2019/07/27
このコラムの初稿を書いた翌日、京都アニメーションで、信じられない事件が発生しました。犠牲となった方々のご冥福、並びに、入院している皆様のご快癒を心からお祈り申し上げます。私にとって、アニメやアニソンには、感謝という言葉しかありません。逡巡しましたが、タイトルも含め、手を加えず、そのまま、発表させて頂きます。
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「日本のアニメは世界を席巻」。調べもしないで、伝聞情報で書かれた記事は信用しない方が良い。日本のアニメは世界のメインストリームではない。ディズニーが制作した「アナと雪の女王」一本の興行収入は、日本のアニメ市場全体の70倍にも達した。
しかし、アニメが人々の心を捉え、日本のポップ・カルチャーを世界に広げる原動力となっていることは、紛れもない事実だ。間違いない、私が証人になる。初めてその現場を目撃したのは、2010年の「Japan Expo」(パリ・フランス)だった。会場の中庭には、アニメのコスプレをした老若男女の笑顔が溢れていた。フランスだけでなく、ベルギー、スペイン、オランダなど、全欧州から「この日のため」に集った人々。私は「リオのカーニバル」と同じ匂いを感じた。1年間働き、準備し、この日のためにコスプレをする。誰もがスターだった。
その翌年、「J-Fest」(ロシア・モスクワ)で、最も目立ったコスプレが「けいおん!」(2010)だった。制服を着てロックを奏でる女の子。それがとても新鮮に見えたのかもしれない。SCANDALが世界中で支持を得たのも「けいおん!」から生まれ出たリアリティを世界中の音楽ファンが感じ取ったことが一因だろう。ロシアのコスプレイヤーの女の子から、1つのヒントとなる言葉を得た。「イベントで、このコスプレをしてたら、同じ衣装を着ている女の子に出会った。私は友達がいなかったけど、それから、同じ思いを持つ友達に会えるようになったの」。
2016年、アメリカ・ヒューストンで開催された「Anime Matsuri」の会場で、微笑ましい光景に出会わした。「響け!ユーフォニアム」(2015)のコスプレをしている男女に出会ったのだ。髭をたくわえた男性は語った。「全くの他人なんだよ。ここに来たら、彼女に出会ったんだ」。女性が語った。「本当に驚いたわ!コスプレは人生を変えたの」。
思えば、どちらも京都アニメーションの作品だ。「涼宮ハルヒの憂鬱」(2006)、「映画 聲の形」(2016)など、日本の人と風景が、美しく繊細に表現されている。世界中の人々は「日本の視線」で描かれた世界観に心を奪われている。京都という街の「地力」も、特別な魅力を加味しているのかもしれない。
アニメイベントに集まる人々は「孤独」であることが少なくない。人生は、希望に満ち溢れている時期だけではない。出口の見えない悩みや苦しみを誰にも打ち明けられず、暗闇の中に一人取り残される。そんな思いを抱く人も少なくないのではないだろうか?アニメは、人生の暗路に道を照らす、一筋の光のような存在なのだ。光の先には、同じような心の傷を抱えた仲間たちがいる。その輪が、まるで水紋のように、世界中に広がり続けているのだ。
2017年、ロサンゼルスで開催されていた「アニメエキスポ」で、若い女性のコスプレイヤーは、私にこう言った。「アニメやコスプレの前では、職位も、人種も、性別も、全てが平等なの」。世界的な映画の都で、私は、日本のアニメは、ハリウッドを目指さなくても良いと感じ取った。「個の時代」にふさわしい、一人一人の心に届き、喜びを与える、セレンディピティであってほしい。だからこそ、世界中のファンは、賛辞を送り続けているのだ。なぜなら、アニメは、人生に未来を与えてくれる、日が昇る国からの陽光なのだから。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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