2020/01/15
色んな意味で凄い。特に、我々“昭和生まれ”にとっては「時代も遂にここまできたか……」と、頷くしかないというか。何せ「I'm Poppy」と約10分、言い続ける動画が2,000万視聴を突破し、一躍ポップ・シンガーとして3枚ものアルバムを出してしまうのだから。
米マサチューセッツ州ボストン生まれ、テネシー州ナッシュビル出身。2020年の元旦に25歳のバースデーを迎えたばかりのポピーことモライア・ローズ・ペレイラは、そういった奇抜で画期的なアイデアのビデオからキャラ立ちし、2015年に「Everybody Wants to Be Poppy」でミュージック・シーンにも登場。2018年、ディプロをフィーチャーした「Time Is Up」や「X」などが話題を呼び、同年10月にリリースした2ndアルバム『アム・アイ・ア・ガール?』で本格的なミュージシャン活動をスタートさせる。
本作『アイ・ディスアグリー』は、その『アム・アイ・ア・ガール?』から約1年ぶり、3作目となるフル・アルバム。“KAWAII”がウリの前2作からは一転し、釘を串刺しにしたコープス・ペイントによるカバー・アートからして、攻めまくっている。アルバムの基となるのも、アートに直結したロック、メタル、インダストリアルといったサウンド。そこに、ポピー独自の“カワイイ”要素を上手く盛り込んでいる。故に、“がっつりメタル”なアルバムではないが、キュートなバブルガム・ポップ~エレクトロが主だった前3作(EP『3:36』含む)と並べると違和感は満載だろう。
その心境を示しているのが、アルバム・タイトルである「I Disagree」。タイトルが示している通り、何か(誰か)の意見に反する旨を綴った曲で、オープニングでは「ワタシハアナタニドウイシマセン」と日本語で不気味に囁いている。
ミュージック・ビデオがまた、コワイ。(おそらく)レーベルのお偉いさんと思われる男達とテーブルを囲い、「圧力なんかに屈しない(同意しない)」とつぶやいたり、彼等を床にひとまとめし、上からガソリンをふりかけ「全部燃やす」と威迫。これを観るかぎり、本作の完成までによほど腑に落ちないことが続いたのだと推測される。もはや、KAWAII要素なんぞクソ食らえといったところか?
アルバムと同日にミュージック・ビデオが公開された「Anything Like Me」も驚異的。「何かが乗り移ったから、おかしなことを言うかもしれない」という歌詞や、真意については多くを語らないというコメントから、ここでいう“彼女”とは2018年に訴訟を起こしたマーズ・アーゴを批判しているのだと思われる。これは、両者のディレクターであるタイタニック・シンクレアを巡ってのものだが、この曲を聴くかぎり、経過は穏便にはいっていないことが伺える。ロックとホラーを掛け合わせたビデオも強烈。
11月にリリースした先行シングル「Bloodmoney」は、“キリスト”や“悪魔”といったワードから、信ずるもの~死について等、宗教的要素が含まれている。ノイズの入り混じったエレクトロ・メタルをバックに、叩きつけるようにシャウトするポピーの凄みは、以前までの彼女のキャラからは到底考えられない。上下黒を纏った男共をぶった切っていく、悪魔祓い(?)的なMVも面白い。
昨年8月にリリースされた1stシングル「Concrete」は、メタリーなイントロからキャンディ・ポップ風のサビ激変し、インタールードではギターを唸らすヘヴィなミディアム・ロックに転調、ラストはエイティーズ・ポップ……と、全編通して相当取っ散らかっている。ひっちゃかめっちゃかではあるが、不思議とひとまとまりになっているから、それもまた凄い。歌詞からは読み取りにくいが、おそらく迷走期なのだろう。
4曲目のシングル「Fill the Crown」は、近未来的なデジ・ロック。ドイツのロック・バンド=ラムシュタインや、マリリン・マンソンに影響を受けたものだと話していて、ビデオでも顔面白塗りの不気味な男を起用する等、それっぽい雰囲気を醸している。このテのヘヴィなサウンドに、ポピーのキュートな声が妙にフィットするのは対比効果、なのか(?)。バック・ボーカルには、熱愛が囁かれている米LAのラッパー、ゴーストメインが含まれているとの噂も……。
5曲のシングルとは温度差のある、ドリーミーなミディアム・ポップ「Nothing I Need」、自身の経験を元に、業界の実態とシンガーを目指す若者に待ったをかける「Sit / Stay」、本作中で最もシャウトを炸裂させるヘヴィ・メタル「Bite Your Teeth」、精神疾患と思われる自身と向き合ったメロウ・チューン「Sick of the Sun」~その続編ともいえる“引きこもり状態”を生々しく画いた6分越えの大作「Don't Go Outside」と、シングル曲以外のタイトルも充実。
本作を初聴した時、メタルやハード・ロック的な……というよりも、2019年の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”を制したビリー・アイリッシュの『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』を連想した。ウィスパー・ボイスや“病んでる感”含め、寄せたようなニュアンスもいくつかみられる。流行に則り、大きな転身を図った今こそ、ポピーがアーティストとして注目されるチャンスといえる、かも?
Text: 本家 一成
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