2020/02/04
米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で、初登場1位に輝いた前作『レインボー』(2017年)から約2年半ぶり、4枚目のスタジオ・アルバム『ハイ・ロード』を発表したケシャ。その前作をリリースした当時は、初期のヒット曲を網羅した音楽プロデューサー=ドクター・ルークによる性的暴行訴訟が物議を醸していたが、その後は(良い意味で)大きな進展もゴシップもなく、順調にキャリアを重ねる様子が伺えた。
実際、『レインボー』については「深刻な問題を扱う必要があった」と話しているが、本作『ハイ・ロード』については「人生、愛、そして自分自身を取り戻した」と説明している。メンタル面含め、本作こそ真の“復帰作”といえるのかもしれない。
オープニング・ソング「トゥナイト」は、ピアノをバックにしっとり歌うイントロから、ラップを絡めたエレクトロ・ポップに変色するユニークなトラックで、一般認知されている“ケシャっぽさ”が全面に出たナンバー。2010年リリースのEP『カニバル』に回帰した(スリージーあたり?)印象を受ける。プロデュースは、ムーやカーリー・レイ・ジェプセン、デミ・ロヴァートなどのプロデュースで知られるスティントが担当。
昨年11月にリリースしたアルバムからの2ndシングル「マイ・オウン・ダンス」は、アコースティック・ギターの音色がアクセントになったダンス・ポップ。前作『レインボー』の発売直後に作られた曲で、当時の拭い切れない迷いや怒りといった感情を、歌詞の節々にぶつけている。制作陣には、イマジン・ドラゴンズのダン・レイノルズと、ジャスティン・トランター、ジョン・ヒルといった人気プロデューサーが参加。異人が集まるモーテルでの、不思議な人間模様を画いたミュージック・ビデオもストーリー、ビジュアル共に傑作だった。
1stシングルの「レイジング・ヘル」は、“バウンスの女王”ことビッグ・フリーダとのコラボレーション。セレーナ・ゴメスの新作『レア』や、本作と同日に発売されたルイ・トムリンソンの『ウォールズ』にも参加しているショーン・ダグラスによるプロデュース曲で、ゴスペル、EDM、バウンスなど異なるジャンルをブレンドした快作に仕上がっている。DV夫を殺害し、逃亡を図る女優を演じるミュージック・ビデオは、過去作の中で最もストーリー性に富んでいる。悪行も含めて謳歌する人生、的な……?
ファン.のネイト・ルイスとジェフ・バスカーがソングライターとしてクレジットされたタイトル曲も、ラップとボーカルを交互に使い分けた“原点回帰”に近い作り。「ハイ・ロード」というタイトルから、一見ポジティブなことが歌われているかと予想するが、フタを開けてみると世間に対する皮肉や批判的要素も含まれていることが分かる。ドリュー・ピアソンが参加した次曲「シャドウ」では一転、優しく諭すように歌うロッカ・バラードに再トライしている。ロッカ・バラードからストリート感覚のミディアム「ハニー」、コルビー・キャレイ路線のオーガニック・フォーク「カウボーイ・ブルース」と、目まぐるしく音が入れ替わる展開も面白い。
3rdシングルとして先行リリースした「リゼントメント」は、【第59回グラミー賞】で<ベスト・カントリー・アルバム>を受賞したスタージル・シンプソンと、前作~本作で大活躍をみせたシンガー・ソングライターのレイベル、そしてザ・ビーチ・ボーイズのボーカリスト=ブライアン・ウィルソンの3組がゲストとして参加した、カントリー・バラード。リスペクトしていると絶賛した彼等を全面に、自らは主張し過ぎず歌うケシャのボーカル・ワークも素晴らしい。自然体のケシャが拝める、ホテルの一室で撮影したミュージック・ビデオは、iPhoneのビデオ機能で撮られたものだそう。
ケシャらしい表現を用いたバロック・ポップ風のラブ・ソング「リトル・ビット・オブ・ラヴ」、任天堂が誇るゲームソフト『スーパーマリオ・ブラザーズ』の効果音をサンプリングしたテクノ・ポップ「バースデイ・スーツ」、シンガーソングライターで実母のペベ・セバートとの会話からはじまる「キンキー」、クラシカルなダーク・ポップ「ポテト・ソング(コズ・アイ・ウォント・トゥ)」、【グラミー賞】での思い出話が登場する、レイベルとのデュエット・ナンバー「ビー・エフ・エフ」、エモーショナルに発狂する壮大なバラード曲「ファザー・ドーター・ダンス」、リアルな自分自身を綴った「チェイシング・サンダー」と、後半もいい曲が連なっている。
本作のインタビューで、「過去に縛られるつもりはないけど、過去から学ぶことはある。過去があるから今の私は幸せだし、この幸せが続くことを願ってる」と話していたケシャ。歌詞や開放感あるボーカルからしても、諸々振り切った様子が伺えた。大ヒット作『アニマル』(2010年)や『ウォーリア』(2012年)も無論良いが、創り上げられた感が一切ない、彼女の本質を表現した作品という意味では、本作に勝るアルバムはない。
Text: 本家 一成
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