2020/01/23
現在17歳のラップ・アーティスト、さなりの初となるワンマン・ツアー【さなり 1st LIVE TOUR「SICKSTEEN」】。当初は計6公演が予定されていたが、チケットが発売開始されるやいなや即日完売、追って北海道、大阪、東京の3都市での追加公演が決定した。そして迎えた2019年12月23日、スタンディングで1,200人を収容できるマイナビBLITZ赤坂で開催された東京追加公演は、自身最大キャパシティを更新する単独公演でありながら、例に漏れずこちらもソールドアウトの満員状態。右肩上がりで高まり続ける注目度を裏付ける形となった。
とりわけ会場を埋め尽くしたのは、若く熱量の高いロイヤルなファンたち。さなりがステージに姿を現した瞬間、1曲目の「Find Myself」を歌い出した瞬間、曲中のキメの瞬間、その一挙手一投足に熱視線が注がれ、その都度、悲鳴にも似た歓声が上がった今回のステージは、いかに彼が同年代、いわゆるZ世代やネオ・デジタルネイティブ世代にとってのスターであるかを改めて実感させるものだった。加えて、そんな会場の連帯感が、「タカラモノ」や「BLUE」といったナンバーのメロディアスなフロウや高揚的なサウンドと相乗して、幸福中枢をガンガン刺激する祝祭感へと早くも昇華した冒頭は、助走なしでフロアをアゲにかかるロケット・スタートであり、ツアーの日々で着実に積み重ねてきたパフォーマーとしての自信がひしひしと伝わってくるオープニングでもあったのだ。
縦ノリの滑り出しから一転、杉本雄治(WEAVER)プロデュースの「Mayday」からはサウンドの圧を抜き、軽やかな横揺れのダンス・タームへ。ただ、さなりが歌うメロウなナンバーは、トレンディかつ洗練されたプロダクションなのにヴォーカル・メロディがひたすらキャッチ―で普遍的なポピュラリティを宿しているという二面性が魅力で、そのことを特に強く感じさせたのが「unknown」「FREE STYLE」「もっと」を繋げたメドレーだ。しかも、「unknown」「FREE STYLE」の2曲はセルフ・プロデュースであり、久保田利伸やKREVAからヒプノシスマイク、Lyrical Schoolまでを手掛けるALI-KICKを迎えた「もっと」にも決して聴き劣りしないウェルメイドな仕上がりなのだから、業界がその才能に注目するのも頷ける。
そう、今回のライブで顕著になったのは、外部プロデューサーがそれぞれ味付けした楽曲も表情豊かに歌いこなすヴォーカリスト/ラッパーとしてのスキルと、セルフ・プロデュースの楽曲で表出するソング・ライティングやプロダクションのセンス、その二つの能力値の高さだ。何しろ彼は2019年、多彩なプロデューサー陣を迎え、彼自身「やりたい音楽を全て詰め込んだ」と手応えを語り、今回のツアー・タイトルにも掲げられているデビュー・アルバム『SICKSTEEN』のみならず、全編セルフ・プロデュースの宅録アルバムや多数シングルを発表してきており、この日のセットリストもそれらが入り混じったものだったのだ。
「皆さんのおかげで僕の夢が広がっていった。そんなたくさんの夢を歌った曲」として紹介された「Dream」と続く「Memory」は、ダンサンブルで躍動的な前半のパフォーマンスから、スタンド・マイクでの歌唱に切り替え、グッと歌そのものにフォーカス。シルキーな歌声の美しさも際立っていた。ミラー・ボールの輝きのもとドラマティックに歌い上げられた次の「Life goes on」などは、彼のメロディ・メーカーとしての真価が存分に発揮された一幕だったと言っていい。
SKY-HIがきっかけでラップに目覚めたというさなりも、ヒップホップのみならず、歌モノのJ-POPからボカロまで、嗜む音楽は幅広く、自身のクリエイテビティにおいても多彩なアプローチに取り組んでいるため、そのレパートリーには多様なナンバーが揃っているが、その中でも「I AM ME」や「悪戯」の刺激的なリリックやポスト・トラップ時代に共振する攻めたプロダクションはとりわけ異彩を放っている。そもそもさなりのライブは、彼自身のラフで自然体な人柄がそのまま反映されたような、自由と相互理解の歓びに満ちた世界なのだが、「I AM ME」と「悪戯」、そしてミクスチャー・ロック然とした「キングダム」までは、そんな親密ムードを断ち切り、気さくなキャラクターの裏側にあるアグレッションが鋭いフロウで表現された3連打であり、「こんな魅せ方もできるのか!」という驚きと発見をもたらしたセクションでもあった。
デビュー・シングル『悪戯/キングダム』(2018年10月)のリリースに端を発し、彼がこの1年数か月でばら撒き続けた可能性の布石が、一つひとつ輝きを放っていくような、そんな黎明と発展の興奮が続いた今回のライブ。普段は許可している撮影も本編限定で禁止していたが、それはまさしくカメラ越しでは絶対に体験できない昂ぶりであり、極めつきは本編ラスト、タオル旋風からバウンス祭り、そして最後の大合唱でクライマックスを迎えた「BRAND-NEW」では、AIではなく生身の人間同士、インターネット経由ではなく同じ空間を直に共有した人間同士でしか作り上げることができなかった、この日その場限りのかけがえない時間を生み出していたと思う。
Text by Takuto Ueda
Photo by 橋本塁(SOUND SHOOTER)
◎公演情報
【さなり 1st LIVE TOUR「SICKSTEEN」追加公演 東京】
2019年12月23日(月)
東京・マイナビBLITZ赤坂
<セットリスト>
01. Find Myself
02. タカラモノ
03. BLUE
04. Mayday
05. メドレー(unknown / FREE STYLE / もっと)
06. Dream
07. Memory
08. Life goes on
09. Pride
10. I AM ME
11. 悪戯
12. キングダム
13. Prince
14. BRAND-NEW
-En-
15. Flow love
16. SAILOR
17. 嘘
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