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2019/10/23 18:00

『Mala Santa』ベッキー・G(Album Review)

 1997年生まれ、米カリフォルニア州イングルウッド出身の22歳。本名をレベッカ・マリー・ゴメスといい、エキゾチックな顔立ちからもセレーナとの血縁関係を囁かれたりしたが、それについては否定されている。女優、モデルとしても活躍し、シンガーの実力も折り紙付き。才知と美貌を持ち合わせた、まさに“才色兼備”なアーティストといえる。

 彼女の知名度を上げたのは、2014年にリリースした「Shower」という曲。米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高16位をマークし、RIAAのダブル・プラチナ(200万枚)に認定される大ヒットを記録した。翌年の【ビルボード・ラテン・ミュージック・アワード2015】では<最優秀アーティスト賞>にノミネートされ、【ラテン・アメリカン・ミュージック・アワード2016】では<最優秀女性アーティスト賞>のポップ・ロック部門を制した。今年開催されたばかりの同アワードでは、注目の新人アーティストに贈られる<Extraordinary Evolution Award>を受賞している。

 ツアーにも同行した、レゲトン・シンガーのバッド・バニーとのコラボ曲「Mayores」(2017年)は、米ラテン・チャートで3位まで上昇し、ミュージック・ビデオの再生回数は16億回突破の大記録を達成している。この曲は、同年最大のヒット曲=ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーの「Despacito」を引用したレゲトン・ベースのラテン・ポップで、ベッキー・Gの妖艶なボーカルも十二分に映えている。ビデオで魅せる表情とダンス・ステップも実に美しい。

 その「Mayores」も収録された、ベッキー・Gのデビュー・アルバム『Mala Santa』が遂に完成。本人も、SNSで「新しい時代の始まり」としてアルバムが完成した喜びをファンに伝えている。それもそのはず、ウィル・アイ・アムをフィーチャーしたデビュー曲「Problem」(2012年)から、約7年もの年月を費やしているのだから。前述の「Shower」や、フレンチ・モンタナをフィーチャーした「Zooted」(2018年)など、収録が見送られたタイトルもいくつかあるが、アルバム・コンセプトに則った先行シングルは網羅している。

 アルバムのトータル・プロデュースは、バッド・バニーの作品でもお馴染のDJ・ルイアンが担当。当然、ラテン~レゲトンを中心としたサウンドが中心のアルバムに仕上がっている。

 発売前週に公開されたタイトル曲には、白ベッキー/黒ベッキーの両面を表現したカバー・アート直結の「私は悪魔でも天使でもない」というフレーズが登場する。同日に公開されたミュージック・ビデオでも、黒と白のビスチェを纏って踊る、2人のベッキーが堪能できる。オープニングに相応しい華やかなラテン・ポップで、優艶にスペイン語を操るベッキーのボーカル・ワークもすばらしい。

 昨年夏に大ヒットした、ラテン・シンガー=ナティ・ナターシャとのデュエット曲「Sin Pijama」も、もちろん収録されている。ダディー・ヤンキーがプロデュースしただけはあるど直球のレゲトンで、美女2人によるセクシーな掛け合いとの相性も抜群。そういえば、公開3日で2,000万視聴を突破(通算15億回)したミュージック・ビデオの衣装も、黒と白のタイトワンピースだった。この時点で、アルバムのコンセプトは決まっていたの……カモ?

 「Sin Pijama」がヒットする最中に発表した「Cuando Te Besé」は、独特なセンスを持ち合わせているアルゼンチン出身のラッパー、パウロ・ロンドラとのデュエット曲。パウロ・ロンドラの気怠いラップと、ベッキー・Gの快活なボーカルとの対比がいい塩梅で、はっちゃけ過ぎずともフロアで横揺れしたくなる、絶妙なサウンド・プロダクションもクオリティ高い。前2曲には及ばないが、同曲のビデオも通算6億の再生回数を記録している。

 プエルトリコ出身のラッパー/シンガーのマイク・タワーズとタッグを組んだ「Dollar」では、アリアナ・グランデまんまのポップ・ラップに挑戦している。カラフルな衣装で小悪魔っぽく歌うビデオも、「7 rings」を意識した感じがしないでもない。個人的には、もうちょっとマイク・タワーズのパートを拡大させても良かったのでは?とも思うが、ベッキー・ファンにはこれくらいで十分……か。この曲には、カーリー・レイ・ジェプセン等を手掛ける米オハイオ州の音楽プロデューサー=ネイト・カンパニーが、ソングライターとして参加している。

 米ラテン・チャートでNo.1獲得を果たした、極甘メロウ「Otro Trago」のヒットで知られるパナマ出身のシンガー=セッチとコラボした「Vámonos」は、フロアよりも夏の夕暮れ時に(ビーチあたりで)聴きたいミディアム。セッチのまろやかな声質が哀愁を漂わせ、曲をセピア色に染める。真っ赤な薔薇をバックに白いワンピースで歌う、シンプルだが情熱的なミュージック・ビデオも良かった。

 プエルトリコからは、官能的な歌詞のラテン・ソング「Subiendo」にラテンシンガーのダレックスが、思わず腰が浮きそうになる「Te Superé」にザイオン&レノックスとファルーコの2アーティストがフィーチャーされている。ベネズエラ出身の兄弟デュオ=マウ&リッキーが参加した「Me Acostumbré」は、拒むも別れを受け入れる2人の切ない想いを歌った哀愁メロウ。ダレルが参加した巻き舌満載のサルサ・ポップ「Mejor Así」も、ゲストの持ち味が上手く引き出されている。

 その他、シングル候補としても挙がったパーティー・チューン「24/7」、巧みなラップを絡ませる「Si Si」、異常な執着心の女を演じるスパニッシュ・ギターのミディアム「Peleas」、別れた誰かへの未練をダンスホール・トラックに乗せて歌う「No Te Pertenezco」、トロピカル・ハウスっぽさも混ぜ合わせた「En Mi Contra」と、ゲスト不在のナンバーも出来高。ショーン・メンデス&カミラ・カベロの「Señorita」はじめ、まだまだラテン・ブームが継続している今こそ、ベッキー・Gのデビュー作がリリースされる絶好のタイミング、といえよう。

Text: 本家 一成

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