2019/08/23
2012年にリリースされた「ホー・ヘイ」で一躍その名を轟かせた、米コロラド州デンヴァ―を中心に活動するザ・ルミニアーズ。ウェスリー・シュルツとジェレマイア・フレーツを中心に、クラシカルなルーツ・ミュージックに基づいた心に響くネオ・アメリカーナ・サウンドと観るものの心を掴んではなさいエネルギッシュなライブ・パフォーマンスで人気を博す彼ら。
3rdスタジオ・アルバム『III』のリリースを2019年9月13日に控える中で行われた、2014年以来となる【FUJI ROCK FESTIVAL】のステージでは、時にはハートフルで、時には物憂げで哀愁漂う楽曲の数々を卓越した演奏力で力強く表現し、初日の<WHITE STAGE>のトリを見事に飾った。ここでは、最新アルバムとその制作背景についてウェスとジェレマイアが語ってくれたインタビューをお届けする。
◎ニュー・アルバム『III』をひっさげたツアーの手ごたえはいかがですか?とはいえ、まだアルバム・リリースまで少しありますが…。
ウェス :そうなんだ(笑)。とても興味深いよ。前作のリリース前は、確か2曲ぐらいしか新曲は演奏していなかったけれど、今回はニュー・アルバムの半分ぐらい…毎晩5~6曲を演奏しているんだ。それが案外楽しくて。
◎観客の反応も上々ですか?
ウェス:すでに4曲は公開されているから、いい感じだよ。アルバムが出る前に曲を知ってもらういい機会にもなる。1stシングル「Gloria」を筆頭に、まずは「Donna」、「Life in the City」とアルバムの第一章である3曲を発表したんだけど、とてもいい流れがつくれて、満足しているね。
◎他にも「Salt And The Sea」と題された収録曲をライブでお披露目していますが、この曲は新作のラストを飾る楽曲ですよね。
ウェス:もう聴いたの?
◎ライブ映像をYouTubeで観て、これまでのザ・ルミニアーズの曲とは一味違うなと思ったので気になって。
ジェレマイア:そうか(笑)。この曲はアルバムのために、一番最初にレコーディングした曲なんだ。
ウェス:あぁ、そうだったね。
ジェレマイア:ウェスとアルバムに本格的に取り掛かる数か月前に書き始めた曲で…たしか11月頃だったかな。この曲は、M・ナイト・シャマラン監督の映画『グラス』のために制作した曲なんだ。ウェスの方に連絡があって、エンド・クレジット、または本編で使えるような曲が欲しいって言われて。そこで曲を書いて彼に送ったんだけど、長い話を短くすると使われなかった(笑)。とはいえ、意識的だったか、無意識だったかはわからないけれど、ニュー・アルバムのトーンを方向づけることとなった。曲は、シャマランの作風に寄せているから、ザ・ルミニアーズの普段の楽曲の域から少し外れたものだった。いつもとは違うものだったら、逆にクールだなと思ったんだ。バンドのサウンドに忠実、誠実でありながら、同時にその進化も表せていた。
ウェス:ジェレマイアが、ある時ロンドンに行って、フェドラ・ハットを被って帰ってきた時に似てるな(笑)。「え、フェドラ・ハットなんて被るようになったんだ」と思ってたら、今はそれがすっかり定着している。たしか12年前だったかな。何が言いたいかというと、初めて何かに挑戦すると、なんだか馬鹿馬鹿しく……というか自分らしくないって感じるもの。今回、映画のために曲を書いたことで、いつもとは違うことにチャレンジする許可を与えられたように感じたんだ。ゴメンな、話してる途中で。
ジェレマイア:いやいや、大丈夫。話を戻すと、通常どおり曲作りをした場合と比べ、より壮大で、シネマティックに仕上がった。「Salt And The Sea」を作り終えて取り掛かった「Donna」や「Jimmy Sparks」、「My Cell」など特にアルバムの後半に収録された曲では、かなり大胆になれた。曲を書き上げたら、スタジオに入ってヴァイオリンを加えたり、ウェスのヴォーカルやピアノのサウンドなど、細かい部分にもこだわった。新作では、より時間をかけて曲や歌詞を練ったんだ―自分たちの新たなサウンドにエキサイトしていたから。
◎同様に『ゲーム・オブ・スローンズ』(GoT)のインスパイアード・アルバムに提供した「Nightshade」を制作したことからも発見はありましたか?
ウェス:あの曲も制作も興味深かったね。タイムラインを整理すると、(曲が元になっている)「Jimmy Sparks」 の方が先に完成していた……曲を書いた時、コーラスがなかった。完成したバージョンも、あまりコーラスらしいものがないけれど。だから自分たちのアルバムに入れる曲の候補から外していた。原曲はヴァースも多くて、もっと長い曲だったから、お蔵入りだなって。
そんな時に、『GoT』を製作しているHBOから「曲を提供してくれないか」と声がかかった。そこで「Jimmy Sparks」 を“サンプリング”して番組の世界観に合うものを作れるのではないかと考えて、そのデモを番組側に渡した。その後、自分たちのアルバムのためにスタジオ入りして、今回のアルバムで素晴らしい手腕を発揮してくれたプロデューサーのサイモン・フェリースに「Jimmy Sparks」を聞いてもらったら、「こんないい曲はアルバムに入れなきゃダメだ」と言われたので、HBOにやっぱり使わないでくれって連絡する羽目になったんだ。でも、彼らは理解があって、サンプルしてても大丈夫だし、自分たちのアルバムに収録してもいいよと許可してくれた。だから、どちらの曲を最初に聴くかによって印象が変ってくると思うね。サントラに起用されたのは嬉しいし、『GoT』も大好きなんだけど、自分たちのアルバムに収録する曲に関しては慎重に進めたいから、『GoT』からのオファーを断る準備もできていた。向こうが許可してくれて、いい結果に終わって嬉しいよ。
ジェレマイア:曲も番組に合っている思うしね。
◎ちなみに、賛否両論だったシリーズ・フィナーレの感想は?
ジェレマイア:僕はちょっとガッカリした。けれど、それは何シーズンも誰にも止められない勢いがあって、プロダクションのクオリティも素晴らしかったから。7~8年間、作品のレベルの高さに慣れてしまっていたから、余計に残念に感じたんだと思う。
ウェス:何だかもうビートルズの域に達しているよね。彼らの曲やアルバムで、自分が気に入らないものに向かって怒る感じ。本当に同感だよ。観客みんな甘やかされていたんだ。
◎先程YouTubeのライブ映像で新曲の一部を聴いたと言いましたが、最近は簡単にライブの映像がネットで観れてしまう時代になりました。
ウェス:小さな会場ではYondrポーチを使っていたけれど、あまり意味がなくなってきているように思うね。なぜなら、今は音楽を無料で聴きたければ、SpotifyやDigster、とりわけYouTubeで見つけることができるし、高音質で聴けるプラットフォームも揃っている。その昔Napsterがローンチした時、バンドは完成してない音源やマスタリングされていない音源をアップロードされるのを怖がっていた。何千人もの人々にそれが曲の完成形だと思われてしまうから。でも今のリスナーは、そういった音源や映像がライブ・バージョンで、スマホで撮影されたものだと理解している。通常のレコーディングと比較したらクオリティが劣るけど、こんな感じなんだっていう単なる目安っていうのかな。だから4年前とかに比べると、 新曲やアルバムがリークされたらどうしようという不安からくるストレスは減ったね。各プラットフォーム、公式な音源ってわかるように、すべて認証マークが表示されるし。
◎そういったライブ動画が、ライブ体験を損ねると思いますか?
ウェス:むしろその反対だと思う。例えると、コメディアンの逆って感じかな。彼らはオチで人々を驚かせて、笑わせなければならないけど、僕たちの場合は音楽と繋がりを持ってもらうことを重視している。アルバム・リリースから1年後ぐらいに収録曲を演奏することは、僕にとってエキサイティングだ。聴き手がそれらの曲と暮らし、曲に対する思い入れが深まっているから。僕個人は、それに助けられている。そのゆえ、最初の数か月はみんなが曲に慣れ親しんでくれるまで辛抱強く待たなければならないということを理解している。
◎では一音楽ファンとして、印象深かったライブ体験について教えてください。
ジェレマイア:ずっと、ずっと昔に観たレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのライブだな。面白かったのは、その日ずっとラップ・アクトばかりで、ウータン・クラン、ザ・ルーツ、ナズ……確かコモンも出てたかな。あとモス・デフとかも出てたクレイジーなフェスで、レイジは最後に出演したんだ。その日、僕はすごく体調が悪かったんだけれど、なんとかエネルギーを消費しないように一日中彼らの出番を待っていた。運よく最前列に行くことができて、アルミのバリケードで押しつぶされながらも、ものすごく楽しんだよ。
◎意外ですね!
ウェス:僕が彼と出会った時、インストのラップ・ビートとかを作っていたからね。
ジェレマイア:僕の音楽的バックグラウンドは、やや特殊なんだ(笑)。
ウェス:でも、そこがバンドのアクセントにもなっていて、考えてみると腑に落ちると思うよ。僕のルーツはシンガーソングライター的な音楽にある。だから印象に残っているのは、小さな劇場で観たニール・ヤングのソロ公演。彼を囲むように、ピアノ、オルガン、バンジョー、ギターなどがセッティングされていて、曲ごとに色々な楽器を演奏して、物語を語ってくれて。あまり話さない、プライベートな人というイメージを持っていて、もはや観客のことを怒っているんじゃないか、なんて思っていたから、すごくオープンな人だって知って、驚いた。観客と真摯に向き合い、美しい物語を語ってくれたことは、僕に大きな影響を与えた。ああいう体験をすると、自分がクールだと思っていたことの印象が変わる。彼のおかげで、観客と繋がりを築こうすることがクールだと思うようになったんだ。
◎ライブのMCで曲の背景について触れるのは 、ザ・ルミニアーズも行っていますよね。
ウェス:ニルヴァーナだったら絶対やらないけどね(笑)。それにボブ・ディランも。彼は本当に多作だし、音楽の中にすべてが込められているから。反対にブルース・スプリングスティーンや僕が若い頃に聴いていたデイヴ・マシューズ・バンド、そして今名前を挙げたニール・ヤングは、ステージ上で自分の曲の背景を説明している。だから、僕らもそれをライブに取り入れている。自分が思っているほど、聴き手が曲の内容を理解していないということに案外驚くよ。自分は曲を書いてる立場で、その世界に没入しているからそう感じるのかもしれないけれど。
ある時「Charlie Boy」についてステージ上で話したことがあるんだけれど、ベトナム戦争で戦死した叔父についての曲で、彼は大統領の一言によって戦争に行くことになった。だから、自国のリーダーの発言には多大な影響力があるということをわかってほしいという気持ちで書いたということ、特に今の僕らの国リーダーがあれだから……と説明したら、みんなビックリしていて。僕からしてみれば、「え、それ以外の解釈なんてあり得ないじゃん」って感じなんだけど(笑)。でもよく考えてみると、宝物を地図無しで探しに行けって言っているようなものだな、ってことに気づいたんだ。だから、曲について話すことがそのヒントになればいいなとも思っているんだ。
◎最後に『III』のボーナス・トラックとして故レナード・コーエンの「Democracy」を収録した経緯を教えてもらえますか?彼が亡くなった後に行われたトリビュート・ライブでも披露していましたね。
ウェス:そう、レナードが亡くなってちょうど1年後に、彼を追悼するために彼の息子のアダムと彼の家族が行った美しいトリビュート・ライブだった。k.d.ラングが「ハレルヤ」を歌い、エルヴィス・コステロも何曲か披露して、出演者全員本当に素晴らしかった。僕たちがこの曲を選んだことにアダムは少し驚いていたようだった。原曲はとても長く、手なずけるのが難しい曲だけど、何となく弧を描く方法を見出すことができた。そのバージョンがすごく気に入ったから、55人のストリングスやシンフォニーからなるオーケストラとともにレコーディングしたんだ。美しくも、今の時代にゾッとするぐらい合う内容だと感じたから。ずっとアルバムに収録することを想定していたけれど、最後の最後で踏みとどまったんだ。「これまで作った曲の中で一番最高な曲なのに、なぜ!?」って感じだったけれど。だからボーナス・トラックになったんだ。
◎リリース情報
アルバム『III』
2019/9/13 RELEASE
UICO-1311 / 2,808円(plus tax)
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