2019/10/05
音楽シーンは、3つの異なる立場の人々で作られている。「作り手」「送り手」「受け手」だ。この「送り手」の部分が、いわゆる音楽業界である。そして、「受け手」が聴き、支持する音楽の多様性が、2010年代以降、特に顕著になっている。誰もが無尽蔵に世界中の楽曲を聴くことが出来るサブスクリプション・サービスが、音楽に接触する手段として定着して以来、音楽の楽しみ方の幅が飛躍的に広がったからだ。その結果、「個の支持」の総和が、さまざまなヒットチャートに反映されることになった。
ビルボードジャパンの10月7日付チャートの「ストリーミング数」では、トップ10内に4曲、Official髭男dismの楽曲がランクインしている。しかし、CDセールスでの最高位は「宿命」の85位が最高位だ。64回目のランクインを果たした、あいみょんの「マリーゴールド」は5位だが、CDセールスは100位にも達していない。
ここで、明大の、私のクラスの学生たちが、自分たちの音楽聴取について調査したデータを重ね合わせてみる。彼らが一番音楽を聴く場は「通学中」だ。「聴かれた回数」であるストリーミング数を解析すると、学校の往復で、何度も、同じ曲をスマホで聴いている若者の姿が目に浮かんでくる。
では、こうして心に刺さった音楽は、人のどこに住み続けるのか。私は「口」だと思っている。どんな歌も、人々が口ずさみ続ける限り、命を宿し続けるのだと。「カラオケで歌われた回数」では、1位が米津玄師の「Lemon」、2位がOfficial髭男dismの「Pretender」、3位があいみょんの「マリーゴールド」だ。ここで特徴的なのは、ランクインしている回数が多い、つまり、ロングヒットを続けている曲が多いことだ。「Lemon」は85回、「Pretender」が24回、「マリーゴールド」は64回を記録している。さらにチャートをスクロールしていくと、中島みゆきの「糸」(1992)が8位、高橋洋子の「残酷な天使のテーゼ」(1995)が9位、MONGOL800の「小さな恋のうた」(2001)が12位など、リリース後、長期間を経過した楽曲も散見する。カラオケは「人」の中に息づく音楽をパフォーマンスするメディアだ。多くの人生に寄り添い続けている楽曲が、いまのチャートの上位に輝いているのは、それだけ大きな生命力を、それぞれの歌が持っている証だろう。
カラオケも、学生たちの調査と重ね合わせると、興味深い傾向が見えてくる。カラオケは「歌う」だけでなく、「知る」場になっているのだ。「1人1ジャンル」が進んだ現在、友人の歌う曲は、自分にとって初めて聴く曲である場合が少なくない。彼らはカラオケボックスで新しい曲を知り、良いなと思う曲を増やしていっているのだ。
当然ながら、SNSとも密接な関係にある。私は、学生たちと、調査研究のグループをSNSで作っている。以前はFaceBookが多かったが、最近はLINEが主流だ。学生たちは、それほど、振り返る過去は長くない。だから、FBで再会したり、改めて出会う人々も多くはないのだろうと類推している。Line Groupという「クローズド」なSNSで話題になっているアーティストは、10代、20代が主たる利用者層である、LINE MUSICのチャートに色濃く反映されていると考えている。一方で、TikTokのような「発露系」のSNSで盛り上がると、動画再生回数の部門で一気に上位に上がる。
この他、さまざまなチャートを、それらを作り出す人々と関連させると、現代のヒットは、さまざまなレイヤーのリスナーが作り出していることが一目瞭然だ。これから、どんなアーティストの曲が、世界中の音楽ファンによって発見され、バズるのか、楽しみで仕方ない。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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