2019/06/22
大学の先生を始めて、今年度で4年目になる。
最初に担当したのは、2016年度、慶応義塾大文学部の「現代芸術」。「日本音楽の世界伝播」という内容だった。教室では「ファクトベース」と「ライブ体験」という2つの軸で、授業を進めた。前者は「思い込みをなくすこと」。数々のデータや理論を援用して、日本の音楽は、実際にはどのように世界で聴かれているかを考察した。後者は、「実際に音楽の『作り手』の話を聞き、彼らの音楽を体感すること」。朝一限の教室に、海外でも活動している音楽家を私費を投じてお呼びし、時には演奏し、時にはDJプレイをし、時には歌って頂いた。元々、1年という約束だった。私は、翌年度の後任に宮沢和史さんとZeebraさんを推薦した。
2017年度、予想もしなかったことが起こった。明治大、武蔵大、上智大、関西大と、4つもの大学から、それぞれ異なる科目の講師依頼が届いたのだ。私は、春学期と秋学期、週2コマずつ、まさに全身全霊をかけて、講義を行なった。
200人近い受講生が詰め掛けた武蔵大社会学部の「音楽プロデュース論」。最新のSNSの技術を用いて「フォーマルのリテラシーを持つ、カジュアルな発信」の実験を行なった上智大の「グローバルメディア実践プログラム」。土曜日の朝、羽田から伊丹に向かい、100人以上の学生の待つ大阪の教室に通った関西大の「メディア産業論」。貴重な時間を過ごし、何事にも代え難い知見と経験を得た。
教室の内外で学生たちとの交流が始まり、さまざまな示唆やヒントを感じ取った。単なる選択科目の一つなのだが、SNSでグループが作られ、OB・OG会も開催されるようになった。いつしか、教え子たちは、私にとってかけがえのないシンクタンクへとなっていった。
今年度も、明治大国際日本学部で「クリエーター・ビジネス論」を担当している。この授業では、私は「アイデアソン」という手法を用いている。アイデアソンとは、異なる立場の者が、特定のテーマに沿ったグループ討議を行い、短期間で意見をまとめ、発表するというイベントだ。今年の受講者数は70人ほどだが、履修生は1年生から4年生まで幅広く、留学生もいる。
私は「世界を知りたいなら、まず、自分たちのことを知ろう」という呼びかけから、授業を始めている。無作為抽選で構成されたグループでは、まず自己紹介が行なれる。お互いの違いを理解し、集団の中で自分ができることを見出し、役割を分担する。コツを覚えると、学生たちは自主的に集い、連絡を取り合い、アイデアを形にするようになっていく。
並行して、「音楽試聴に関するアンケート調査」も実施している。「1人1ジャンル」の時代、自分「たち」はどのように音楽に触れ、聴き、楽しんでいるのか。例年通り、最後の授業で発表される予定だ。
幸運なことに、受講者数は、毎年、増え続けている。プレゼンテーションの際には、音楽業界の友人や知人も、審査員として力添えしてくださる。教えることは教わること。大学で教壇に立つ機会があることは、紛れもなく、私にとってかけがえのない宝物だ。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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