2019/06/25
“2010年代を代表する一曲”を挙げるなら、まっさきに「アップタウン・ファンク」を選ぶ。好き嫌いは別として、この曲にはそれだけのインパクトがあり、リスナーのテンションを持ち上げる絶大なパワーがあるからだ。海外のみならず、日本でもCMやテレビ番組などに多数起用され、人気を博した……が、ボーカルを担当した“ブルーノ・マーズの曲”というイメージが強く、マーク・ロンソン名義のシングルということを「知らなかった」という人も多い。
その大ヒット曲「アップタウン・ファンク」(2015年)を収録した前作『アップタウン・スペシャル』の発売から早4年。遂にそれに続く新作『レイト・ナイト・フィーリングス』が完成した。同曲を超える衝撃的なタイトルはないものの、一曲一曲、細部まで丁寧に仕上げたことが伺える傑作が揃っている。また、本作では歌詞の制作にもマーク自身が積極的に参加していて、2年前の離婚が尾を引いているようにも思える「失恋ソング」といわれるナンバーが中心となった。旋律がどこか物悲し気なのも、そういった歌詞をイメージしてのものだろう。その色が強く表れたのが、本作からの1stシングル「ナッシング・ブレイクス・ライク・ア・ハート」だ。
「アップタウン・ファンク」を超えることはなかったが、同曲はイギリスとアイルランドで最高2位をマークし、その他のヨーロッパ主要国でもTOP10入りする大ヒットを記録した。ボーカルは、先日ミニ・アルバム『シー・イズ・カミング』を発表したばかりのマイリー・サイラスが担当。「恋愛の痛手こそ最大の苦しみ」と歌う失恋ソングで、エキゾチックなサウンドが、悲壮感漂う歌詞にぴったりハマっている。国内盤限定ボーナス・トラックには、3つのリミックスを収録。
2ndシングルとして発表した表題曲「レイト・ナイト・フィーリングス」も好曲。当時のガラージ・クラシックと並べてもまったく違和感ない、70年代ディスコのリメイクで、40年前の音を忠実に、且つ現代風に再現したマークの仕事っぷりには感服する。ボーカルを担当したリッキ・リーの宙を舞うような歌声も、曲の世界観を際立てていてすばらしい。この曲は、冒頭のインタールード「レイト・ナイト・プレリュード」からの流れでアルバムのオープニングを飾る。 リッキ・リーは、触ると崩れてしまいそうなメロウ・チューン「2AM」にもフィーチャーされている。
フィフス・ハーモニー脱退後も絶好調のカミラ・カベロが参加した「ファインド・ユー・アゲイン」は、ラテンを取り入れ大ヒットした「ハバナ」はじめ、彼女のデビュー・アルバム『カミラ』では聴けなかったタイプのシンセ・ポップ。ソングライターには、テーム・インパラのケヴィン・パーカーと、ヒップホップ系アーティストの作品で活躍するオナラブル・C.N.O.T.E.も参加している。女性目線で歌われているが、この曲でも「何度も失敗してしまった」、「元に戻る準備はできている」と若干未練がましいフレーズが多々登場する。
2人の関係が壊れていく様を歌った「ピーセズ・オブ・アス」では、昨年発表したデビュー曲「1950」で注目を浴びた、 自身のレーベル<Zelig Records>所属の女性シンガーソングライター=キング・プリンセスがボーカルを務めている。本作にフィーチャーされたアーティストが全員女性であることについては「意識していなかった」とのことで、統一したいというコンセプトの基、厳選したワケではないらしい。これには、アルバム制作に深く携わったイルシー・ジューバーの存在もあるのだとか。
サム・スミスやエド・シーランの作品でも知られるイェバは、計3曲にクレジットされた。エリカ・バドゥ路線のネオソウル「ノック・ノック・ノック」~ダンスホールを基としたフロア・トラック「ドント・リーヴ・ミー・ロンリー」~90年代のヒップホップを彷彿させる「ホエン・ユー・ウェント・アウェイ」と3曲連なっていて、それが1つの作品ともとれる構成になっている。この3曲を聴くと、マーク・ロンソンがビートをベースにして曲を組み立てる“リズム職人”であることが良くわかる。
アリシア・キーズが参加した「トゥルース」は、彼女の代表曲「エンパイア・ステイト・オブ・マインド」(2009年)にも通ずるものがある。どこかルーツ・ロック/レゲエの要素も感じられる「ホワイ・ハイドfeat.ダイアナ・ゴードン」、ドリーミーなエレクトロ・バラード「スピニングfeat.イルシー」等、本人が公言しているように、これまでの作風とは一新したサウンドもちらほらみられ、聴き手を飽きさせない構成になっている。マーク自身がファンだったというエンジェル・オルセンが参加した、エイティーズ・ディスコ調の「トゥルー・ブルー」も面白い。
ソングライターとして参加した映画『アリー/スター誕生』の主題歌「シャロウ」が、各映画賞でノミネート/受賞する功績を残し、今年春には違うカタチで注目されたマーク・ロンソン。同曲や「アップタウン・ファンク」の大ヒットが邪魔し、なかなか思うように自身の作品を制作できない時期もあったと思われるが、苦悩しただけはあり「今までに作ってきた作品の中で最も重要なアルバム」と宣言した通りの傑作に仕上がったといえる。
Text:本家一成
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