2020/02/03
リル・ウェインについて「過去の人」扱いするような記事を度々目にするが、今も第一線であることを訂正しておこう。2018年9月にリリースした前作『カーターV』は、翌10月13日付米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で、48万を超えるユニット数を記録してNo.1デビューを果たした。2018年の記録としては、ドレイクの『スコーピオン』(732,000)、トラヴィス・スコットの『アストロワールド』(537,000)に次ぐ、3番目に高い週間ユニット数。年配層だけでは獲得し難いストリーミングが、これだけ支持されているということからも、今なお現役であることが分かる。
本作『フューネラル』は、その大ヒット作『カーターV』以来となる新作で、正式なスタジオ・アルバムとしては通算13枚目の作品。同チャート最高3位を記録したデビュー作『ザ・ブロック・イズ・ホット』から20年が経過したワケだが、人気のみならず、楽曲のクオリティや独自のセンスも決して衰えていない。
昨年夏の時点で既に「アルバムは完成している」とSNSで公言していたため、サプライズ・リリースではなかったが、先行シングルのプロモーション等は行われていない。収録曲は全24曲、76分を超える大作で、ゲスト~プロデューサーも若手からベテランまで、幅広く揃えている。
ストリングスを不気味に響かせ、“葬儀へようこそ”の挨拶からはじまる「Funeral」、キャリアを支えてきたマニー・フレッシュによるプロデュース曲「Mahogany」、故2パックの「Hail Mary」(1997年)を一部使用した超ヘヴィトラック「Mama Mia」と、冒頭から休む間を与えない。宗教を皮肉ったり、警察を罵ったり、性的放縦のフレーズが飛び出したりと、歌詞の方もヘビー級。
4曲目の「I Do It」は、ビッグ・ショーンとリル・ベイビーによるコラボレーション。ビッグ・ショーンとは、他アーティストの作品含め多曲でコラボしているが、リル・ベイビーとは意外にも同曲が初の共演。世代の異なる3者が畳みかけるようにラップする展開には息を呑む。ドラッギーな状態を綴った、米NYのソングライター・デュオ=キネティクス&ワン・ラヴとの共作「Dreams」~マンブル・ラップ風の「Stop Playin with Me」、ザ・ショーボーイズの「Drag Rap」(1986年)をサンプリングした、バウンス・スタイルの「Clap for Em」。ここまでも、攻めの姿勢を緩めない。「Clap for Em」は、ミーク・ミルやボビー・シュマーダの作品で知られるジャリル・ビーツがプロデュースを担当している。
8曲目の「Bing James」は、ジェイ・ロックをゲストに招いたトラップ。この曲には、アルバムの発売5日前にヘリコプターの墜落事故で死去したレイカーズのスーパースター=コービー・ブライアントへの追悼の意が含まれている。アウトロに24秒のインターバル(無音)があるのは、彼の現役時代の背番号「24」を意味してのもの。次曲「Not Me」では、2015年に自身のツアーバスを銃撃されたことについて歌っていたりと、メッセージ性の高い曲が続く。マルーン5のアダム・レヴィーンがコーラスを歌うメロウ・チューン「Trust Nobody」も、長いキャリアを積み重ねた両者だからこそ説得力のある、苦労や見解が伺えた。
2016年にコラボレーション・アルバム『ColleGrove』を発表したこともある2チェインズとは、808・マフィアが手掛けた「Know You Know」で再タッグ。NBAの名手、ジェームズ・ハーデンの名前を引用したカニエ流のレトロ・ソウル「Harden」、ミーゴスのテイクオフが参加したレゲエっぽいテイストのトロピカル・チューン「I Don't Sleep」、ザ・ドリーム特有の浮遊感を活かしたドリーミーなミディアムR&B「Sights and Silencers」と中盤も傑作揃い。
同<キャッシュ・マネー>所属のお騒がせラッパー、リル・トゥイストをフィーチャーした「Ball Hard」、米マイアミのプロデューサー・チーム=クール&ドレ―が担当した、自身の“生い立ち”を皮肉って歌う「Bastard (Satan's Kid)」、故エクスエクスエクステンタシオンが生前残した「Get Outta My Head」、マニー・フレッシュが手掛けた、ソフト/ハードの二部構成による「Piano Trap」、ボースト的なニュアンスが含まれている、マーダー・ビーツ作の「Line Em Up」、長年解決されない世界の紛争やその予兆を匂わす「Darkside」、リリックも比較的柔らかい印象を受ける、ボーカルがメインの哀愁系ミディアム「Never Mind」、米ロング・ビーチ出身のラッパー=O.T.ジェナシスが参加した「T.O」と、後半は内容・トラック共にずっしり重たい。ラストは、トラヴィス・スコットの大ヒットナンバー「SICKO MODE」が登場する「Wayne's World」で幕を閉じる。
1982年9月27日生まれ 、米ルイジアナ州ニューオーリンズ出身。1997年にヒップホップ・グループ=ホットボーイズとしてデビューし、1999年に前述の『ザ・ブロック・イズ・ホット』でソロデビューを飾った、リル・ウェイン。全米アルバム・チャートでは、これまで14枚のアルバムがTOP10入りし、うち4作がNo.1を記録している。キャリア25周年を目前に、本作で5作目の首位獲得を果たすか。2020年代の活躍にも期待を寄せる。
Text: 本家 一成
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