Billboard JAPAN


NEWS

2019/11/23 12:00

「究極の1曲」は、どんな曲ですか?【世界音楽放浪記vol.74】

『ミュージック・バズ』(NHK第一・毎週土曜日・午後1:05~)は、いくつもの新機軸を散りばめている。音楽を嗜む放送波という点では、「FM」の方が一般的だろう。私は、「AM」というジェネラルな波で、どのようなプレゼンテーションをすればリスナーと共に作り上げる音楽番組が制作できるのか、試行錯誤を積み重ねた。

忘れられない仕事の1つに、2005年3月に生放送された、『もっと身近に もっと世界に NHK80』(NHK総合テレビ)という特番の総合演出がある。その時に、これからの時代に大切な役割を果たすと考えられていたのは、「ラジオ第一」と「国際放送」だった。「国際放送=NHK WORLD TV」は、その黎明期に尽力することが出来た。ラジオもまた、変革の時を切り拓いている。

「若い世代を主たるリスナーとする音楽番組を制作してほしい」。私をラジオに呼び寄せた前の上司の言葉だ。しかし、現実として、特定のアーティストや演者のファンは、憧れの「人」が出演する番組は聴く。ファンは「人」に属している。さらに、「若い出演者が出れば、若いファンが聴く」という訳ではない。仕事柄、アイドルのコンサートに行くこともあるが、周囲は同輩と思われる方々が多数なことも多い。

私は、すぐに2つのことを実行した。

1つは「データドリブン」。数値の徹底的な解析だ。「いま、リスナーが、ここにいない」のであれば、未来進行形で考えなければならない。諜報用語だが、情報には三様相がある。「データ」「インフォメーション」「インテリジェンス」だ。時制でいえば「過去」「現在」「未来」となる。「いま、ダメだから」という状況なら、「どうすれば、上向くのか」という未来図を、根拠を持って描かなければならない。幸いにして、レベルは「0」ではなかった。私は、お力添えを得ながら、アイデアの柱を建てることにした。

●「バズりそう」「バズっている」「バズり続けている」/ゲスト・アーティストの基準を明確にする。
●「ファクトベース」/パブリシティではなく、根拠を大切にする。
●「オーラルヒストリー」/音楽の「作り手」の言葉を大事にする。
●「チャート」/さまざまなチャートを解析する。
●「ゲストDJ」/人気俳優を「リスナー代表」として、起用する。
●「カラオケ・バズ」/「歌唱ありの曲」が流せない交通情報のBGMを、カラオケにする。
●「トレンド・コメンテーター」/気鋭の音楽ジャーナリストらが、キュレーターとして解析する。
●「全国の人気DJ」/各地の人気ラジオDJが、その地の音楽リポーターを務める。

もう1つは、言うまでもなく、「リスナーの声」だ。

私は、「人生で一番バズった曲=究極の1曲」という投稿企画を設けた。誰でも、心に残る大切な音楽はあるはずだ。それらを集積すれば、日本の「いま」の音楽の「息づく形」が俯瞰的に見えてくるのではないかと。よろしければ、是非、あなたの心に宿った楽曲は何か、教えて頂ければ幸いだ。音楽は、人の心に宿ると、私は思う。

『ミュージック・バズ』HP:https://www4.nhk.or.jp/musicbuzz/

番組を離れて、個人的に語ると、私の「究極の1曲」は、ピーター・ゲイブリエルの「Wallflower」だ。この曲を聴くと、毎回、涙が溢れ出す。


原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。