2019/02/12
2018年8月にリリースした4thアルバム『スウィートナー』から、およそ半年という短いスパンで制作された、アリアナ・グランデの5枚目となるスタジオ・アルバム『thank u, next』。本作の発売までに、「thank u, next」(2018年11月)と、「7 rings」(2019年1月)の2曲が先行シングルとしてリリースされているが、いずれも米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初登場1位を記録し、アルバムの注目度を高めている。
アリアナにとって、シングル曲としては初の全米No.1獲得となった「thank u, next」。この曲は、3rdアルバム『デンジャラス・ウーマン』(2016年)や前作『スウィートナー』でも大活躍をみせたトミー・ブラウンによるプロデュースで、制作陣には、 アリアナの友人でもあるシンガー・ソングライターのビクトリア・モネや、同曲のミュージック・ビデオにも出演したテイラー・パークスといった、才女たちもクレジットされている。
過去の先行シングルと比較すると若干地味で、代表曲「プロブレム」(2014年)のようなポップ感や、前作からの先行曲「ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ」のようなドラマティックな展開もない。しかし、トラックは最先端の流行をしっかりおさえているし、聴けばきくほど耳に残る中毒性はある。彼女のお得意とする“張り上げ系”ではない、テンションを抑えたボーカルも、この曲の魅力であり、ヒットした理由といえるのではないだろうか。
2ndシングルの「7 rings」も、前述の3者による制作・プロデュース。映画『サウンド・オブ・ミュージック』の「My Favorite Things」をまんまサンプリングしたヴァースから、盗作騒動も浮上したラップ・パートを、最新のトラップ・ポップに乗せて歌う、アリアナ史上最もヒップホップ色の強いナンバーで、全米での首位獲得も納得の出来栄え。リリックも、いわゆるボースト(お金自慢)的なニュアンスが含まれていて、“殻を破った”音楽性の転身がうかがえる。
新作『サンキュー、ネクスト』は、この2曲をベースとしたR&B中心のアルバム。ダークカラーのリップに、フェイク・タトゥーをペイントしたカバー・アートからも、可愛さを売りにしたポップ・アイドル的要素は取っ払っている、ように思える。
アルバムは、音域の広い歌唱力を存分に披露した、アリアナらしいメロウ・チューン「imagine」で幕を開ける。この曲は、昨年のホリデー・シーズンに先行トラックとして公開され、シングル曲ではないにもかかわらず、上位ランクインを果たした人気曲。アッシャーの「グッド・キッサー」(2014年)やアレッシア・カーラの「ヒア」(2015年)などをヒットさせたポップ・ワンゼルによるプロデュースで、トップ・アーティストのバラード曲を多数手がけるプリシラ・レネア(リアーナ、マライア・キャリー等)もソングライターとして参加している。ポップ・ワンゼルは、90年代風のR&Bトラック「in my head」のプロデュースも担当した。
「imagine」から、シングル曲と同じメンバーで制作された同調のミディアムR&B「needy」~女子力高めのキュートなポップ・チューン「NASA」へと続く。彼らは、7曲目に収録されているレゲエ調の「make up」の計5曲を制作・プロデュースしているが、いずれもミディアム・テンポではあるものの、それぞれ味覚の異なる“個性”を表現している。
マーチング・バンドのようなオープニングではじまる 「bloodline」は、アリアナの作品ではおなじみとなったスウェーデンの音楽プロデューサー=イリア・サルマンザデと、ニッキー・ミナージュ&ジェシー・Jとのコラボ・ソング「バン・バン」(2014年)や「ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ」などをヒットさせたサバン・コテチャ、そしてマックス・マーティンの3者がタッグを組んだナンバー。この曲の他にも、アリアナらしさを存分に発揮したダーク・ポップ「bad idea」や、クリスチャン・ソングのような美しいバラード曲「ghostin」も、彼らが制作・プロデュースしている。
その「ghostin」には、昨年薬物過剰摂取により死去した元恋人のラッパー=マック・ミラーの遺作『Swimming』から、「2009」の一部が拝借されている。歌詞の内容も「誰かを想いながらも、別の誰かと付き合っていることを懺悔している」と、元彼であるマックを連想させるようなフレーズが多々見受けられ、祈りを捧げるかの如く、ひとつひとつの単語を丁寧に繋げて歌うアリアナが、今でもマックへの想いを募らせていることがうかがえる。本作には、「thank u, next」や「bloodline」など、“過去の交際歴”をニオわせるナンバーが目白押し。歌詞の内容だけにフォーカスをあてれば、女子受け必須のアルバムといえるカモ?
アルバムの発売同日にリリースされた3rdシングル「break up with your girlfriend, i'm bored」には、2000年のアルバム・チャートを制したイン・シンクの大ヒット作『ノー・ストリングス』から、キャンディ&シェイクスピアが手掛けた「It Makes Me Ill」がサンプリング・ソースとして起用されている。当時を彷彿させる“チキチキ系”のトラックが懐かしくも新しく、リバイバルにも大きく貢献した。2人のアリアナがチャールズ・メルトンと絡むミュージック・ビデオは、公開初日で3,500万視聴を突破。こちらも、上位ランクインが期待できそうだ。女性ソウル・シンガー=ウェンディー・レナのクラシック・ナンバー「After Laughter」(1964年)からはじまる、ジャスティン・トランターが手掛けた「fake smile」も好曲。
リリース後、主要各国のiTunesチャートで1位に初登場し、アメリカの初週売上は30万枚を記録するだろうと報じられている、アリアナのニュー・アルバム『サンキュー、ネクスト』。全米アルバム・チャート“Billboard 200”では、2016年の3作目『デンジャラス・ウーマン』(最高2位)以外の3作すべてが1位に輝いていて、『サンキュー、ネクスト』が1位にデビューすれば、通算4作目の快挙を達成することになる。
Text: 本家 一成
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