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2019/09/09

『ハリウッズ・ブリーディング』ポスト・マローン(Album Review)

 ポスト・マローンの躍進が止まらない。 デビュー曲「ホワイト・アイバーソン」(2015年8月)のリリースから今年で4年を迎えたが、勢いは衰えるどころか増すばかりで、世界各国に信者を増殖させている。【FUJI ROCK FESTIVAL '18】の出演効果もあるが、このテのアーティストに否定的な此処日本でも、ここまで人気と知名度を高めるとは誰が予想しただろう。

 米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高4位をマークし、2017年7位、翌2018年の年間チャートで8位と、2年連続でTOP10入りを果たしたデビュー作『ストーニー』。そして、「ロックスターfeat. 21サヴェージ」と「サイコfeat.タイ・ダラー・サイン」の2曲が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で1位に輝いた2ndアルバム『ビアボングス&ベントレーズ』。後者は、2018年5月のリリースから1年以上が経過しているにもかかわらず、未だTOP10にランクインする驚異のロング・ヒットを記録している。

 本作『ハリウッズ・ブリーディング』は、その『ビアボングス&ベントレーズ』に続く通算3作目のスタジオ・アルバム。レコーディング期間は約1年で、その間には4曲の先行シングルが輩出された。

 2018年10月に発表した「サンフラワーwithスウェイ・リー」は、 映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のテーマ・ソングとして同サントラ盤に提供した曲だが、アルバム・コンセプトとかけ離れていないからか?本作にも収録されることに。映画のイメージを描いたサワヤカ路線のトラックが功を奏し、ポップ層にも高く支持され自身3曲目の全米1位を獲得。 2019年の年間TOP10入りも間違いないであろう、大ヒットを記録した。 「サンフラワー」にも通ずるメロディアスなトラックの「ステアリング・アット・ザ・サン」は、リアーナの『アンチ』以降各アーティストに引っ張りだこの才媛シザとのデュエット。この曲からの自然な流れからすれば、「サンフラワー」の収録も「ヒットの起爆剤」的役割でないことが分かる。

 「サンフラワー」のヒットがピークに達した2018年末、 サプライズ・リリースしたのが2ndシングルの「Wow.」。 全米での最高位は2位どまりだったものの、上半期中上位に居座り続けるロング・ヒットを記録し、 「俺が登場すれば“ウォ~”と歓声があがる」というフレーズの如く、不動の人気を証明した。ポスト・マローンの真骨頂ともいえる圧の掛かったトラップ・ポップで、 「サンフラワー」とは対照のトラックに仕上がったが、プロデュースはいずれもルイス・ベルが担当している。

 6月にリリースした 3rdシングル「グッバイズ」は、 ヤング・サグとのコラボレーション。6月20日付チャートで初登場3位を記録し、アルバムからのシングル全てを全米TOP3入りさせた。この曲には、 ルイス・ベルに加え、 ヤング・サグをフィーチャーしたカミラ・カベロの「ハバナ」や、フィフス・ハーモニーの「ワーク・フロム・ホームfeat.タイ・ダラー・サイン」などを大ヒットさせた、韓国系アメリカ人のブライアン・リーがソングライターとして参加している。未練がましい男の傷心を歌った泣きのメロウで、冒頭では自身が敬愛するニルヴァーナのボーカル、故カート・コバーンの名前を引用し「同じ痛みを抱えている」と比喩した。

 「グッバイズ」ではエグい殺され方をした後、ゾンビになって彷徨うという……いたたまれないシーンで幕を下ろすわけだが、リリース1週前に発売された4thシングル 「サークルズ」のミュージックビデオでは、ナイトに扮して戦場に挑み、囚われた女性を救出するハッピー・エンディングを迎える。 「Wow.」~ 「グッバイズ」~ 「サークルズ」の3曲はストーリーが続いていて、いわゆる三部作のような繋がりをもつ。

 「サークルズ」は、 ラップもスネア・ドラムもない、ヒップホップというカテゴリーは一切無視したオルタナ・ロックっぽい編成で、ソングライターにはフランク・デュークスもクレジットされている。パンク・ロック調の「アレジック」や、スピード感溢れるアップ・チューン「ア・サウザンド・バッド・タイムズ」など、前作同様、本作もラップ・アルバムにはカテゴライズできない、 様々なジャンルを調合した“ポスト・マローン流”が目白押し。

 中でも、トラヴィス・スコットに加え オジー・オズボーンをゲストに招いた 「テイク・ホワット・ユー・ウォント」は格別。ロッカーとしての意地をみせた、オジー・オズボーンのシャウトもさることながら、曲間とエンディングで唸らすギターリフには(これこそ) Wow...とため息が出てしまう。ブラック・サバス・フォロワーもニンマリする(であろう)展開があり、キャパの広さを改めて感心させられる。

 一方、 毒素を帯びたフューチャーのラップと、中毒性の高い ホールジーのボーカルを取り入れた「ダイ・フォー・ミー」や、昨今大活躍の新旧ラッパー、 ミーク・ミル&リル・ベイビーとのコラボ曲「オン・ザ・ロード」など、今っぽさを存分にアプローチしたトラップ~ヒップホップも健在。「サイコ」路線のミディアム「アイム・ゴナ・ビー」や、 ダ・ベイビーとタッグを組んだフロア・ライクな「エネミーズ」、ポスト・マローンらしい独自の目線で毒性を放つオープニング 「ハリウッズ・ブリーディング」~「サントロペ」も、過去2作の延長線上にある。

 日本人リスナーにもじっくり歌詞の意味を読み取ってほしい曲がある。タイトルまんまの「インターネット」では、姿を晒さずSNSで暴言を吐く(投稿する)愚民について罵り、昨年飛行機事故に遭った際、一部のユーザーが“それ”を望んだことについて落胆した。この曲は、同SNSで何かと世間を騒がせているカニエ・ウェストとDJ・ダヒがソングライターに、 コーラスにはジャスティン・ビーバーとのコラボでも注目された ブラッドポップがクレジットされている。短編だが、中盤のゴージャスな大サビと、ピアノのアウトロでしっとり締めくくる展開には息を呑む。

 ブルーノ・マーズやミゲルなどの実力派を手掛ける、米NYの音楽プロデューサー=エミール・ヘイニーと、フリート・フォクシーズの元メンバー、ファーザー・ジョン・ミスティの2人が共作したノスタルジックなバロック・ポップ「マイセルフ」~呪文のように悲観的心情を歌う「アイ・ノウ」~ラストに配置された「Wow.」のエンディングは最高。個人的には、前作『ビアボングス&ベントレーズ』以上のインパクトを残す傑作に仕上がったと思う。


Text: 本家 一成

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