2019/08/14
近年は、暴行容疑で逮捕されたり、意識不明で病院に緊急搬送されたり、女性アーティストへの差別的発言で叩かれたと思ったら、バラエティ番組で「花嫁特典」を明かしたりと……アーティスト活動以外で巷を賑わせている(相変わらずの)お騒がせラッパー、リック・ロス。これだけやりたい放題やっても、なぜか憎まれないし、憎めないから不思議だ(キャラ勝ち?)。
“アーティスト活動以外で”と記したものの、ラッパーとしての活動もそれなりには充実している。たとえば、昨年はリッチ・ザ・キッドのデビュー作『The World Is Yours』や、ミーク・ミルの全米No.1アルバム『Championships』にゲストとして参加しているし、今年は、ドレイクが地元カナダ・トロントのNBAチーム<ラプターズ>の【NBAファイナル】優勝を記念して発表したシングル「Money in the Grave」にフィーチャーされるなど、他アーティストの作品では度々名前を目にする。
およそ2年ぶり、記念すべき10作目となるスタジオ・アルバム『Port of Miami II』には、そのドレイクやミーク・ミルの他、豪華ゲストが多数参加。1曲目のシングルは、米ワシントンD.C.出身の人気ラッパー=ワーレイをフィーチャーした「Act a Fool」で、スクリレックスとのコラボ曲「Purple Lamborghini」(2016年)を手掛けたビート・ビリオネアがプロデュースを担当している。この曲は、本作のオープニング曲として収録され、アルバムの勢いを加速させる起爆剤となった。
フィリー・ソウルの代表格=オージェイズの「Help (Somebody Please)」(1978年)を下敷きにした「Turnpike Ike」は、ファンク・ユニット=タキシードの片割れとして知られるジェイク・ワンが手掛けた90年代マナーのヒップホップ。自身も所属するトリプル・Cズのメンバー、ガンプレイが参加した「Nobody's Favorite」も、90年代に回帰したような作りだ。次曲「Summer Reign」では、そのナインティーズを代表するガールズ・グループ、SWVの「Rain」(1997年)がサンプリングされている。原曲まんまのコーラスを担当したのは、米アトランタの女性R&Bシンガー=サマー・ウォーカー。
米デトロイト出身の女性ラッパー、デージ・ローフをフィーチャーした「White Lines」は、カニエ・ウェスト流に則った(ような)メロウ・チューン。スウィズ・ビーツとコラボした2ndシングル「Big Tyme」も、2000年代初期~中期を彷彿させる懐かしさがある。EDM~トラップ、レゲエ・ブームを経て、今度は90年代~このあたりのリバイバルがくる……(のか?)ミーク・ミルと、イケメン・シンガーのサム・ハーヴィーをゲストに迎えた「Bogus Charms」も、今っぽいというよりはちょっとノスタルジック。
本作の目玉曲とえいば、8曲目の「Rich Nigga Lifestyle」だろう。同曲には、今年3月に射殺された故ニプシー・ハッスルと、腹筋美が絶賛されている米NYの女性シンガー/モデルのテヤーナ・テイラーの2人がゲストにクレジットされ、ある種異色のコラボレーションが実現した。この曲には、知る人ぞ知るソウル・ユニット=ルディ・ラヴ&ラヴ・ファミリーの「Does Your Mama Know」という曲が使用されていて、70年代モノをサンプリングした90年代ヒップホップ、のような造りになっている。サンプリング・ネタでは、「Think」のヒットで知られるファンクの歌姫=リン・コリンズの「Ain't No Sunshine」(1971年)を使った「Fascinated」も好曲。
その他のコラボレーションでは、2000年代中期に頭角を現した女性シンガーソングライター、ティードラ・モージズがボーカルを務め、過去の作品でも活躍した、米フロリダの音楽プロダクション=J.U.S.T.I.C.E.リーグがプロデュースしたミディアム・メロウ「Vegas Residency」や、 アコースティック・ギターのソロパートが、どこかラテンっぽい雰囲気を醸す、ジョン・レジェンドとリル・ウェインの2000年代コンビ(?)による「Maybach Music VI」、今年初頭、アルバム『Hoodie SZN』が全米首位獲得を果たしたア・ブギー・ウィット・ダ・フーディと、米マイアミ出身の若手ラッパー=デンゼル・カリーが参加した、ジャジーな「Running the Streets」などがある。
アルバムのラスト・ナンバーは、3rdシングルとして6月に発表したドレイクとのコラボレーション「Gold Roses」。米ビルボード・ソング・チャートでは39位、R&B/ヒップホップ・チャートでは16位まで上昇するヒットを記録している。両者らしい硬派なヒップホップで、ドレイクの新曲「Omertà」にも参加したOZや、アリアナ・グランデ、ポスト・マローン、タイ・ダラー・サインといった人気アーティストを多数手がけるラスカルズ等がプロデューサーとしてクレジットされている。ラプチャーというジャズ・ファンク・バンドの「Israël Suite」(1973年)というマイナーな曲が使われているが、このあたりのチョイスもどこか昔っぽい。
米マイアミを代表するラッパーとして第一線で活躍し続けるリック・ロスの最新作は、新旧問わずヒップホップ・ファンに評価される(であろう)いいアルバムだった。ハード~メロウまで均等に配置され、一曲の一曲のインパクトも強すぎず、弱すぎずのいい塩梅。処女作にして初の全米1位を記録した『Port of Miami』(2006年)ほどの衝撃はないが、未だ現役であることを知らしめたのではないだろうか。
Text: 本家 一成
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