2019/01/31 18:00
今回の録音でタッグを組んだドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン、今更言うまでもないが、我が国のN響、そして自らが創設したばかりのエストニア祝祭管弦楽団を率いての活動はもちろん、しばしばフランクフルト放送響やパリ管などでもタクトを握るパーヴォ・ヤルヴィの進撃は、まさしく破竹の勢い。目下、世界で最も旺盛な活動を展開する全盛期を迎えた指揮者だろう。
そのパワフルさに一切の翳りを寄せ付けぬパーヴォによるこのディスクは、ワールド・リリースを大幅に前倒しにして我が国で先行発売となった、第3と第4交響曲を組み合わせた、ブラームス交響曲集完結編である。
第1楽章のモットー音型が管楽器が鳴り響いたあとで入って来る第1主題では、ヴァイオリンによる電撃的なテンションに耳を奪われよう。しかし同時に耳を捉えるのは、低音を担うパートのクリアな刻みはじめとする、主題を彩る各パートの存在感だ。
パーヴォはこの楽章の隅々まで散っているモットーを極めてクリアに鳴らす。だが、楽曲の構造的な聴取を求めるような、アカデミックなアプローチには接近しない。情熱の焔に突き動かされる自発性に満ちているのだが、かといって熱量だけで押し切る盲目的な演奏でもない。紡ぐ音楽がそもそも内包している差異と反復を、変容の姿を、緻密な設計図に基づいて、綿密細心に組み上げていく。短調で、第1主題とは対照的に翳りのある第2主題とのコントラストは、こうして、作為の痕跡を最小限度に留めながらも、目覚ましい効果を生むことになる。
クラリネットとファゴットが重要な役割を果たしつ、そこに革新的な和声の推移がもたらす浮遊感を醸し出してみせる第2楽章、憂いの表情を丁寧に彫り込んだ第3楽章もいいが、第4楽章の演奏が特に優れている。メロディアスな力感を色彩豊かに描かれつつも、その表情は、いわば凱歌のような勇壮さとは対極にある。めくるめく変転を丹念に追うひたむきさに瑞々しい快活さを編み込んでいる。
同世代からは先祖返り的な作風、との批判もあった第4番では、テヌートとルバートに対し、しっかりと取られる休符が刻み込む明快なマルカートやスタッカートを同居させた闊達なフレージングで、晦渋さからも曖昧模糊とした「ロマンティックな」重々しさからも距離を置く。ここでもパーヴォたちは、各々のパートそれぞれの存在感を活かし、いくつものレイヤーを透視図のように組み上げることで、重層性と立体感ある音楽を紡ぐ。いきおいその音楽の透明感が、テクストそのものが備えた愁いはじめとした表情の推移を、無理強いをすることなく十全に引き出してくる。
形式としては古びた、恐らくはパッサカリアと呼んだほうがよさそうなシャコンヌたる第4楽章は、音楽史上でも傑出した変奏曲の名手・ブラームスの作り上げた差異の反復、つまりここでも変容こそが化按針要の要素となっている。次々と変化しながら帯びる色彩は、ごちゃごちゃと色を並べない、奥行きと拡がりを備えている。
奇をてらわず、まずは各々のパートを律儀に色分けしてから重ね合わせる特徴的サウンド、これこそがパーヴォ=ドイツカンマーの交響曲全集全体を貫いている大きな特徴であり、この完結編も、その印象を更に強めるものとなっている。Text:川田朔也
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