2020/01/16 12:30
カンパイ!――ステージに上がるなり、完璧なイントネーションでロックグラスを高く掲げると、人懐こい表情でマイクに声を発する。
すっかりジャパン・フレンドリーなミュージシャンになったレイ・パーカーJr.が、1年ぶりに還って来てくれた大阪と東京の『ビルボードライブ』。閃きに満ちたリズム・カッティングは、もちろん健在――と言うより、より磨きが掛かった印象のステージでは、ポップなメロディとメロウなサウンド・テクスチャー、そしてリラックス&ダンサブルなグルーヴが結びついた、洗練されたブラック・ミュージックを聴かせてくれた。
夜の帳が下りた時刻に始まった東京の初日、セカンド・ステージ。余裕を感じさせる振る舞いで定位置に着いたレイがバンドの演奏に合わせてテレキャスターを鳴らし始めると、会場が一気に躍動していく。しかし、それも束の間。次の瞬間、グッとペースを落とした演奏は、レイドバック感すら漂う。そんな、くつろいだリズムを刻みながら、観客の反応に笑みを浮かべる彼は、振り返りながらアイコンタクトでメンバーを統率していく。
めくるめくアーバン・メロウの夜――。
滑らかなサウンドによって紡がれるスウィート&ラグジュアリーなメロディ。心地好い隙間を縫って呟かれるダルでセクシーなスモーキー・ヴォイス。演奏する彼らの背中に広がる摩天楼のイルミネイションが、まるで覗き込んだ万華鏡のようにキラキラと輝きを変えていく。
両脇に鍵盤、背後にリズム隊を配し、初っ端から立て続けにリラックスしたナンバーを披露する今宵のレイ。セカンド・ショウだからか、ほのかにアフター・アワーズっぽい空気さえ漂わせ、曲間には氷の融け始めたウイスキー・グラスを手にしながら、小気味良いリズムを刻む。枯れた味が増してきた歌声。これまでになく親密な表情を見せながら観客とのコール&レスポンスを楽しむ。まるでキャリアの総決算と言ってもいいほどのセット・リストで会場を沸き立たせていく。
1954年デトロイトで生まれのレイ・ハーカーJr.は、幼いころからモータウンのファンク・ブラザーズに憧れてギターを手に。70年代初頭からプロとしてレコーディングに加わり、同年代半ばには売れっ子のセッション・ギタリストとしてスティーヴィ・ワンダーのバンド・メンバーを筆頭に、バリー・ホワイト、チャカ・カーン、アリサ・フランクリン、ボズ・スキャッグス、ハービー・ハンコックといった“時代を代表する”ミュージシャンのレコーディングに参加し、評価が急上昇。黒人音楽のトレンドが、いわゆる“ニュー・ソウル”からブラック・コンテンポラリー/AORにシフトしつつあった70年代後半に自身のバンド「レイディオ」を率いてデビューした彼は「Woman Needs Love(Just Like You Do)」(81年)や「Ghostbusters」(84年)といった大ヒットを飛ばし、メジャーな存在に。アーバン・ブラックのダンス・グルーヴには欠かせない存在として、ソウル、ジャズ、ロックを股に掛け、80年代のリズム/グルーヴを牽引していった。
いわゆる“ブギー”というキーワードで80年代のファンク/ディスコ・グルーヴが再評価されている近年。キレのいいリズム・カッティングが再注目され、新世代のダンス・グルーヴにも取り入れられている。そんな“追い風”をたっぷり受け、20世紀は尖っていたレイも、ヒット曲を連発し、若い世代からリスペクトされるようになってからは余裕が滲むようになり、人当たりのいいステージを展開している。何よりも本人が楽しんでいる様子が伝わってくるのが嬉しい。
レイディオとしてのメンバーも、ピアノ奏者以外は昨年と同様で、まさに鉄壁の7人。気心知れた仲間との、阿吽の呼吸が感じられる演奏は手応え充分。気がつけば、胸元のボタンを1つ外した僕は、心底リラックスしてライヴを楽しんでいた。
ステージの進行に合わせて少しずつBPMを上げてきた中盤には、ギターを置いてフロアに降りたレイが、“女性には愛が必要”だと1人ひとりに歌いかけていく。押し引きを心得た絶妙のライヴ・マナーは、80年代に“女殺し”と囁かれた彼の面目躍如。
それにしても。ミディアム~スロウなナンバーで聴かせる、独特のスモーキー・ヴォイスは、まるで、うなじをフェザー・タッチで撫でるような肌ざわりが、ときにセクシュアルに感じられるほど。シンセによって奏でられるメロディも、どこか浮世離れしていて、僕たちを世知辛い日々からゆっくり遠ざけてくれる。決して現実逃避ではないけれど、彼らの音楽に包まれていると、身体が重力から解きほどかれ、深くリラックスしていくのがわかる。
終盤はJB~P-FUNKマナーの間奏を経て、ソリッドなロック・チューンや、跳ねるスラップ・ベースに合わせたディスコ/ファンク・グルーヴが炸裂し、観客は総立ちに。カジュアル・エリアでは、カップルが一心不乱に踊っている。
また、アンコールではバンドと一緒に、会場に詰めかけた全員が“幽霊退治”を呼びだして……。さらにはリリース間近のアルバムから新曲も披露し、親密で人懐こくてレイドバックした85分のステージを繰り広げてくれた。
大阪でも好評だったレイ・パーカーJr.&レイディオのライヴは、今日(16日)も東京で2ステージ行われる。酸いも甘いも噛み分けたアダルトなカップルには定番に違いない彼らの楽曲は、もはや“大人のサウンドトラック”と言って差し支えない。新しいディケードの始まりでもある2020年のキックオフを祝うにふさわしい彼らのサウンドを全身で感じて。「成熟の時代」をスタイリッシュに歩んでいくためにも、ぜひ!
◎公演情報
【レイ・パーカーJr.&レイディオ】
<ビルボードライブ大阪>
2020年1月13日(月・祝)※終了
<ビルボードライブ東京>
2020年1月15日(水)※終了
2020年1月16日(木)
1st ステージ 開場 17:30 開演 18:30
2nd ステージ 開場 20:30 開演 21:30
URL:http://www.billboard-live.com/
Photo:Yuma Sakata
TEXT:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。南アフリカの「ピノタージュ」や日本の「マスカットベーリーA」など交配種で造られるワイン。その中でも最近、とても気になっているのが「マルセラン」と呼ばれるハイブリッド種。カベルネ・ソーヴィニョンとグルナッシュを掛け合わせた南仏の固有種で、濃厚なベリー色とブドウそのものを食べているような濃密な果実味、そして力強い味わいが特徴だとか。寒い時季にジビエと一緒に試してみたいこの赤ワインは、立春を迎えるまでにトライするのが“ノムリエ”としての今年最初のミッション。『ビルボードライブ』のワインリストに載せてくれないかなぁ(笑)。
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