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2019/11/02 12:00

吉田尚記さんのラジオ愛【世界音楽放浪記vol.71】

昨年、私がラジオを主担当とすることになった際、真っ先に連絡した方がいる。「よっぴー」こと、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんだ。

吉田さんとの出会いは、2010年。『J-MELO』(NHKワールドTV)と『ミューコミプラス』(ニッポン放送)のコラボ企画を行った時だ。当時、世界中から、アニソンへのリクエストや、アニメキャラのコスプレの写真が数多く、我々の元に寄せられていた。「世界のオタク」と「日本のオタク」を結び付ける役には、吉田さん以外の適任者は思いつかなかった。ニッポン放送の生番組に、J-MELO司会のMay J.が出演し、世界中からのリアクションを紹介。それらに対し、ツイッターを中心に、日本のリスナーが反応する。まさに、世界と日本が「アニメ」というポイントで1つになった瞬間だった。吉田さんには、アニソンは、大きく分けると4つの形に分類出来るという解説も行ってもらった。実に的確で、腑に落ちた

その模様は、後日、J-MELOで全世界放送され、海外出張中だった吉田さんのお父様も、偶然、視聴されたという。それから、『J-MELO』とミューコミプラスは、計3回、コラボを行った。テレビ番組とラジオ番組の持ち味を生かした試みは、私に大きなヒントをもたらし、日本全国のみならず、全世界の放送局との数々の協業を番組内で企画することになった。

やがて、吉田さんとは、シンガポールで開催されている【AFA(アニメ・フェスティバル・アジア)】など、海外のイベント現場で顔を合わせるようになった。上述した、2010年の初仕事が「ミューコミプラス」を海外に初紹介した機会だったので、もしかしたら、吉田さんの、世界での活躍も背中を押した1人は、私だったのかもしれない。そう思うと、とても誇らしい気持ちだ。

ラジオは、変革の時期だ。旧来のラジオ文化を築いたDJやリスナーらには、大きな敬意を表しているが、そういった先達の功績の上に胡坐をかいているだけだと、未来は決して明るくないと強く感じている。例えば、いま、ラジオの受信機が家庭にある方は、どれぐらいいらっしゃるだろう。カーステレオでも、スマホと接続し、ストリーミング音源を聴く方が増えているのではないだろうか。

radikoやらじる☆らじるの開発や普及により、いつでも、どこの地域のラジオ放送も聴けるようになり、一定期間は「聴き逃しサービス」を利用出来るようになった。だが、当然のことだが、何より重要なのは、番組のコンセプトと内容だ。どこを「一点突破」して「全面展開」して、新しいレイヤーを獲得するか。吉田さんの背中を追いかけながら、ラジオ2年生の私は、日々、思案に暮れている。

吉田さんはラジオに強い愛情と情熱をお持ちだ。どうすればラジオが盛り上がり、企画が面白くなり、リスナーが楽しめるか、常に考えている。書籍を何冊も上梓し、落語家、YouTuber、ラジオ受信機の開発、「マンガ大賞」発起人、さらには声優によるトリビュートアルバム企画など、八面六臂の大活躍を続けている。しかし、何かお願いをしたり、尋ねたりすると、いまでも素早い返信が戻ってくる。吉田さんに挨拶メールを送った時は、このような返事が届いた。「ぜひNHKでレギュラーやらせてください!せめて連動とかもですね!」。さすがにレギュラーは難しいかもしれないが、いつかまた、是非ご一緒出来ればと思っている。私が立ち上げに関わり、10月にレギュラー放送となった『ミュージック・バズ』(NHKラジオ第一 毎週土曜 午後1時5分~)の略称『ミューバズ』は、『ミューコミ』へのオマージュなのだから。Text:原田悦志


原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。