2019/05/21
「コール・ミー・メイビー」の大ヒットで知られるカナダ出身のポップ・シンガー、カーリー・レイ・ジェプセン。ついこの間のようで、同曲でブレイクした2012年から7年が経過したというから、時の経つ早さには驚かされる。そんなカーリーも、昨年秋に33歳のバースデーを迎えるワケだが、本作『デディケイティッド』では、これまでの作品ではみられなかった“年齢を重ねたからこそ”の成熟さや、クールな一面も覗かせる。アルバムについては、「ロマンチックな愛についてでもあり、自己愛についての作品でもある」と話していた。
アルバムの3か月前にリリースされた先行シングル「ノー・ドラッグ・ライク・ミー」が、それにあたる。カーリーのシングル曲にしては地味な印象を受けるミディアム・ポップだか、いわゆる“スルメ”タイプの、聴けばきくほど味わいのある曲で、パステル・カラーを連想させるキュートなボーカルも、ぐっとクールダウンさせている。プロデュースは、ラテン・シンガーのシャキーラから、ナズやジェイ・Zといったレジェンド・ラッパーたちまで幅広く手掛ける、ジョン・ヒルによるもので、彼女の新境地を開いた一曲といえるだろう。「コール・ミー・メイビー」の呪縛には縛られず、こういったイメージを覆すような曲にも、どんどん挑戦していくべきだと思う。
一方、「ノー・ドラッグ・ライク・ミー」と同日にリリースされた「ナウ・ザット・アイ・ファウンド・ユー」は、カーリー節全開の超キャッチーなダンス・ポップ。「グッド・タイム」や「アイ・リアリー・ライク・ユー」といったヒット曲にも通ずる、軽快なトラックも健在だ。この曲は、翌3月から配信されたNetflixの『クィア・アイ』シーズン3のティーザーにも起用され、話題となった。プロデュースは、ビービー・レクサやホールジー等の人気シンガーを多数手がける、米LAの音楽プロダクション・チーム=キャプテン・カッツが担当。キャプテン・カッツは、本編ラストを飾るキュートなナンバー「パーティー・フォー・ワン」 も手掛けている。
4月に先行配信されたオープニング曲の「ジュリアン」は、米NYのダンスポップ・デュオ=ザ・ノックスと共作した、こちらもカーリーらしいキュートなエレクトロ・ポップ。2曲のシングルを挟み、適度に力の抜けたボーカル・ワークが聴きどころのミディアム・ポップ「ウォント・ユー・イン・マイ・ルーム」と、冒頭から華やかなタイトルが続く。次曲「エヴリシング・ヒー・ニーズ」は、エフェクトをキかせたユルめのミディアムで、「エモーション」と「レッツ・ゲット・ロスト」を手掛けた米LAのシンガー・ソングライター、CJ・バランがプロデュースを務めている。ハジけるような曲もカーリーらしくていいが、スロウも十分イケてる。
アルバムの発売前週に発表した「トゥー・マッチ」は、レゲエのリズムを取り入れたチルアウト系のミッド・チューン。この曲は、スウェーデンの女性シンガー・ソングライター=ヌーニー・バオとの共作で、カーリーに扮したブロンド美女を従え、独特のリズムに合わせてポージングするミュージック・ビデオも、ユニークな仕上がりになった。エド・シーランとジャスティン・ビーバーによる話題の新曲「アイ・ドント・ケア」に若干近いニュアンスも……。
米フィラデルフィアのヒップホップ・デュオ=チディー・バンの2人がプロデュースした 「ザ・サウンド」は、ピアノの静かなイントロではじまる、テンポを抑えたユルめのミディアム。トラヴィス・スコットやGイージー等、ラッパーのタイトルも手掛けるロジェ・シャハイエドによる「オートマティカリー・イン・ラヴ」や、英ロンドン出身の女性ソングライター=アレックス・ホープがソングライターとして参加した「ライト・ワーズ・ロング・タイム」も、サビのファルセット含め、全体的に大人っぽい仕上がりになっている。
前述のジョン・ヒルが手掛けた「ハッピー・ノット・ノウイング」や、米LAを拠点とする音楽デュオ=エレクトリック・ゲストと共演した「フィールズ・ライト」なんかは、女子力高めのキラキラ・ポップだが、これまでの元気いっぱいのカーリーとは少し温度差がある。パワフルな高音を聴かせるロック・チューン「アイル・ビー・ユア・ガール」や、ダンスホールっぽいリズムを刻む「フォー・シュア」も、過去の作品では決して聴けなかったタイプの意欲作だ。
リリース1年前に、楽曲のストックが100以上あると話していたカーリー。つまり、本作に収録されたタイトルは、そこから厳選された自信作、ということになる。キュートなルックスをアピールすることもなく、後ろ向きで俯くモノクロのカバー・アートからも、変革を狙った感じが伺える。
カーリーは、来月6月に本作のプロモーションで再び来日する予定だ。
Text:本家一成
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