2019/09/07
私には、スポーツ選手の才能はない。小学生の時に、ソフトボールで市内準優勝、水泳で自由形5位になったのが最高位。学生時代はウェイト・トレーニングに明け暮れたが、運動部や体育会に入ったこともない。だが、いまだに時間があれば泳いでいる。スポーツ観戦も大好きだ。
サッカーやラグビーなどにも、チャントやアンセムは存在する。EUROのチャンピオンがクイーンの「We Are the Champion」を、ファンと共に歌う姿は感動的だ。だが、音楽と親和性がより強いといえば、野球だろう。試合時間が長く、「連続」ではなく「間断」のスポーツである野球は、開始から終了まで、ほぼ全編に渡り音楽が登場する。
メジャーのボールパークでは、至る所で音楽や効果音が溢れている。セブンス・イニング・ストレッチで歌われる「私を野球場に連れてって」は1908年の作曲。1世紀以上にわたり、7回表終了後に、歌われ続けている。夏の甲子園でも、応援するウィンド・オーケストラらが奏でる曲が、常に球場に流れ続けている。ここぞという時には「神曲」という、チャンスを叶えるナンバーが合奏されることも増えた。グラウンドの選手も、その曲が聴こえると、奮起することだろう。
日本のプロ野球チームのホームページには、選手の登場曲が掲載されている。選手の音楽的ルーツが見えるようで、とても興味深い。私は東北楽天ゴールデンイーグルスのファンなのだが、若き守護神の松井祐樹選手は、「ジェニファー」(あいみょん)。スタイリッシュな地元出身の岸孝之選手は、「Not All about the Money」(Grooya feat. La La Land and Timberland)。常に全力投球の則本昂大選手は、「Yes I am」(ONE OK ROCK)。プレイスタイルが浮かんでくるような作品ばかりだ。
格闘技にも、音楽が欠かせない。例えば、相撲。言うまでもなく、神事を発祥とするスポーツだが、現代の大相撲は、まるでワールドカップのような国際化を遂げている。しかし、相撲甚句や櫓太鼓など、流れる楽曲は、どんなに時代が変わっても、ルーツを大事にしたものばかりだ。プロレスでは、同い年の友人の永田裕志選手の試合をよく観に行くのだが、現代のコロッセオのような空間で、音楽が熱狂を演出している。永田選手は、9月8日に、故郷である千葉県東金市でレスリングライフ35周年記念大会を行う。いまから、どんな興奮を感じることができるのか、楽しみだ。
テニスやゴルフのように、静穏を常にすべき競技も、当然ながらある。しかしながら、アスリートの中には、一人で音楽を聴き、心を落ち着けたり、気持ちを鼓舞したりする方も多い。最近では、イヤホンに適したミキシングも増えている。音楽は「現地で共有するもの」と、「自分だけで私有するもの」という二つの面で、スポーツとコラボを続けているのだ。
プロ野球に話を戻そう。公式戦には、数万人が集まる。音楽ライブで1万人というと凄い動員だと感じるが、東京ドームや甲子園などの公式戦には、4万人以上がコンスタントに押し寄せている。観客は、同じサウンドを聴き、歌い、シェアしている。スタジアムでプレイする選手にとっても、音楽が大きな力になっているのだと、スタンドに足を運ぶたびに感じている。スポーツも音楽も、現場に行くのが一番だ。
私は、プロ野球12球団全ての本拠地はもちろん、メジャーのスタジアムにも足を運んだ。実感したのは。最高、最強の音楽は、観客の歓声ということだ。ヤジではなく、声を上げよう。それが、闘っている選手に対する、最大の賛辞なのだから。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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