2019/05/11
「国際」から「国内」へと、私のベイシックインカム的な仕事の軸足が移り、まもなく1年になる。「若い世代の支持を得るには」「若者たちにバズるには」。このような掛け声の元で、さまざまなプロジェクトに関わっている。世界中の人々と直にコミュニケーションを図り、大学で先生を務めている私にとって、違和感を覚えることも多々ある。「オジサン、オバサン(もちろん、私も含め)」の中には、SNSを自分ではやらない人もが少なくない。「若い世代のアーティストを呼にさえすれば、若い支持者が集まる訳ではない」というような「いろはのい」すら、なかなか分かってもらえないこともある。
マネージメントの視座から考えると、真っ先に必要なのが「即効性」であることに異論はない。「費用対効果」を短期間に実証可能であることを明確にプレゼンテーションできないと、提案も通らないだろう。音楽マーケットで例えると、「発売当初に劇的に売れる」というビジネスモデルが、即効性のある有難いものだ。しかし、世界的に「フィジカル」の比率が低下し、「ストリーミング」が成長の原動力となっている「いま」、音楽は、ますます「個」の人生と寄り添うものになっている。「ロングテール」と呼ばれる、最初の効き目は弱くとも「じわっとくる」楽曲が、現代のスタンダード・ナンバーとなったのだ。
学生たちには「データ」「インフォメーション」「インテリジェンス」という「情報の三様相」の考え方について、さまざまな事例やファクトを用いながら、基本的な視座の獲得を繰り返し教えている。時制で分ければ、「データ=過去」「インフォメーション=現在」「インテリジェンス=未来」だ。知見を得た彼らは、私が想像しようもないようなプレゼンテーションを、「アイデアソン」で行うこともある。どんな正統も、最初は異端だった。根拠を提示した「未来の可能性=インテリジェンス」を持った才能が、「何だ、これは?」を「へぇー凄い!」へと変えてきたのが、ポピュラー文化の歴史だ。前例踏襲のままなら、人類はいまだに石器を愛用しているだろう。
また、「少子高齢化が進む日本。ビジネスチャンスのメインターゲットは中高齢層」という、一見「ごもっとも」なインフォメーションに、「若い世代」を巻き込むのはどうかとも、強く思う。世界的に見たら、人口は増え続けている。同時代体験を共有している世界中の「若者たち」との連携を考えるのは、ごく自然なことではないだろうか。日本を見つめ直すと、唯一無二の姿が浮かび上がってくる。歴史を振り返れば、「南北朝」「戦国時代」も、中国のスケールに比べたら、はるかに小さいし、江戸時代のいわゆる「鎖国」(「松前藩」、「対馬藩」、「琉球国」、「出島」の「四穴」は、当然、理解している)は、「G7」で唯一の「近世において、民衆レベルで、日常的な他国との交流を絶っていた」という現象であることは間違いない。大衆には、アメリカ独立も、フランス革命も、知らされなかった。しかしながら、日本には世界中の最新流行が時代を越えて集積し、独特の発展を遂げてきたのだ。
「何故、世界のあちらこちらに、日本のことが好きな人々がいるのか」を考えるとき、インバウンドの観光客の声こそが、最大のヒントになる。自分の魅力は、自分では分からないこともあるからだ。自分たちのことを「好き」と言ってくれる世界中の人々を、「ミクロ=個」で増やしていこことが、とても重要だ。「個」と「個」の交流を、ネットを通して自然に行える「ミレニアム世代」の活躍する時が、いよいよ、到来した。私は、「20世紀の成功体験者」ではなく、教え子世代の声を活かすにはどうしたらよいのか、日々、思案している。
Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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