2019/09/08
サカナクションの新曲「忘れられないの」がバズっている。今週のHot100では17位とそれほど大きなヒットではない(【表1】)。しかし、ツイッターの指標ではなんと4位。チャート上はまずまずとはいえ、世間的には話題の一曲といっていいだろう。
新曲といっても、この楽曲が最初に登場したのは今年の3月だ。ソフトバンクのタイアップソングとして発表され、メンバーの山口一郎本人もCM出演したが、この時点ではそれほど大きな話題にはなっていない。その後、6月にリリースしたオリジナル・アルバム『834.194』の推し曲としてラジオでの露出が急上昇。ラジオのオンエア回数では6週間に渡ってベスト3にランクインした。そしてアルバムのリリース・タイミングの7/1付で総合5位を記録し、初動のプロモーションへの貢献という意味では、ひとまず成功したといえるだろう。
しかし、「忘れられないの」のここからの粘り強さには驚かされる。アルバムのプロモーション活動や夏フェスの出演などでこの楽曲は少しずつ浸透していくが、6月20日に公開された80年代風のミュージックビデオも反響がじわじわと広がり、外国人による完コピ映像や、さらに後には中学生がLEGOで再現した映像が山口のツイッターを介して話題を呼んだ。そして極めつけだったのは、8月21日に短冊形ケースの8cmシングルでリカットされたことだ。これまたツイッターで話題を呼び、加えて山口が下北沢の路上でゲリラ・ライヴを行ったことも多数ツイートされるという結果になった。
とにかく途切れることなくユニークな話題を提供し続けた楽曲だけに、ダウンロードやストリーミングでも再浮上するなど、他の要素にも影響が出ている。さらにいえば、アルバム『834.194』も11週に渡って20位以内をキープし、ロングセールスの様相を見せているのだ。昨年ベストアルバム『魚図鑑』で一区切り付けただけに、その後のオリジナル・アルバムはプレッシャーだったに違いない。しかし、このように『834.194』をヒット・アルバムにすることができたのは、「忘れられないの」での話題作りも大きな要因といえる。そして、クオリティの高い音楽を作り続けているからこそ、こういった“遊び”も効果的にヒットにつなげることができたわけで、サカナクションの底力にあらためて感服させられた。Text:栗本斉
栗本斉:旅&音楽ライター、選曲家。レコード会社勤務の傍ら、音楽ライターやDJとして活動を開始。退社後、2年間中南米を放浪し、現地の音楽を浴びる。その後フリーランスとして活動した後、2008年から2013年までビルボードライブのブッキングマネージャーに就任。フリーランスに戻り、雑誌やライナーノーツなどの執筆や音楽評論、ラジオやストリーミングサービスにおける構成選曲などを行っている。
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