2019/09/28 12:00
ラグビーワールドカップに、すっかりハマっている。元々、スポーツ観戦は大好きで、しばしば、スタジアムやアリーナなどに足を運び、アスリートの友人も少なくない。ラグビーは、同じスポーツクラブで有力チームの選手がトレーニングしていることもあり、身近に感じている。
先日は、熊谷ラグビー場に、サモア対ロシアの試合を体感しに出かけた。まず心を奪われたのは、熊谷の人々のホスピタリティだ。駅を降りると、歓迎の祭囃子が迎えてくれた。バス停までの道沿いでは、ボランティアが笑顔で「行ってらっしゃい」と、ハイタッチをしながら声をかけてくれる。郊外にある緑のフィールドは、2万人を超える観客で埋め尽くされていた。勇壮なサモアの「シバ・タウ」で幕を開けた試合は、前半、ロシアがリードしたものの、地力に勝るサモアが次第にリートを広げていった。それでも、何度もトライを目指すロシアに「ロシア、ロシア」と観客からコールが起きる。サモアが華麗に得点を重ねると、万雷の拍手が起きる。試合終了のホイッスルが吹かれると、両チームは抱擁し、健闘を称え合い、客席に感謝を表した。どちらが敵で、味方ではない。素晴らしいゲームに、心から感動した。
海外で真剣勝負の試合観戦する機会は、多くはない。ワールドカップは、世界の「本物」を体感できる、またとないチャンスだ。音楽も、また然りだ。私は10代の頃、バイト代を貯め、昼食を抜いて、ライブのチケットを買い求めた。学校が終わると電車に乗り、学生服のまま会場に向かう。主に、海外のアーティストの公演だ。日本武道館は、とてつもなく大きな空間に感じられた。ホール・アンド・オーツ、ブライアン・アダムス、ボズ・スキャッグス、エリック・クラプトン、フィル・コリンズ、、、生で聴く彼らの歌声や演奏は、私にとって、かけがえのない宝物だった。
まだ東京ドームがなかった1986年、真冬の神宮球場で開催された「ジャパン・エイド」も忘れられない公演だ。ジャクソン・ブラウン、ハワード・ジョーンズ、ルー・リードらも出演したこのコンサートでヘッドライナーを務めたのは、私が最も大好きなアーティストであるピーター・ガブリエルだ。寒さに凍えながら聴いた「ビコ」は、忘れることができない。それから30年を経た2016年、私は、アメリカのシアトルで、ピーター・ガブリエルとスティングのジョイント・コンサートの現場にいた。パール・ジャムのエディ・ヴェダーもゲスト出演したこの夜、私は最初から最後まで、涙が止まらなかった。
子供の頃から、クラシックホールや練習場が遊び場だった私は、ライブ会場に来ると「帰ってきた」という感覚になる。同じように、祖父に野球観戦に何度も連れていかれたこともあり、スポーツの現場もなじみ深い。私は、娘と一緒にライブ会場に行くこともある。また、彼女は、プロ野球チームのファンになり、ファンクラブに入り、たびたび観戦に行っている。知らず知らずのうちに受け継がれたのかもしれないと思うと、嬉しい限りだ。
ラグビー会場で帰りのバスを待つ間、ロシア、イギリス、サモア、ネパールなどから来た人々と会話を交わした。みんな、清々しい表情だった。あの歓声は、世界中の人々のハーモニーだったのだ。ラグビーワールドカップは11月まで続く。私はまだ、何枚かチケットを持っている。あの場の空気の中で、誇りを持った男たちの戦いを観て、心を震わすことが出来るなんて、幸甚の至りだ。
秋風が深まる頃、ラグビーも、バレーボールも、アメリカのメジャーリーグも、日本のプロ野球も、数々のスポーツで勝者が決まる。記憶に残る秋になりそうだ。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
関連記事
最新News
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像