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2019/08/24

夏休みは遅れすぎた青春の時【世界音楽放浪記vol.61】

今年は、久々に、8月に夏休みを取得した。去年から、暦通りの生活に戻ることになり、1年のサイクルを少しずつ思い出しているところだ。

ここ数年、時間さえ出来れば、真っ先に向かうのは沖縄だ。今回は、那覇に隣接する浦添にある、キッチンや洗濯機などが完備した短期滞在用の部屋を借りた。近所のスーパーで買い物して料理を作り、スポーツクラブのプールで泳ぐ。映画を観たり、エフエム沖縄を聴きながらドライブしたり、美術館に行ったり。台風の到来もあったが、心身共にリフレッシュした。

だが、実は、のんびりすることだけが目的ではなく、2つのことをまとめて行うことが渡航の主眼だった。1つは大学の春学期の採点だ。受講生と一緒に学んだ4か月が、とても濃厚な月日だったことを再確認した。いつかきっと、教室で得た新しい視座が、人生を切り拓くヒントになる日がくることを、心から祈っている。もう1つは、ある原稿を書き上げるため、集中して「缶詰め」となる場が必要だったのだ。何度も初期化と逡巡を繰り返し、初稿を書き上げた。日常のルーティーンの中で落ち着いてやれなかった2つの宿題が完了した頃、東京に戻る日がやってきた。

いつしか、まとまった休みは、パソコンを抱えて、普段はできないことをするために旅をする時間となった。小さなキーボードを抱えて、デモ音源の制作を行うこともある。「イチ押し 歌のパラダイス」のテーマ曲のラフなデモは、宮崎県の高千穂で作ったものだ。小学生の頃、夏休みには自由研究という宿題が課せられた。大人になったいま、まさにそれを改めて行っているのかもしれない。

夏休み中、もう1つ、準備をしたことがあった。9月1日(日)に開催される日本ポピュラー音楽学会のシンポジウムだ。「音楽放送からみる現代日本大衆音楽」というタイトルで、私は中心的な役割を担うことになった。放送人として数多くの番組を制作してきて、大学の先生としては、はや4年目を迎えた。どちらも、やれる限り、現役を続けるつもりだ。

8月は私の誕生月でもある。アーティストやミュージシャンらの友人が、お祝いの会を催してくれると伝えてくれた。私は、「皆さんの時間やお金を自分のために費やしてほしくはないので、サイゼリヤでささやかにパーティーをやろう」と提案して、最初に声がけしてくれた友人と、その周囲にいる、ほんの数人だけを呼ぶことにした。ファミレスに次々と友人が訪れ、ピザなどを頬張る時間は、とても楽しかった。サイゼリヤは、若き研究者や学生たちと、授業の後などによく訪れている。いつしか、関係する先生方らと共に「サイゼリヤ学派」を名乗るようになっていた。

その途中で、あるバンドのヴォーカルの友人から連絡が入った。「共通の友人の歌手が、仕事を終え、馴染みの店に行くらしいのですが、そちらに合流しませんか?」。全く予想していなかったオファーだが、素敵な偶然だと思った。ジャンルも立場も異なる音楽家たちが集い、私以外、ほぼ初対面という2つのグループは、歓談を続け、いつしか夜が更けていった。生で聴いた民謡の歌声は、最高のプレゼントとなった。やはり、夏休みは「宿題」と「パーティー」の、両方があってこそだ。帰り道で、私は、高校時代に、朝まで級友たちと相模湾の砂浜で語り明かした夏休みの一夜のことを、思い出していた。もしかしたら、いまも青春なのかもしれないな、遅れすぎではあるが。Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。

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