2019/11/27
今から37年前の1982年10月27日にリリースされた、プリンスの5枚目となるスタジオ・アルバム『1999』。前4作も、作品としてのクオリティが高いことは言うまでもないが、商業的な成功という意味では、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で初のTOP10入り(最高7位)した本作が、彼の出世作にあたる。この1年半後、かの有名な『パープル・レイン』(24週1位)のモンスター・ヒットが生まれるワケだが、その成功も本作『1999』あってのもの。
アルバムからは、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で自身初のTOP10入りを果たした「リトル・レッド・コルヴェット」(6位)、2曲連続のランクインとなった「デリリアス」(8位)はじめ、ライブでも人気のタイトル曲「1999」(最高12位)や、7分超えの大作「夜のプリテンダー」など、シングルが立て続けにヒット。MTVを活用したプロモーションも、同年にリリースされたマイケル・ジャクソンの『スリラー』に先駆けた斬新な取り組みだった。
過激な表現の連発と、カッティング・ギターが入り乱れるシンセ・ファンク「D.M.S.R.」~「オートマティック」、社会情勢か人間関係か、こじらせた“何か”について発狂する大胆なテクノロジーの「サムシング・イン・ザ・ウォーター」、「ドゥ・ミー・ベイビー」や「パープル・レイン」にも匹敵するお得意のファルセット・バラード「フリー」等、シングルカットしたタイトル以外の楽曲も傑作揃い。後の作品を彷彿させるサウンド・プロダクションの「レディ・キャブ・ドライヴァー」や、トリを飾るジャジーなバラード曲「インターナショナル・ラヴァー」もすばらしい。
『1999』に収録されたそれらの楽曲は、前年の1981年末~82年の夏までに制作・レコーディングされたという。全11曲と通常のアルバム・サイズではあるが、1曲それぞれの尺が長く、自身初の2枚組アルバムとして発表することになった。これについてプリンスは、発売直後のインタビューで「2枚組のアルバムを作りたくはなかった。でも曲を書き続けた。いつもソングライティングをドアから入ってくる女の子のように思うんだ。どんな風なルックスかわからない。ただ突然、彼女は現れるんだ」とコメントしている。
とはいえ、“入ってくる女の子”とやらを誰しも受け入れるワケにもいかず、当然お蔵入りとなった楽曲もあるはず。完璧主義者のプリンスがコンセプトを考慮して除いたものもあるだろうし、レーベルの厳しい見立てにより除外された作品もあると思われる。当時は、自身がプロデュースしたガールズ・ユニットのヴァニティ6や、ミネアポリスのファンク・バンド=ザ・タイムの楽曲制作もあり、年間どれだけの曲が生み出されたかは数知れず。その中から厳選された11曲と思うと、それはそれで感慨深い。
この度『スーパー・デラックス・エディション』として再リリースされた本作には、『1999』のレコーディングとほぼ同時期の81年~82年当時に作られたであろう、未発表音源35曲が収録されている。『1999』に漏れた曲…という捉え方もできるが、クオリティの程は然程劣っていない。
DISC1には、前述でご紹介したアルバム『1999』のリマスター・バージョンが収録されている。本作がリマスターされるのは初の試みで、ファンの間ではリリース前から大きな話題となっていた。DISC2には、本作に収録されたタイトルのプロモ―ション・シングル、シングル・エディット、リミックス等の別バージョンに加え、「1999」のB面曲「つめたい素振り」と、「デリリアス」のB面曲「ホーニー・トード」、「夜のプリテンダー」のB面曲「あきれた女」が収録されている。いずれも1993年にリリースされたベスト盤『ザ・ヒッツ&Bサイド・コレクション』に収録されているが、リマスターされるのは本作が初。
「つめたい素振り」は、2001年にアリシア・キーズがデビュー作『ソングス・イン・A・マイナー』でカバーし、後の世代にも知名度を高めたムーディーなジャズ・トラック。ファルセットと地声を交互に使い分けたボーカルも聴きどころで、本編(1999)とはまた違った一面が垣間見える。次作からの大ヒット曲「レッツ・ゴー・クレイジー」に繋げるスピード感溢れるファンク・ポップ「ホーニー・トード」や、体臭をまき散らすデジタル・ファンク「あきれた女」も、B面曲にしておくのは惜しい代物。Bサイドの楽曲陣をみても、81~82年当時のプリンスが、いかに脂が乗っていたかが伺える。
7インチ・エディットは、ほぼ“マニア向け”のアイテムといってもいい。シングル盤とアルバム・バージョンの違いについては「わかる人には分かる」といった程度だが、それだけ貴重な音源ともいえる。特に、8分を超える「リトル・レッド・コルヴェット」ダンス・ミックスと、「オートマティック」のビデオ・ヴァージョンはレアもの。これらも当然お値打ちモノだが、DISC3とDISC4に収録された秘蔵音源こそ、本作の目玉といっても過言ではないだろう。
DISC3に収録されたタイトルは、1981年の11月~82年4月の約半年間に録音された未発表曲。冒頭の「フィール・ユー・アップ」は、1989年にリリースされた『バッドマン』からのシングル「パーティーマン」のB面曲として収録されているが、機械的にアレンジされた89年Ver.とはまた違う、当時のプリンス・サウンドを基としたメタリック・ファンク調に仕上がっている。「マネー・ドント・グロウ・オン・トゥリーズ」や次曲「ヴァギナ」は、シンセによる音色を薄め、繊細なギター・リフで綿密に組み立てていくファンク・チューン。風通しの良いグルーヴ感は、 前作『コントラヴァーシー』のカラーに近い。どちらもライブ映えしそうではあるが、少々インパクトには欠けるし、『1999』には収録されなかったのも納得できる。キャッチ―な旋律の「ユアー・オール・アイ・ウォント」も、その路線。
ラップを絡めたミネアポリス・ファンク「リアレンジ」は、インタールードで聴かせる切れ味の鋭いカッティングギターにずっと浸っていたくなる、中毒性の高いの傑作。前3曲とは対照の、ロック色を薄めた涼やかなグルーヴの「ボールド・ジェネレーション」は、ピアノと重めのベース音がアクセントになったディスコ・ファンク。どちらも「プリンスの曲」って瞬時に印象付けるのに、それぞれに個性があり、カメレオンのようにカラーを変化させてしまうから凄い。この時期は、『パープル・レイン』直前の仕事ということもあり、特にその業が神がかっている気がする。シンセのチープっぽさが良い意味でインディーっぽい感触の「ターン・イット・アップ」や、後にファン投票にも挙がった「イフ・イロー・メイク・ユー・ハッピー」も、お蔵入りにするには相当勿体ない。
DISC4には、1982年の4月から翌83年1月までに録音された未発表曲を収録。先行配信された「ドント・レット・ヒム・フール・ヤ」は、自身が手掛けたザ・タイムの「クール」(1981年)あたりを彷彿させるナンバーで、ファルセットで統一したフェミニンなボーカルと、肉厚なミネアポリス・ファンクとの相性が抜群。この曲や、都会的なミディアム・メロウ「ムーンビーム・レヴェルズ」、プリンスらしさというよりは、当時の流行をしっかりおさえて制作したような印象を受ける「ドゥ・ユアセルフ・ア・フェイヴァー」なんかは、これまで眠らせていたのが不思議なくらいの佳曲ではないだろうか?
一方、キーボードの音色をフィーチャーした10分超えの大作「パープル・ミュージック」や、ファニーなエイティーズ・ポップ「ヤー・ユー・ノウ」、ちょっと気恥ずかしくなるアイドル路線(?)の「ティーチャー・ティーチャー」なんかは、打ち込みによるチープなサウンドをさっと録音した“デモっぽさ”も否めないが、アーティストとしての円熟期であることは間違いなく、緻密に計算されたサウンド・センスは他曲と変わりない。また、ここまで何度か綴った“ミネアポリス・ファンク”らしさでいうなら、この81~82年頃のサウンドがピークと言えるのかもしれない。
DISC5は、アルバム『1999』の発売直後1982年11月11日にスタートしたツアー【1999ツアー】の、同年11月30日に開催されたデトロイトでのライブ音源が収録されている。もちろんこれらも未発表で、ファンにとっては喉から手が出るほどの貴重な音源。「リトル・レッド・コルヴェット」や「インターナショナル・ラヴァー」といった『1999』の人気曲から、前作『コントラヴァーシー』からタイトル曲~「レッツ・ワーク」、『ダーティ・マインド』からのヒット曲「アップタウン」なども歌われている。「つめたい素振り」は音源以上のクドさがあるものの、ライブの一体感が音源からも十分感じられる。これ、生歌で聴いたら失神モノだろう。色気たっぷりのシャウトを唸らす「ドゥ・ミー・ベイビー」も、女性ファンの黄色い悲鳴が止まらない。プリンス率いるザ・レヴォリューションのメンバーで、キーボーディストのリサ・コールマンによる生演奏(インタールード)も“生感”がいい。スーパー・デラックス・エディション限定となるDISC6には、同ツアーの1982年12月29日に行われたヒューストンでのライブ映像がDVDとして収録されている。
今年6月にリリースされた『オリジナルズ』も、未発表音源を集めた企画盤だったが、ここに収録されたタイトルは、他のアーティストに提供した楽曲のプリンス本人が歌ったオリジナル・ヴァージョン(デモ音源)で、いずれも楽曲としてはお披露目済みだった。一方、本作にはこれまで発表されることなく眠っていた未発表作品が収録されているだけに、 コアファンはもちろん、当時のプリンス・サウンドを愛聴するリスナーはおさえておきたい、まさに“スーパー・デラックス・エディション”だ。
一般レベルでは、『パープル・レイン』以降の作品やパフォーマンス、ゴシップネタ~醜態が注目されてきたプリンスだが、フォロワーの多くは「初期の作品こそ聴くべき」と声をあげている。その中でも、本作のレコーディング期である1981年~82年は、キャリアにおける黄金期といえるのではないだろうか。
Text: 本家 一成
◎リリース情報
アルバム『1999』
2019/11/29 RELEASE
【スーパー・デラックス・エディション】
WPZR-30870/75 / 9,800円(plus tax)
※完全生産限定盤、輸入盤国内仕様、オリジナル・アルバムの歌詞・対訳付、英文ライナーの日本語訳付
【デラックス・エディション】
WPCR-18300/01 / 2,700円(plus tax)
※オリジナル・アルバムの歌詞・対訳付
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