2019/02/16
75億もの人の中から、境遇や立場、出身地などが異なっていても、どこか共通点がある者同士が、いつしか巡り合う。偶然ではなく、必然なのだろう。振り返ってみれば、私の人生も、そんなことの繰り返しだ。一つ、もし法則性があるとすれば、ネガティブな時は負の連鎖が生じ、ポジティブな時には素敵な出会いが数多く訪れるということが、少なからずあったということだ。
10年代、大学関係者らが、私的な交友関係に多く加わった。大学との共同研究は、2010年、東京藝術大学の毛利嘉孝教授に、視聴者調査「J-MELOリサーチ」の調査協力をお願いしたことに端を発する。研究室の皆さんとの、10年代前半の日本文化の受容と拡がりの研究は、実に刺激的だった。毛利さんには、シンポジウムや、講義のゲストスピーカーにお声がけ頂いた。モスクワ、ボストン、ロンドンなど、世界中でシンポジウムやセミナーに参加や登壇することができたのも、毛利さんが道を拓いてくれたからだと思っている。
大学で講師を務めるようになったきっかけは、2013年、ベルリンに調査研究のために滞在していた慶應義塾大学の粂川麻里生教授に、「ベルリンに出張することがあるので、日本に興味のあるドイツの学生たちとお話しできませんか?」と連絡したことがきっかけだった。粂川さんは「アイドルについての論考を書いて頂けないですか?」「『現代芸術』という講座の非常勤講師を務めて頂けないですか?」等々、興味深いオファーをしてくださった。私の後任に宮沢和史さんとZeebraさんを推薦したり、牧村憲一さんと藤井丈司さんのトークショーにお誘いして講座の着想をアシストしたりと、ベルリンの地下鉄の駅で、プレゼントの日本酒を抱えて粂川さんをお待ちしてから今日に至るまで、ポップカルチャー研究の輪は大きく広がりつつある。
全くタイプの異なるお二人とは「サイゼリア学派」を自称している。学生たちを交え、講義や会議の後で、サイゼリアで議論することが常だったからだ。若い世代とのファミレスでの会話が、私にたくさんのヒントを与えてくれた。
その後、関西大も、武蔵大も、上智大も、明治大も、講師依頼を頂いた時期は、ほぼ同じだった。アダム・スミスではないが、神の見えざる手のようなものに導かれているような気もした。日々、深く考察し、準備し、休日にはフィールド・ワークを重ねた。刺激的な授業だったと、反響を頂いた。学生たちとも素晴らしい知己を得た。いまだに連絡を取り続けている教え子も多く、大学の枠を超え、後輩を先輩に紹介することもある。いつか、みんなで集いたいと考えている。
本拠地ともいえる、音楽家らとの輪も広がっていった。もちろん、日々、良いことだけではない。辛いことも、苦しいことも、理不尽なことも、多々ある。だが、一つしか世界がないと行き詰まることも、幾つも「場」があれば、良い相乗効果を生み出していく。
私の行きつけのバーの主人が、常々、口にする言葉がある。「全ては自分の身から」。いま、同時進行で、いくつかのプロジェクトを進めている。出会うべくして出会ったのだなと思えるような、不思議な邂逅ばかりだ。来るべき20年代に向けて、どんな方と出会い、一緒に何かを作り出すのか、自然体で、見えざる手に行方を委ねていきたい。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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