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2019/05/22

『ディヴァインリー・アンインスパイアード・トゥ・ア・ヘリッシュ・エクステント』ルイス・キャパルディ(Album Review)

 1996年生まれ、スコットランド出身のシンガー・ソングライター=ルイス・キャパルディ。幼少期にギターを習得し、12歳になるとパブで歌っていたというから、その早熟ぷりには驚かされる。兄もバンドマンだったそうで、その影響と、パオロ・ヌティーニというスコットランド人歌手にもインスパイアされたと、インタビューで話している。

 キャリアをスタートさせると、無名のアーテイストながらストリーミング・サービスSpotifyで2,000万回以上視聴されるという快挙を達成し、そのまま<ヴァージンEMIレコード>との契約に繋げる。才能の有無はいうまでもないが、運も持ち合わせたアーティストだ。

 2017年10月にリリースした初のEP盤 『ブルーム』は全世界で1億回以上試聴され、<BBC Sound of 2018>のロング・リスト入りを果たした。本作には、フランク・オーシャンやジョン・レジェンドなどを手掛ける音楽プロデューサーのマレーも参加している。翌2018年には2作目となる『ブリーチ』を発表。1Dのナイル・ホーランやサム・スミス等人気アーティストのツアーのサポート・アクトを務め、知名度を上げた。日本では【FUJI ROCK FESTIVAL '18】の独特なパフォーマンスが話題を呼び、ファンを獲得している。

 本作『ディヴァインリー・アンインスパイアード・トゥ・ア・ヘリッシュ・エクステント』 は、彼にとっての念願となるデビュー・アルバムで、そのフジロックでも披露された「Bruises」や「Fade」といった人気曲も収録されている。

 アルバムの1stシングル「Grace」は、英ロンドンのロックバンド=ルースターのボーカル、ニック・アトキンソンとの共作で、UKチャートで21位、本国スコットランドでは6位まで上昇するヒットを記録した。失恋の痛みをちょっと未練がましく、美しい表現で綴ったメロウ・チューン…だが、ローカル・ストリップクラブの檀上で脚を広げたり、ポールにまたがったりする姿を披露するミュージック・ビデオとの対比、というか温度差に、彼のユーモアのセンスや拘りみたいなものを感じる。

 2ndシングルの「Someone You Loved」は、イギリスのシンガーソングライターRØMANSをソングライターに、TMSをプロデューサーに迎えたピアノ・バラードで、UK、アイルランド、そしてスコットランドで初のNo.1獲得する大ヒットとなった。失った誰かへの想いを綴った歌詞、涙を誘う旋律、タイトルの類似からも、アデルの「Someone Like You」に通ずるものがある。同曲のビデオは、臓器移植に関わった家族の実話を描いたものだそうで、俳優ピーター・キャパルディが出演したことも話題となった。ルイス・キャパルディの声は、決して透き通った美声ではないが、こういった“想いの訴え”には適している。なお、そのボーカル・スタイルについては、ジョー・コッカーの影響を受けているとのこと。

 「Someone You Loved」に続き、UKチャートで4位、 アイルランドとスコットランドでは2曲連続の首位に輝いた3rdシングル「Hold Me While You Wait」も、泣かせのメロウ。本人曰く「バラードやミッドテンポの曲ばかりは作りたくない」とのことだが、これらのヒットでイメージが定着してしまったことは否めない。この曲もまた、離れていく誰かに修復を求める失恋ソングで、エンディングの熱演には感動というより、胸を締め付けられるような気持ちになる。

 シングル3曲や、EP盤 『ブルーム』にも収録された前述の「Bruises」は、いずれも心の痛みを歌ったバラード曲。トーヴ・ローとのコラボで知られるジョー・ジャニアックと、クリス・ブラウンやマドンナ、デヴィッド・ゲッタといった一流アーティストを手掛けるショーン・ダグラスがソングライターとして参加した「Forever」~絶唱する「One」、“孤独”について向き合う壮大なバラード「Don't Get Me Wrong」など、その他のタイトルも味わいは違うものの、曲調はスロウで統一されている。若干のマンネリ感はあるが、ブレのないスタイルは確立したといえる。同スコットランドのイケメンシンガー・ソングライター=デヴィッド・スネドンが参加した美メロ「Lost On You」も好曲。

 一方、エド・シーランを意識したような、スピード感あるブリティッシュ・ポップ「Hollywood」もクオリティ高く、このテのアップがもうちょっとあっても良かったかな、というのが個人的な感想。バラード曲がそれぞれ出来高なだけに、それを強調するための“別枠”が必要だったんじゃないかな、と。アルバム制作までの過程については、時間が掛かったことやストレス過多だったことなど、レコーディングにおける不満も暴露し、「数曲は良くない曲もあるかも」と自虐を交えてコメントしていた。自虐というか、これが多くのミュージシャンが抱える本音なんだろう。

 アルバムのリリースを発表して、11月に大規模なUKツアーを含むワールド・ツアーを行うことを明らかにしている。


Text: 本家 一成

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