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2019/01/22 18:00

『ハード・イット・イン・ア・パスト・ライフ』マギー・ロジャース(Album Review)

 米ブルックリンを拠点とするシンガー・ソングライター、マギー・ロジャース。日本での知名度はまだまだといったところだが、初来日となった【FUJI ROCK FESTIVAL '17】でのパフォーマンスが反響を呼び、注目度は高まりつつある。地味ではあるが、リスナーを魅了するだけの実力を持ち合わせていることは言うまでもなく、今後の活躍が期待されるアーティストのひとり、だといえよう。

 米メリーランド州出身、1994年生まれの24歳。名門・ニューヨーク大学の芸術学部に通っていた彼女は、特別授業に招かれたファレル・ウィリアムスに本作収録の「アラスカ」を披露したところ、大絶賛され、デビューのキッカケを掴んだ。といっても、ただの“ラッキーな”シンデレラ・ストーリーではない。作詞・作曲・プロデュースと、全ての楽曲を自身が手掛けているし、様々な楽器を演奏することもできる。ファレルの後押しがなくとも、ミュージシャンとしてのキャリアはスタートしていただろう。

 本作『ハード・イット・イン・ア・パスト・ライフ』は、満を持してリリースされた、彼女にとってのデビュー・アルバム。インディー・レーベルからリリースした2枚のアルバム、それから2017年2月に発表したEP盤『ナウ・ザット・ザ・ライト・イズ・フェイディング』があるが、スタジオ・アルバムとしては初のリリースとなる。

 収録曲は、全12曲。そのファレルも大絶賛のデビュー・シングル 「アラスカ」他、『ナウ・ザット・ザ・ライト・イズ・フェイディング』に収録されたナンバーも散りばめられている。サウンドは、その「アラスカ」のようなフォークとダンス・ポップが融合した、いわゆる“フォークトロニカ”が中心で、ファルセットやラップのようなパートも織り交ぜる彼女独特の歌唱、そして確たる世界観もしっかり表現されている。

 本作からリリースされた最新シングル「ライト・オン」は、ビルボードのアダルト・オルタナティブ・ソング・チャートで自身初のNo.1を獲得。また、ニュージーランドでも初めてのチャートインを果たした。この曲は、カルヴィン・ハリスやフローレンス・アンド・ザ・マシーン等の楽曲に参加したことで注目を高めている、英国のシンガーソングライター=キッド・ハープーンとの共作で、バックサウンドもさることながら、妥協点が見つからない旋律がとにかくすばらしい。ミュージック・ビデオでは、胸の高鳴りを表現した(ような)“マギー・ダンス”も披露している。

 ダンス・ミュージックの要素を含みつつも、どこかオーガニックな雰囲気を醸すのは、彼女の趣味がハイキングだったり、環境保護に関心を強くもっているからだろう。そういったニュアンスを強くもつのが、オープニングの「ギブ・ア・リトル」。カラフルで爽快なシンセ・ポップで、青い空の下“解放”されたようなマギーが佇むカバー・アートのイメージそのままのナンバーだ。ソングライターには、グレッグ・カースティン(シーア、ホールジー、アデル等)もクレジットされている。

 グレッグ・カースティンが手掛けた同調の「レトログレード」や、リッキー・リード(クリスティーナ・アギレラ、マルーン5等)がプロデュースした「バーニング」といったアップ・チューンから、語りかけるように言葉を並べるミッドテンポのメッセージ・ソング「オーバーナイト」~「ザ・ナイト」、涙腺を刺激するピアノの弾き語り「パスト・ライフ」、壮大な景色が目に浮かぶような「フォーリングウォーター」、そして2ndシングルとして発売され話題となった「オン+オフ」等、どれをとっても(聴き手の)満足度は高いはず。

 『ハード・イット・イン・ア・パスト・ライフ』は、マギーの感情をそのまま表現し、自然体を貫く彼女のスタイルが、そのまま歌になったようなアルバム。自分のやりたいこと、伝えたいことがこれだけしっかりカタチにできる作品は、滅多にない。


Text: 本家 一成