2019/09/03
【グラミー賞】を5度受賞し、世界一売れたシングルの記録を持つエルトン・ジョンの半生を映画化した『ロケットマン』が、大ヒット公開中だ。
本作はミュージカルということもあって随所にエルトンの名曲が登場するが、その順番は実際に制作された流れを尊重しつつも、ストーリー上のエルトンの感情に合った曲が優先的に配置されている。本作のプロデューサーで、エルトンの夫でもあるデヴィット・ファーニッシュは「ファンたちは曲がどのように再構成されたかだけでなく、映画内で置かれた位置や使われ方によって、まったく違う物語を表現するものになっていることに驚くだろうね。多くの人は、『嘘でしょ、この曲がこんな風になるとは思ってもいなかった』と思うはずだ」と、名曲に新たな意味や印象を与えることとなった大胆な演出に自信を覗かせる。
また映画ならではの演出はエルトンと相談しながら進められたようで、エルトンを演じたタロン・エガートンは「この映画の音楽、衣装や僕の演技もそうだけど、エルトン本人が送ってきた人生の本質をとらえながらも、創造性を大切にして、表現を高めようとしていた。中には史実に忠実に再現したものもあれば、遊び心が加えられたものもあった。もちろん、全部エルトンのお墨付きでね」と、史実と創造性のバランスを追求したことを明かす。デクスター・フレッチャー監督も「ミュージカルを撮ることとなり、傑作ともいえる名曲たちと歌詞の数々を好きなように解釈し広げるという挑戦ができたことは本当に恵まれていた。おかげで、劇中の曲は感情の部分で素晴らしく合わさってくれた。タロンも言っていたけど、すべてエルトンのお墨付きなんだ。だから曲はちゃんと映画全体にはまっているよ」と、その手ごたえを明かしている。劇中の楽曲とエルトンの物語、そして実際に楽曲に込められていた想いというものはどのようなバランスでシンクロされていったのだろうか。エルトンの人生に沿って、新たな解釈で歌い上げられる劇中の名曲たちを楽曲ごとに一挙に紹介しよう。
◎「The Bitch is Back/あばずれさんのお帰り」
リハビリ施設で過去を回想するエルトンが歌い始め、幼少期の自分にバトンタッチするシーンで歌われる楽曲。歌詞では癇癪を起こした時のエルトンを「bitch(あばずれさん)」と言い表しているが、これはエルトンの母シーラの気性の激しさも示唆している。まだ小さな少年のエルトンが「bitch!」と大声で歌うシーンに驚くこと間違いなし。
◎「I Want Love/アイ・ウォント・ラヴ」
エルトン曰く1998年に3度目の離婚を経験したバーニー(エルトンの親友で作詞家)が率直な心境を綴ったと解釈できるバラードソング。劇中では父スタンリーと母シーラ、祖母アイヴィーと少年時代のエルトンが代わる代わる歌い、それぞれに愛を求めながらもすれ違う想いを絶妙に表している。
◎「Saturday Night's Alright (For Fighting)/土曜の夜は僕の生きがい」
エルトンの成長過程と50年代から60年代の時代の変化を3分間に凝縮。古風なロックンロール仕立ての原曲に、スカやバングラの要素を織り込み、コスモポリタンなロンドンを描く。映像にも様々な衣装や踊りを披露するダンサーが登場する。
◎「Border Song/人生の壁」
夜通し語り合うエルトンとバーニーに寄り添うゴスペル調の本楽曲は、田舎育ちのバーニーがロンドンに抱く気持ちを映し出し、寛容な社会の実現を訴えている。2人がはじめてカフェで出会ったシーンで、バーニーが「これは忘れてくれ」と取り下げようとしたことに対し、エルトンが「いい曲だ。曲を付けたんだ」と会話を繰り広げたのは、まさにこの楽曲のこと。
◎「Your Song/ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」
英米チャートでトップ10入りしたキャリア最初の本格的ヒット曲。劇中ではバーニーとエルトンがケミストリーを実感する瞬間として描かれている。実際にバーニーがエルトンの家で瞬時に本楽曲を書き上げ、歌詞の原本にはコーヒーのシミがついているという。劇中のタロンの弾き語りは、撮影現場の音声を収録。バーニーが親友として尊敬するエルトンに贈った歌詞を、エルトンが音に乗せてバーニーを見つめて歌う姿に、誰もが胸を打たれることだろう。
◎「Crocodile Rock/クロコダイル・ロック」
1973年にリリースし、初の全米ナンバーワンをもたらしたこの曲は、劇中では1970年夏に行なったアメリカ初公演のシーンで披露。クロコダイル・ロックなるダンスに熱狂する主人公の気分を、あえてトルバドールで新たなスター誕生の瞬間を目撃した観客の興奮に重ね合わせたファンタジックな演出は、当時のエルトンの昂る感情を表現しているかのよう。
◎「Tiny Dancer/可愛いダンサー(マキシンに捧ぐ)」
バーニーの最初の妻で、エルトンの衣装係だったアメリカ人女性マキシンにインスパイアされた曲。劇中ではトルバドールのライブ後に訪れたママス&パパスのママ・キャスの家で、ライブで出会った女の子と共にパーティーを満喫するバーニーを横目に、エルトンが孤独感を噛みしめるように歌っている。
◎「Take Me To The Pilot/パイロットにつれていって」
敢えて甘くない曲でラブシーンを演出。「ユア・ソング」のB面に収録される本曲は歌詞が謎めいているのだが、恋人兼マネージャーとなるジョン・リードをパイロットと位置付けて、エルトンが運命を委ねているようにも聴こえる。
◎「Don't Go Breaking My Heart/恋のデュエット」
エルトンが主宰するレーベルに所属していた英国人シンガーのキキ・ディーとのデュエット曲で、1976年に英米両チャートで1位を獲得。両者にとって初めて全英No.1を獲得した楽曲だ。お互いの熱い気持ちを歌い合うラブリーな曲だが、劇中ではジョンとの波乱含みの関係を予告している。
◎「Honky Cat/ホンキー・キャット」
都会暮らしに憧れる田舎者の青年(ホンキー・キャット)を止めようとする故郷の人たちの様子が書かれた本楽曲。まさに都会から出てきたばかりの田舎者のエルトンは、大ブレイクの末、浪費に走ってスーパースターの豪奢な生活を満喫する。全盛期のジョンとエルトンが気持ちいいほどに煌びやかな生活を舞台で表現しながら、デュエットで聴かせてくれる。
◎「Pinball Wizard/ピンボールの魔術師」
唯一のカヴァーで、ザ・フーのロック・オペラ作品『トミー』の収録曲だが、エルトンは映画版『トミー』に出演して劇中で歌ったことを機にライブで披露するようになる。止められないマシーンとしてのショウビジネスを想起させる1曲。
◎「Rocket Man/ロケット・マン」
本楽曲は、家族を残して宇宙に身を投じる宇宙飛行士の父親の姿を描いたレイ・ブラッドベリの短編小説『ロケット・マン』に着想を得て歌われている。エルトンは1975年10月、薬物の過剰摂取で自殺を図り、その48時間後にドジャー・スタジアムで伝説的公演をこなすというハイとロウの両極を行き来した壮絶な数日間を経験。大勢の観客やビジネスマンに求められながらも、必要とする人には愛されないエルトンの混沌とした感情が、孤独に宇宙の果てへと向かっていく宇宙飛行士の父親の姿に重ねられている。
◎「Bennie And The Jets/ベニーとジェッツ(やつらの演奏は最高)」
架空のバンドの魅力をファンが語り合う本楽曲に乗せて、劇中でさらに破滅的な行動に走っていくエルトン。頽廃的ムードとどんどん速まるテンポに急かされるように、落ちるところまで落ちていく。発表当時、全米R&Bチャートでもヒットした。
◎「Sorry Seems To Be The Hardest Word/悲しみのバラード」
「ごめんなさい」と口にすることの難しさを本楽曲で歌いながら、互いに傷つけ合い、なかなか和解の叶わないエルトンと母の複雑な関係を論じる。ピアノを控えめし、ストリングスとクワイアを大々的にフィーチャーすることで、一層メロドラマティックな楽曲に仕上がっている。
◎「Goodbye Yellow Brick Road/グッバイ・イエロー・ブリック・ロード(黄昏のレンガ路)」
『オズの魔法使い』に登場する黄色いレンガ路をモチーフに、華やかなスターダムとシンプルな幸せを対比させる名曲。煌びやかなスターへの道を突き進むエルトンに、バーニーが別れを告げるシーンで歌われる。前半はバーニーが、後半は自分の非を認めて立ち直ろうと決意するエルトンが歌唱。バーニーが執筆した歌詞というだけあり、田舎の農場から都会に出てきたバーニーの切ない想いがピッタリだ。
◎「I'm Still Standing/アイム・スティル・スタンディング」
一時休止していたバーニーとの共作を再開し、チャートに返り咲いた時期の代表曲。実際にはリハビリ前に発表した曲だが、劇中では人生を立て直したエルトンの復活宣言としてフィナーレを飾っている。イルミネーション・エンターテイメントのアニメ映画『SING/シング』で本曲を歌ったタロンは、本作ではエルトンとして一際力強い歌声を披露。奇抜でインパクトたっぷりのミュージックビデオは当時の人々の目に強烈な印象を残したが、本作ではタロンの熱演によって見事に再現されている。
◎「(I'm Gonna) Love Me Again/(アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン」
エルトンがバーニーと書き下ろし、タロンと一緒に歌うモータウン・ソウル調の新曲で、エンドロールで流れる。歌詞には「ありのままの自分を愛する」という映画のテーマが投影され、エルトンとバーニーの友情を讃えた仕上がりにもなっている。
◎公開情報
『ロケットマン』
現在公開中
監督:デクスター・フレッチャー
製作総指揮:エルトン・ジョン
出演:タロン・エガートン、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデンほか
配給:東和ピクチャーズ
(C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
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