2019/07/16
英国からヨーロッパ全域、全米、そしてアジアと世界中で高い人気を誇るエド・シーラン。これだけの支持を得ているのは、ジャンルに囚われない多様な音楽性にある。自身の楽曲のみならず、ポップ・ミュージシャンからラッパー、R&Bシンガー、ロックにカントリー、K-POPまで、幅広い層のアーティストとコラボレーションしてきたことも、彼のキャリアをここまで積み上げた理由として挙げられる。
本作『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』は、これまでに楽曲提供したアーティストや、自身がゲストとして参加した、もしくはゲストとして参加してもらったアーティストを中心とした、タイトルが示す通りのコラボレーションズ・プロジェクト。メジャー契約前の2011年には、自主レーベルから『No.5 コラボレーションズ・プロジェクト』という同コンセプトのEP盤を発表していて、大々的なプロモーションをしていないにもかかわらず、UKアルバム・チャートでは46位まで上り詰めるスマッシュ・ヒットを記録した。本作には、デブリンやワイリーなど英国を代表するヒップホップ・アーティストたちが参加している。
本作からは、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした1stシングル「アイ・ドント・ケア」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で2位にデビューした後、上位にランクインし続けるロング・ヒットを記録している。両者は、ジャスティンの4thアルバム『パーパス』(2015年)から3rdシングルとしてカットされた泣かせのメロウ「ラブ・ユアセルフ」でコラボし、意気投合。同曲は、翌2016年の全米シングル・チャートを制すモンスター・ヒットとなった……のも、もう3年も前の話だ。
「アイ・ドント・ケア」は、その「ラブ・ユアセルフ」とは対照的なテンポの良いエレクトロ・ポップ。「ラブ・ユアセルフ」が、ビヨンセとのデュエット・バージョンも話題を呼んだ「パーフェクト」なら、「アイ・ドント・ケア」は2017年の年間シングル・チャートを制した「シェイプ・オブ・ユー」といったところか。親しみやすい旋律に細やかな音作り、カラダが自然と横揺れする良質なビートと、エド・シーラン、そしてゲストのジャスティンらしさが全面に出たダンス・トラック。最新のCG技術を駆使したポップなミュージック・ビデオも最高の出来栄え。ソングライターには、両者に加えマックス・マーティン、シェルバックといったおなじみのプロデューサー陣が参加している。
続いてリリースされた2ndシングル「クロス・ミー」は、 チャンス・ザ・ラッパーとPnBロックをゲストに招いた意欲作。エレ・ポップでもあり、ザ・ウィークエンドを彷彿させるオルタナR&Bっぽくもあり、ヒップホップの要素もありと、まさにジャンルをクロスオーバーした傑作で、「アイ・ドント・ケア」とはまったく違う魅力に溢れている。女性ダンサーが彼らに乗り移られる(?)超ハイテクなMVと合わせて聴くと、なおこの曲の良さが実感できるので、是非。
3rdシングル「ビューティフル・ピープル」は、新作『フリー・スピリット』が大ヒットを記録しているR&Bシンガー、カリードとのデュエット曲。どちらの良さも際立てられているが、これまでの(彼らの)作品とは少しニュアンスが違う、バロック・ポップのようなナンバーで、新しい試みともいえる。イケてない男女が、イケイケの連中が溢れる空間に放り込まれるという、観てて気まずくなるようなビデオが印象的なこの曲。そんな成金や見た目だけに惑わされる誰かを批判しつつ、もっと大事なものは何かを歌っているメッセージ・ソングで、カリードをフィーチャーしたのも、そういった意味合いがあるからだろう。
新しい試みといえば、4thシングルとしてリリースした「ブロウ」こそ強烈。これまでのソロ作品では決して聴くことのできなかった、ハードロックという異ジャンルに挑戦していて、これを完璧に歌いこなしちゃっているからまた凄い。ゲストとして迎え入れたのが、米カントリー歌手のクリス・ステイプルトンと、R&Bのジャンルを超えてオールジャンルを網羅する、ブルーノ・マーズの2人。いずれもロックを得意とするアーティストではあるが、ここまで激しくシャウトするのも珍しい。彼らのボーカルに合わせて女性シンガー(モデル?)が歌う、80年代風のライブ・ビデオもまた(ある意味)新しい。
「ブロウ」と同日には、チャンス・ザ・ラッパーやサム・スミスの作品で注目された女性シンガー、イエバをフィーチャーした「ベスト・パート・オブ・ミー」も先行シングルとしてリリースしている。この曲は、お互いの愛を確かめ合うシンプルなラブ・ソングで、前シングルとは打って変わったエドお得意のアコースティック・バラード。代表曲「パーフェクト」や「シンキング・アウト・ラウド」(2014年)にハマった方なら、間違いなくこの曲も好みのハズ。ソングライター/プロデューサーには、今年自身のシングル「イーストサイド with ホールジー&カリード」を大ヒットさせたベニー・ブランコがクレジットされている。
トラヴィス・スコットをフィーチャーした「アンチソーシャル」は、最新の流行を取り入れたヒップホップ・トラック。冒頭では高速ラップも炸裂させていて、本当に何でもできる器用な人だと感心してしまう。この曲は、アルバムの発売日にミュージック・ビデオも公開されていて、エグいシーンをコミカルに画いた、ユニークな構成と目まぐるしい展開に惹き込まれる。
シングル曲以外のトラックも、文句なしの出来栄え。 カミラ・カベロとカーディ・Bによる「サウス・オブ・ザ・ボーダー」は、彼女たちのエキゾチックな魅力が存分に引き出された、夏の夕暮れ時をイメージさせるトロピカル・ポップ。プロデュースは、前述の「シェイプ・オブ・ユー」手掛けたイングランドの人気プロデューサー=スティーブ・マックが手掛けていて、たしかに同曲に似せた雰囲気を醸している。
女性シンガーが参加したナンバーでは、昨年「ブード・アップ」で大ブレイクを果たした女性R&Bシンガー、エラ・メイとデュエットしたチキチキ・ビートの「プット・イット・オール・オン・ミー」と、【第61回グラミー賞】で5部門にノミネートされたR&Bシンガー、H.E.R. (ハー)がゲストとして参加した「アイ・ドント・ウォント・ユア・マネー」もすばらしい出来栄え。後者は、ドレイク、リアーナ、ニッキー・ミナージュなど人気アーティストを多数手がける、ナインティーン・エイティファイヴがプロデュースを担当している。
2000年代初期を代表する2大ラッパー、エミネム&50セントとコラボした「リメンバー・ザ・ネーム」は、彼らと同時期にヒットを飛ばしたアウトキャストの「ソー・フレッシュ、ソー・クリーン」(2001年)がサンプリング・ソースとして使われている。当時をまんま再現したようなヒップホップ・トラックが、アラサー~アラフォー世代には懐かしく聴こえるカモしれない。ミーク・ミル&エイ・ブギー・ウィット・ダ・フーディとコラボした「1000ナイツ」も、1周前のヒップホップを焼き直したような創りになっている。
グライム・ラッパーのストームジーが圧倒的存在感を放つ「テイク・ミー・バック・トゥ・ロンドン」は、スクリレックスがプロデュースを担当。スクリレックスは、14曲目に収録された哀愁系メロウ「ウェイ・トゥ・ブレイク・マイ・ハート」で、フィーチャリング・アーティストとしてもクレジットされている。そのストームジーのデビュー・アルバム『Gang Signs & Prayer』(2017年)にも参加した、ロンドン出身のラッパー=J.ハスと、他アーティストの作品に引っ張りだこのヤング・サグの2人がボーカルを担当するロード・ラップ風の「フィールズ」、アルゼンチンのレゲトン系シンガー=パウロ・ロンドラと、巧みなピアノ技術も高く評価されているロンドン出身のラッパー、デイヴによる「ナッシング・オン・ユー」と、どれをとってもシングル曲として機能するほど完成度の高さ。ヒップホップ~R&B系のアーティストが中心ではあるが、そのテの曲が苦手な方も、十分楽しめるアルバムだと断言できる。
そういえば、 2017年にリリースした3rdアルバム『÷(ディバイド) 』を発表した後に、「次のアルバムは売れないかもしれないけど、愛される作品にはなる」と話していたが、それは本作のことなのだろうか、それとも4thアルバムとしてリリースされる次作のことなのか。ブルース・スプリングスティーンの音楽に影響されたもの、とのことで、おそらく本作のことではないと思われるが、このアルバムを聴くかぎり、セールス的に振るわないとしても、ファンが頷ける作品を届けてくれることは間違いなさそう。
Text: 本家 一成
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