2019/08/13
NHK総合テレビで放送が終了した『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』のファイナルエンディングテーマである「光の涯」の配信リリースにあわせて、プロデューサーのSUGIZOと歌唱を担当したアイナ・ジ・エンド(BiSH)がガンダムや楽曲への想いを語った。
――アイナ・ジ・エンドさんにとって『機動戦士ガンダム』はどんな印象の作品でしょうか。
アイナ・ジ・エンド(以下アイナ):正直、全然知らなかったんです。ただお父さんがガンダムを好きだということは知っていたので、今回のお話をいただいてから「(『機動戦士ガンダム』は)どんな物語なの?」と話を聞かせてもらったり、ガンダム好きな友だちからもガンダムには色んなシリーズがあってとてもじゃないけど数日では知り尽くすことは出来ない、と教えてもらったりもしました。だから知識としては深く持ちあわせてはいないのですが、興味はすごく湧いているのでこれを機に紐解いていきたいと思っています。
――『機動戦士ガンダム』を知りたい、と思われたきっかけとなったのが今回のテレビシリーズ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』(以下『THE ORIGIN』とも表記)のエンディングテーマ「光の涯」です。この曲を歌って欲しい、というオファーが来た際にはどのようなお気持ちでしたか?
アイナ:「(オファーする)相手を間違えてないですか?」って思いました。大丈夫ですか? って。驚きが大きかったです。それと、SUGIZOさんがBiSHを知っていてくださるんですか? とびっくりもしました。
――なぜアイナ・ジ・エンドさんへオファーをしようと思われたのでしょうか。
SUGIZO:BiSHを知っていました。元々スタッフの関係も近かったこともあって、「面白いアーティストがいるよ」って聞いていたんです。BiSHはもちろんインパクトがあったんですけど、アイナちゃんのソロ曲を聴いたときにすごく胸を打たれて。この人のポテンシャルは無限大だなと思ったんですね。一見、現代の象徴的な女子なようでいて、実は中にドロっとしたものを感じて。最初にお会いしたときにも「(アイナの中にある)闇がいいよね」という話をしました。
アイナ:(頷いて)はい。
SUGIZO:いや、その闇の部分は今の女の子たちが普通に持っているのかな……、ある意味、深い部分というのを感じたんです。持ってるの? 10代や20代の女の子たちって、そういった闇とか屈折した部分というものを。
アイナ:形は違うとしても、それぞれが持っているものだという気がします。
SUGIZO:昔よりも感情の棘とか矛盾とか汚い部分や暗い部分を表現しやすくなっているよね。例えば90年代は必ずしもそういう場があったわけではなかったから、(アイナは)そういったものを持つ今の女性たちの象徴のような気がして。この子に、すごく深淵で哲学的な歌をうたってもらいたいと思ったんです。結果、僕的には大正解でした。アイナちゃんが持っている痛みや、彼女の声が持っている歪み観やエッジ感が、すごく綺麗な曲をいい意味で汚してくれた。やっぱりこの子のポテンシャルってすごいな、と自分の審美眼を褒めてあげました。
――SUGIZOさんと最初にお会いになったときにはアイナさんはどんな感想がありましたか?
アイナ:うぉぉぉ! と込み上げるものがありました。「動いている~! 本物だー!」みたいな(笑)。LUNA SEAのDVDや『永遠の言葉』という本でしか見ていなかったので、ちゃんとご本人にお会いしたのが初めてで。そこからびっくりでした。
――カバーすることになった楽曲「光の涯 feat. MORRIE」を受け取られて、聴いたときの印象を教えてください。
アイナ:儚いのかなと思ったんですけど、星が浮いているような感覚があったので、これは「儚い」という言葉で表現するのは違うな、とも思いました。じゃあ、なんだろうと思ったときに浮かんだのが、ちょっと歪んだブラックホールの中で浮いている綺麗な星だったんです。「渾沌」という言葉がイメージできる、そんな曲だな、あまり聴いたことがないな、と思いました。
――なぜアイナさんとのコラボ曲に「光の涯」を選んだのでしょうか。
SUGIZO:この曲はある意味、セルフカバーになるんですが、なぜかわからないけれどこの曲しかない、と思ったんです。元々は(DEAD ENDの)MORRIEさん、いわば僕ら界隈のシーンの中での僕が最も尊敬する先輩と作った曲です。今はラッキーなことにとても親しくさせていただいていますが、僕が高校生の頃は、彼は雲の上の存在だった。僕の知る限り最も研ぎ澄まされた人で、同時に最も知的で博学な人。MORRIEさんの音も言葉もすごく好きなんです。2年前にMORRIEさんとコラボをしてこの曲を作って、そのときはご本人に歌ってもらったんですが、それから1年後に『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』で主題歌を担当することになったときに、なぜかこの曲がぴったりと自分の中にハマって。とても重要な曲だったんです。なぜかはわからないけど、とても重要な曲だった。
――でも、楽曲を作られたときには『機動戦士ガンダム』の世界に通じるということは……
SUGIZO:全く意識していない。だって『THE ORIGIN』の音楽の話だってなかったし。ただ自分の中での死生観とか輪廻、光と闇を僕とMORRIEさんとでとても大切に育てた楽曲が、結果としてオファーをいただいたときにものすごくガンダム的だと思って、『THE ORIGIN』という作品をより深淵の方向に引っ張ってくれるんじゃないかと感じました。「セルフカバーなんですけど、今回、試してみたいんです」と(当時のサンライズ社長・現バンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長)宮河社長にお話をしたら「ぜひ、やってみましょう」と言ってくださって。これをまさに僕やMORRIEさんの娘くらいの世代の女子が、僕らの言葉を歌ってくれたならどうなるんだろうな、と。世代を越えた化学反応が起きる気がしたんです。それに多分、この歌詞は普段のアイナちゃんなら絶対に書かない言葉じゃない?
アイナ:そうですね。それはあります。
SUGIZO:BiSHでは普段やらないような音楽性だから、彼女にとっては未知の世界だったはず。その未知なものに初めて触れたときの衝動は一生に一度しかないものだから。そこで生まれる大きなインパクトを彼女の中で表現してもらえたら、面白いものになる。彼女が僕が思う本物の表現者ならそれが出来るはずだ、と思っていた。そして見事に出来たんですよね。
アイナ:でもむちゃくちゃ難しかったです。レコーディングでそこまで突き詰めて音程を意識して歌う、という経験があまりなかったんですが、SUGIZOさんは練習で歌っている段階で「そのニュアンスでいい」って言ってくださって。そこから滑舌やピッチを直してくださったんですけど、そんな具体的に直されることも生まれて初めてだったんです。「こんなにストイックなのか」とまずそこに衝撃を受けて。レコーディングは2日間あったんですけど、最後のあたりは意識が遠のいていました(笑)。
SUGIZO:曲も意識が遠のくような世界観だしね(笑)。
アイナ:でもニュアンスを大事にしてくださったので、自分からにじみ出てくる表現はそのまま歌えたんですけど、さらに表現するためのテクニックみたいなものを自分が如何に持っていないかを思い知らされて、もっと練習しないとな、と思わせてもらったレコーディングでした。(後編へ)
取材・文:えびさわなち
(C)創通・サンライズ
◎リリース情報
SUGIZO feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)「光の涯」
2019/8/13 配信スタート
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