2019/11/05 11:00
神奈川県川崎市にて開催中の【かわさきジャズ2019】の一環として、10月26日、工場夜景ジャズクルーズが行われた。
京浜工業地帯の歴史を多くの人に紹介する公演の一つである、工場夜景ジャズクルーズ。肌寒い夜半過ぎ、年齢層の高い男女や若いカップルが長い列をなし、明かりの無い暗がりで興奮気味に乗船を待ちわびる。職員に先導されながら、足元の怪しい暗い夜道を長い列が連なって歩く。ゴチャゴチャとした造船所の空き地の一角をしばらく歩き、見上げると、小さな客船が待ち受けていた。昔見た映画のダウンタウンの風景のようだ。
今夜、ジャズを聞くのは2階の全てが開け放たれた甲板。気取りのないシンプルなステージである。座席の2番目に陣取ると、水面が眼前と迫っているせいか、工場地帯独特の匂いと相まって不思議な雰囲気が漂う。船の進行方向前面には、演奏機材が今夜の演奏者を待ちわびる。運河と一体になった水上庭園とでも言った風情である。目線のすぐ先に暗く揺らめく水面、優美さを排除した様なマテリアルな大きな工場の形を残した暗がりに不思議な明かりが点在する。人工的な明かりが近未来都市のようで、妖しく美しい。珍しい風景につられ、甲板に上がった直後からスマホのシャッター音が響く。誰もがにわかカメラマンになり、少々興奮気味でもある。
いよいよジャズバンド jajaの登場である。既にアジア7か国でデビューを果たし、CDも何枚かリリースしている息の長いグループだ。ソプラノサックスを中心に編成されたグループで、ピアノ、エレキベース、ドラムを従える。jajaの顔でもある秋山幸男のソプラノサックスが軽快に流れると、それに呼応する他のメンバーが緩やかに音を紡ぐ。でしゃばる事のない彼らの演奏は心地の良いリスニング・ミュージック、スムーズジャズと言える。彼のサックスは尺八や和楽を意識したような、独特の揺らぎが持ち味である。また、耳に馴染むメロディーラインは個性があり、魅力的だ。一方でMCは冗談が多く、口を開くたびに聴衆の笑いを誘う。運河に広がる漆黒に浮かぶ大パノラマ、ロマンチックな音楽、そして彼の軽妙な語り口、なんともアンバランスな取り合わせに奇妙な特別感を味わう。
ファーストステージは、バラードからアップテンポの曲まで、多様な音色を聞かせてくれる。独特の揺らぎのサックスと耳馴染みの良いフレーズが心地よく、ぼんやりと風景を眺めている。私の耳に彼らの音楽が届き、そして異空間に漂う。ソプラノサックスは音色が高く、スピード感が重要視される。スピーディーかつパワフルな演奏、彼が習得した独特のプレイスタイルの個性は得難い。「木漏れ日」「レディ」「情熱の川崎」に続き、ラストを飾った「フレンズ」は、耳に残るメロディーラインは微かな思い出を静かに探ってくれる音色で、特に胸に響いた。グルーヴ感や挑戦的な掛け合いを楽しむのもジャズの醍醐味だが、水面に揺られながら誰もが思い出に酔いしれる、そんなジャズも悪くない。 セカンドステージは「ドリーム」など、川崎を題材にした曲が続く。水面に漂う私たちにクルーズの終わりを告げる8曲目の「FOREVER」がゆったりと響く。不思議な感覚のまま船着き場へ辿りついた。そんな秘密めいた贅沢な夜だった。Text:hiromi.S(かわさきジャズ公認レポーター)
◎公演概要 【かわさきジャズ2019 工場夜景ジャズクルーズ】
日時:2019年10月26日(土)19時開演
会場:フロンティアルーツ(船上)
出演:jaja&木村カエ(ピアノ)
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