2020/01/27
公園の豊かな緑に抱かれたホールへと続く道から、物語は始まっていた。藤井フミヤの今年初のツアー「PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2020 藤井フミヤ meets 西本智実」が幕を開けたのは、千葉県松戸市の「森のホール21」。遠方から駆けつけたファンも多く、会場が近づくにつれて膨らんだ期待が、場内を包み込んだ。前奏曲にアレンジされた「Another Orion」が西本智実の指揮棒から流れ出すと、観客の胸の高鳴りも頂点に達した。
黒一色のタキシード風の衣装をまとった藤井は、そんな空気を全身で受け止め、静かにマイクの前に立った。表情は少し硬い。ビルボードクラシックスでのツアーも4回目を数える藤井をしても、西本智実との共演は特別なステージだ。「やや緊張しています」。冒頭の3曲を歌え終えると、藤井は率直にそう口にし、会場の空気を解きほぐした。
「ショートムービーを見るような気持ちで聴いてほしい」と語りかけた藤井の狙い通り、すぐに伸びを取り戻した藤井の声に弦の音が柔らかく寄り添い、ドラマチックなストーリーが展開された。3年ぶりにリリースしたアルバム『フジイロック』収録の新曲「フラワー」から、“鉄板”の「TRUE LOVE」、令和も平和な時代でありますように、との願いを込め選曲したという「鎮守の里」まで。それぞれのナンバーを丁寧に歌い込む姿に吸い込まれるかのように、観客の表情が和らぎ、楽曲の世界に入り込んでいく。西本が芸術監督を務めるイルミナートフィルハーモニーオーケストラとの息もぴったりだ。
圧巻は最終曲の「夜明けのブレス」。曲の途中、西本がオケの音を最小限に絞ると、藤井はマイクを離れ、生の声で歌い出した。情感あふれる肉声に涙を抑えきれなくなった客席は、最後の音が消えた瞬間、1拍の静寂を置いて、うねるような拍手で熱演を讃えた。
ドラマはしかし、まだエピローグを迎えてはいなかった。アンコールに応え、再びステージに現れた楽団が奏で出したのは、クラシックの王道、歌劇「トゥーランドット」の劇中曲「誰も寝てはならぬ」だ。プッチーニの名曲をアレンジしたメロディーに藤井の詞を乗せ、現代のアリアを誕生させた。トゥーランドット姫とカラフのストーリーを下地に、壮大な愛を歌い上げた藤井に、満席の客がスタンディングオベーションを惜しみなく送り続けた。
“せっかくだから、オペラのアリアをアレンジしてみては”と藤井に勧めたという西本との軽妙なやり取りも、アンコールでのサプライズとなった。クラシックとポップス、2つの世界でトップを走り続ける2人が編んだ美しい物語の余韻は、森から街へと帰る観客たちを包み込み、響き続けたに違いない。
ツアーは今後、東京(2/5、2/13、3/3、3/4)、大阪(2/9)、西宮(3/8)と、森を出て都会へと繰り出す。それぞれの地で、どんな物語が紡ぎ出されるか、今から楽しみだ。
◎公演情報
【billboard classics PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2020 藤井フミヤ meets 西本智実】
2020年1月25日(土)千葉・松戸・森のホール21大ホール ※終了
2020年2月5日(水)東京・東京芸術劇場 コンサートホール ※残席僅少
2020年2月9日(日)大阪・フェスティバルホール ※完売
2020年2月13 日(木)東京・Bunkamuraオーチャードホール ※完売
2020年3月3日(火)東京・東京芸術劇場 コンサートホール ※残席僅少
2020年3月4日(水)東京・東京芸術劇場 コンサートホール ※完売
2020年3月8日(日)兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール ※完売
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