担当した2ndシングル「キル・マイ・マインド」も、初期のオアシスっぽさを醸すパンク・ロック。本人も、自身の作品についてはパンチが足りないと自己評価したようで、この曲はそのアクセントになるべく存在だとも話している。確かに、他曲と比較すると歌詞、サウンド共に攻めてる感はある。若干軽すぎるが、このテの曲にもルイのボーカルは、はまるにはハマる。
「ワンダーウォール」のオープニングかと錯覚する3rdシングル「ウィー・メイド・イット」は、そのオアシスっぽさと、コールドプレイあたりの小洒落た感を兼ね備えた、ザ・UKロック。1D時代の想い出(苦悩)と過去の恋愛模様を引っ張り出した、青春回帰ソングとでもいうべきか。ドラマ仕立てのビデオも、若い頃の過ちや変化のような様を描いている。ネガティブな要素が強いが、陰気な感じがしないのはルイの“王道な”爽やかさが故。
英サリー州出身の音楽プロデューサー=スティーブ・マックが担当した4thシングル「ドント・レット・イット・ブレイク・ユア・ハート」も、ブリティッシュ・ロックらしい仕上がり。旋律が滑らかで、ロックというよりはポップに近いか。1Dの後期(フォーあたり)を彷彿させるサウンド・プロダクションともいえる。「キル・マイ・マインド」~「ウィー・メイド・イット」~「ドント・レット・イット・ブレイク・ユア・ハート」のミュージック・ビデオは、ストーリーが繋がるように作られている。
10代の若かりし恋(当時のエレノア?)を歌ったアコースティック・メロウ「トゥー・ヤング」、イアン・ジェームス(オリ―・マーズ、アン・マリー等)が制作に参加した、ナイーヴな男心を歌うミディアム・ロック「ハビット」、アンドリュー・ワット&アリ・タンポジの黄金タッグによるゴージャスなポップ・ソング「オールウェイズ・ユー」、自身の経験を基に、迷える若者へメッセージを届けるメロウ・チューン「フィアーレス」、1Dの3rdアルバム『ミッドナイト・メモリーズ』や4th『フォー』でも大活躍したジェイミー・スコット作の「パーフェクト・ナウ」、弱さを包み隠さず歌った「ディフェンスレス」、リアム・ギャラガーに向けたと思われるメッセージと、程好い悲旋が連なる本編ラストの「オンリー・ザ・ブレイブ」。シングル曲以外のタイトルも、ルイの個性や拘りが感じられた。
正直、キラーチューンと呼べるようなタイトルはないが、色んな意味で期待を裏切らない仕上がりではある。テンションや気分的な問題も影響せず、リラックスして聴けるアルバムではないだろうか。スティーヴ・アオキとタッグを組んだソロ・デビュー曲「ジャスト・ホールド・オン」(2016年)の路線で作れば、まったく違うアルバムになっていたことは間違いないが、逆にUKロックにシフトチェンジして正解だった。なお、その「ジャスト・ホールド・オン」は、日本盤のボーナス・トラックとして収録される予定。
Text: 本家 一成
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