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2019/08/10

日系移民はかけがえのないパートナー【世界音楽放浪記vol.60】

ロサンゼルスは、ニューヨークと並ぶ、アメリカのエンターテイメントの中心地の一つであり、北米最大の日本人街「リトル・トーキョー」を擁する都市だ。この街で、1934年から開催されている「二世ウィーク」というフェスティバルを取材したのは、2011年のことだ。

空港から直行で、挨拶と下見を兼ねて、「二世ウィーククイーン」にも選ばれた日系二世の方の自宅を訪れた。アメリカ人のご主人と2人暮らしのご自宅は、リトル・トーキョーから車で30分ほどのところにあり、お子さんやお孫さんの写真が、所狭しと飾られていた。インタビューの本番は、ご本人の希望で、かつて暮らしていたリトル・トーキョーにある、日本庭園で行われた。華やかだった街並み、家族や友人、幼い頃の収容所での記憶などを語り、最後に、お母さんがよく口ずさんでくれたという「赤とんぼ」を歌って頂いた。童謡の持つ、時を超えた普遍的な力に、心が震えたのを覚えている。

二世ウィークは、戦時中の強制収容によって中断され、戦後、この街に戻ってきた日系人の手によって、復興の象徴として再開された。かつては数多くの商店や5つの映画館が軒を連ね、数千人の日系人が暮らしていたが、その後、郊外に暮らす人が増え、街は寂れ、日本関連以外の店舗も多くなった。しかし、この日だけは、かつて暮らしていた人々や、その子孫らが一堂に会し、太鼓の演奏、盆踊り、コスプレ大会、パレードなど、街中が日本で溢れ、往年の賑わいを取り戻していた。

街の中心部には全米日系人博物館がある。日系人移民の苦難の歴史を知るためにも、一度は必ず訪れるべき場所だ。今でこそ、飛行機でたやすく訪れることができるロサンゼルスも、かつては全財産と命を賭け、不退転の決意で上陸する地だったのだ。

リトル・トーキョーには、1903年に創刊された「羅府新報」という日本語新聞の本社もある。長らく、日系人社会の情報源として、重要な役割を果たしてきた。しかしながら、時を経るごとに郊外の住宅地に住む人々も増え、英語を母国語とする子供たちも増えていった。現在では、週3日だけ、発刊しているという。郊外には、北米唯一の日本語ラジオ局「TJSラジオ」も放送しており、いまだに、日本語でリクエストが届くという。

思えば、中華街やコリアンタウンが世界のあちこちにあるのに対し、日本人街と呼ばれる区域は、海外では、それほど多くは存在しない。ブラジル・サンパウロのリベルダーデを訪れた時のこともいつか記そうと考えているが、日本色は、数十年前より、はるかに薄らいでいると聞いた。

2016年に、沖縄県那覇市で開催された「世界のウチナーンチュ大会」のイベント企画に関わった。およそ40万人の沖縄系移民が、北中南米をはじめとする世界中から集結するこのフェスティバルは、さながら、ワールドカップのような趣だった。客席に向かい「ペルーから来た方!」「ハワイから来た方!」など呼びかけると、国旗や州旗などが一斉に振られる。それぞれの故国のノリで参加しながらも、「てぃんさぐぬ花」などの沖縄民謡がステージで歌われると、全員が口ずさんだ。親世代の中には、10代の子供をこの大会に参加させて、故国の地を踏ませるために、貯金を全て使った方もいたということだ。その話を聞いて、ロサンゼルスの地を踏んだ先達のことに、私は思いを馳せた。

日系人移民は、日本にとって大切なパートナーだ。彼らと如何に密な関係を築けるかが、これからの日本にとって重要な課題であることは間違いない。リトル・トーキョーの建物の壁には、このように日本語で書かれていた。「ロサンゼルスの小東京は、我々の心の故郷です」。

Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。

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