2019/08/30
歌うように奏でる“インストのR&B”
スムーズ・ジャズというサブ・ジャンルは確かに存在する。フュージョンとも近いが、ジャズにしてはポップすぎることもあってか、日本ではファンの層が薄い。一方アメリカでは、例えばジル・スコットなどを輩出した〈ヒドゥン・ビーチ・レコーディングス〉がヒップホップの名曲をスムーズ・ジャズ的な演奏で聴かせる『Unwrapped』というコンピ・シリーズで人気を博すなど、チルタイムのBGM として一定の需要があり、管楽器などを主役にしたメロディアスなインストのR&Bといった感覚で親しまれている。
一般的にはスムーズ・ジャズのサックス奏者とされながら、“ インストのR&B” をやっているというスタンスをとってきたのがボニー・ジェイムスだ。そもそも80年代にモーリス・デイのバンドでキーボーディストを務めていた彼は、自身がR&Bコミュニティで活動するアーティストであるということに自覚的だった。インディから出したデビュー・アルバム『Trust』(1992年)がワーナーから再発されて以降、メジャー・レーベルで作品を出し続けているボニー。彼の丸みのあるテナー・サックスの音色は、R&Bで言うところのスロウ・ジャム的なアーバンなムードを醸成し、実際にR&Bアーティストとの共演も多い。ジョニー・ギル「My My My」におけるケニー・G、もっと前ならビル・ウィザーズを招いた「Just The Two Of Us」におけるグローヴァー・ワシントンJr.、ボニーのスタイルはその延長線上にあると言っていい。時にソプラノやアルトも使う彼のサックスは“ 歌う” という表現がしっくりくるもので、本人としてはヴォーカリスト気分なのかもしれない。
人気R&Bシンガーとのコラボレーション
R&Bアーティストとの接点が目立ち始めたのは、エリック・ベネイやシャイらと共演していた90年代後半頃からだろうか。アルバムとしてはデイヴ・ホリスターやジャヒームらを招いた2001年作『Ride』からR&B色が強まり、ビラルやドウェレが歌った2004年作『Pure』では演奏にクエストラヴやピノ・バラディーノも招いてネオ・ソウルに接近。以降のアルバムでも、フェイス・エヴァンス、シャンテ・ムーア、アンジー・ストーン、アンソニー・ハミルトン、ドネル・ジョーンズ、ラトーヤ・ラケット、マリオ、ラヒーム・デヴォーン、エリック・ロバーソン、エイヴリー・サンシャインなど、アダルト層にもアピールする当代の人気R&Bシンガーをゲストに招き、このジャンルの住人としてのイメージを強めてきた。実際に、ビルボードのR&Bアルバム・チャートでは5作がトップ30内に、うち2作はトップ10内にランクインしている。
少年時代にソウルやファンクのグルーヴに目覚め、グローヴァー・ワシントンJr. の『Mr. Magic』(1975年)を聴いてこの道を目指したというボニー。ミント・コンディションのストークリーを招いた2015年作『Futuresoul』の表題からも新しいソウルを作ろうとする意識が窺えたようにトレンドにも敏感な彼は、歌ゴコロを持ったR&Bサクソフォニストとしてキャリアハイを更新し続けているのだ。
Text:林 剛
◎公演情報
【ボニー・ジェイムス】
ビルボードライブ東京
2019年10月29日(火)
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
ビルボードライブ大阪
2019年10月30日(水)
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
URL:http://www.billboard-live.com/
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