2019/11/29
カタカナのタイトル・ロゴに、トヨタ・セリカの真っ赤なクラシック・カー。白のセットアップにLP盤を再現した淡い背景……と、これぞ“ジャケ買い”したくなる代物。ベックの新作『ハイパースペース』は、音を聴かずともお洒落でイケてることがわかる。
本作は、2年前の2017年10月に発表した13作目『カラーズ』に続く、通算14枚目のスタジオ・アルバム。インディー・レーベルからリリースしたデビュー作『ゴールデン・フィーリングス』(1993年)から間もなく30年目を迎えるわけで、いつの間にか長いキャリアを築いてきたベックだが、保守的な若層にイノベーションを起こすべく、バイタリティ溢れる作品を今も作り続けている。
アルバムは、全曲をベック自身が制作し、共同プロデューサーにはファレル・ウィリアムスを迎えている。主にヒップホップやR&B系のアーティストをヒットさせてきたファレルだが、ファンク、ロック、時にはカントリーを用いて自己流にアレンジしてきた楽曲の歴史を振り返れば、両者の共演は不思議でもないし、意外性もない。むしろ「合うだろうな」という感じだ。
今年4月に先行リリースされた「ソウ・ライトニング」なんかは、完全にファレルにもっていかれてる。クレジットがなくても、大半のリスナーにはバレちゃうんじゃないかな。お馴染みのサウンド・プロダクションではあるが、凄いのはこの曲をどうジャンル分けすればいいか解らないこと。ファンク?オルタナ・ロック?シンセ・ポップ?何とでも言えなくはないが、結局は「ファレルの曲」としか表現できない。
その一方で、クレジットのない次曲「ダイ・ウェイティング」を聴いてみると、当然だがその要素は一切感じられない。ファレルの作る音というのは、それだけ存在感があるということだ。それを自己流にアレンジし、自分のものにしちゃうベックも凄いんだけど。ちなみにその「ダイ・ウェイティング」を手掛けたのは、12thアルバム『モーニング・フェイズ』~『カラーズ』にも参加した、米LAの音楽プロデューサー=コール・M.G.N.。また、モデルや女優業もこなす女性シンガーのスカイ・フェレイラが、デュエット・パートナーとして参加している。
「ダイ・ウェイティング」以外には、“ファレル寄り”にしたエレポップ「シー・スルー」に、昨今のヒット曲には欠かせない売れっ子グレッグ・カースティンが、うねりを効かせた70's風ファンク「スター」には、アデルやマルーン5などの人気アーティストを多数手がけるポール・エプワースが、それぞれクレジットされている。その他の楽曲はベックとファレルによるものだが、ドラムを強調したタイトル曲「ハイパースペース」のみ、テレル・ハインズという米LAのニューカマーがゲスト&ソングライターとして参加している。
アルバムは、はじまりを予兆させるスペイシーなイントロ「ハイパーライフ」から、前月にリリースされた先行トラック「アンイヴェントフル・デイズ」で幕を開ける。「アンイヴェントフル・デイズ」は、マリンバとビブラフォンの音色が跳ねる、ファレルらしいシンセ・ポップで、「平穏」を良くも悪くも表現した歌詞が何かこう、グっとくる。様々な人間模様を描いたミュージック・ビデオは、ブラッド・オレンジ名義のアルバム『エンジェルズ・パルス』をリリースしたばかりの、デヴ・ハインズが監督を務めた。
個人的には本作イチだった「ケミカル」は、難解な歌詞とリンクする膨大なエフェクトとシンセサイザーを組み合わせたミディアム。コード進行がもろファレルって感じなのはご愛敬。エレクトロ色を抑え、アコギをフィーチャーしたメロウ・チューン「ストラトスフィア」には、奇遇にも(?)同日に新作『エヴリデイ・ライフ』をリリースしたコールドプレイのクリス・マーティンがコーラスとして参加している。ソングライターのクレジットはないが、これも“コールドプレイまんま”という感じがしないでもない。
雰囲気としては2000年代初期あたりの作風に近い「ダーク・プレイシズ」は、悟りを開いたような世界観に“良い意味で”年の功を感じた。リリース直前に解禁された「エヴァーラスティング・ナッシング」は、本編のラストを飾るに相応しい壮大なアコースティック・メロウ。こっちは、前述の『モーニング・フェイズ』っぽい雰囲気を醸している。ボーナストラックとして収録された「ソウ・ライトニング(フリースタイル)」も、ハーモニカを吹き鳴らす60年代っぽい感じが、原曲とはまた違う良さがあっていい。
ファレルは御年46歳、ベックは来年の夏に50歳のバースデーを迎えるわけだが、年代、国を超えても「斬新なの作ってんな~」って唸らせちゃうのが、この2人の凄いところ。まあ、サウンド的には相も変わらず的な感じもしなくはないが、イコール時代遅れとかそういうことではない。彼らのサウンドは其々確立されていて、その2人が融合したというのは、ある意味斬新な取り組みだった。
Text: 本家 一成
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