2019/08/22
8月のお盆時期、東京が暑さのピークを迎え、人々がこぞって街からいなくなったこの夜。渋谷駅近くのセルリアンタワーにあるJz Bratでボサノヴァ・アーティストKarenによる、バンド編成のライブが催された。
満席の会場は開演を待つ人たちの低いざわめきで満たされ、開場から開演まで2時間というゆったりとした時間を、テーブルやカウンターでめいめいに楽しんでいる。そして19時半、客電が落ち、プレイヤーたちが深い青色のソフトウォールを背景したステージに集まってきた。
この夜は、7月にこの世を去ったジョアン・ジルベルトの遺した楽曲をメインにした構成。「食事を楽しみながら、ほんの少しでも非日常な時間を過ごしてもらえたら」というKarenの言葉の通り、ステージは日常と非日常を静かに繋ぐかのように始まった。
普段、弾き語りの多いKaren。この日の彼女が目指したのは、端正にスタンダードを紡ぐこと。愛しさの中に切なさを、寂しさの中に希望を歌うボサ・ノヴァの曲を、バンドそれぞれのパートが感情を分担していた。この夜演奏された数少ないKarenオリジナルの「Ipê roxo イペー・ホーショ」も、とても豊かな耳心地の仕上がりだった。ギターとベースをバックにヴォーカルだけで始まり、ドラム、ピアノが追随して曲の輪郭を整え、間奏にハーモニカが加わる。心地よい密度で構成されたバンドの音の上に、Karenがそっとヴォーカルを乗せていく、そんな演奏だった。
エクストラの1曲を含め、第1部は9曲のたっぷりとしたボリューム。休憩を挟んで始まった第2部は、夏の苦い側面を歌う「Estate 夏」で始まり、ジョアン作詞作曲の「 Hó-bá-lá-lá オバララ」「bim bom ビン・ボン」をライブで初めて演奏した。第2部で替えられた衣装は、白地にピンクやブルー、グリーンの羽模様があしらわれたサマードレス。オリジナル曲の「羽根」にマッチした演出が施され、8曲がたっぷりと披露された。アンコールを経て18曲のライブは終了し、観客たちは夏の夜のボサノヴァを満喫した。
終演後、Karenにこの日の感想を聞いてみた。「名曲ばかりを集めて、クインテットで演奏をする“ショー”をやりたいと思って今回のライブの内容を詰めていたとき、ジョアンの訃報が飛び込んできました。彼の残してくれた素敵な曲を歌い継ぐことは、ボサノヴァを好きでいさせてくれることに対する感謝でもあると思います。そこで、彼のアルバムに収められているスタンダードナンバーを中心にセットリストを構成しました。やりたいことをやりきれたかといえば、ずいぶんと緊張していたなあ、と(笑)。ブラジルではbom show!!という言葉があるんです。『いいショーを!』っていう意味なんですけど。もっと緊張せず、もっと頑張らないでやれたら良いけれど、今夜は今までのJzでのライブの中で一番ナチュラルにやれた、bom showだったかなと思っています」
Karenは最後の1曲「Doralice ドラリッシ」を始める前のMCでは「この曲を始めちゃうのが寂しいです」と笑った。囁くように歌い、楽しそうに微笑みながらブレスをする彼女。この夜のライブを一番楽しんだのは、やっぱり彼女だったのだと思う。
Text by 渡辺ロイ
Photo by館野二朗
◎公演情報
【Karen ボサノヴァの名曲で包む上質な夜~Bossa Nova Elegante~】
2019年8月16日(金)
東京・渋谷Jz brat sound of Tokyo
<第1部>
1. Chega de saudade 想いあふれて(A. C. Jobim - Vinícius de Moraes)
2. Garota de Ipanema イパネマの娘(A. C. Jobim - Vinícius de Moraes)
3. Desafinado ヂザフィナード(A.C. Jobim - Newton Mendonça)
4. Manhã de carnaval カーニバルの朝(Liuz Bonfá – Antônio Maria)
5. Meditação メディテーション( A.C. Jobim - Newton Mendonça)
6. Rosa morena ホーザ・モレーナ( Dorival Caymmi)
7. Ipê roxoイペー・ホーショ (Karen - Nobuo Yanai)
8. Água de beber 美味しい水(A. C. Jobim - Vinícius de Moraes)
E. O barquinho 小舟 ( Roberto Menescal – Ronaldo Bôscoli)
<第2部>
1. Estate 夏 (Bruno Martino – Bruno Brighetti)
2. Maria ninguém マリア・ニンゲン(Carlos Lyra)
3. Hó-bá-lá-lá オバララ (João Gilberto)
4. bim bom ビン・ボン (João Gilberto)
5. minha saudade ミーニャ・サウダージ(João Donato - João Gilberto)
6. 羽根 (Karen)
7. corcovado コルコバード (A.C. Jobim)
8. Doralice ドラリッシ ( Dorival Caymmi)
E. wave 波 (A.C. Jobim)
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