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2019/01/05

高千穂で迎えた新年【世界音楽放浪記vol.29】

明けましておめでとうございます。2019年も、何卒、よろしくお願い申し上げます。

新年は旅先で迎えることが多い。海外で過ごした時期もあるが、ここ数年は国内、それも何か縁を感じるところを訪れている。
昨年は石垣島で年を越した。5年ほど前から、沖縄に足繁く通っている。何か特別なことをする訳ではない。読書したり、曲を作ったり、プールで泳いだり、映画を見たり、美術館に行ったり。友人や馴染みの店も増え、スーパーのポイントも貯まった。初詣は、竹富島の御嶽だった。

最初に沖縄に行ったのは1995年、本土復帰50周年の時だ。仕事でご一緒した石嶺聡子さんから、ご親族が津堅島で民宿を経営していると聞き、泊りに行った。その際に「天に響(とよ)め さんしん3000」というイベントを偶然知り、観客となった。那覇の陸上競技場で3000人の三線奏者が演奏するという、スケールの大きなイベントだった。その感動的な出来事がきっかけとなり、仕事でも、プライベートでも、繰り返し訪れるようになった。沖縄のことは、いずれまた書きたい。

今年は、宮崎県の高千穂で新年を迎えた。非科学的なことも交え、その理由をお話ししたい。3年ほど前、ある友人の取り巻きから「悪霊が憑いている」と言われた。そんな訳はないと思いつつ、反論もできなかったので、沖縄のユタに見てもらうことにした。ユタとは、沖縄や奄美にいる民間霊媒師だ。出会う前は半信半疑だった。詳しいことは書けないが、あまりの千里眼に言葉を失った。スポーツ選手や芸術家らと同様の、1つの才能だと思った。悪霊はいなかった。代わりに、私は、ある神様が背中を押してくれているという。余談だが、そんな才能もないのにいい加減なことを忠言する輩に関わられていた友人は、その後、公私共に、なかなか大変な思いをすることになる。

私は、古事記の舞台を巡るようになった。元々、レヴィ=ストロースの影響もあり、神話に興味があった。神社に行っても、願いごとはしない。「お招き頂き、ありがとうございます」と挨拶をするだけだ。ちなみに、私はクリスチャン・ネームを受けている。親戚には僧侶も神職もいる。宗教的に寛容で、多様性を認める日本は、世界的には稀有な地であることは間違いない。

昨年、人生の転機が来たように感じ、別のユタにセカンド・オピニオンを伺った。またもや驚嘆した。そのユタが言うには、私を支えてくれる神の数が増えているという。「白いお面をした女性と、髪の長い男性が見えます」。数か月前に初めて訪れた、高千穂の神楽面ではないか。一切、科学的根拠はない。鵜呑みにするつもりもないし、全面的に信じている訳でもない。ただ、「気は心」ではないが、何かのサインが届けられたのだと、私は感じた。

昨年11月、改めて高千穂を訪れ、天岩戸神社の夜神楽を体験した。17時に始まり、地域の人々がオールナイトで奏で、舞う。おもてなしの料理も振る舞われる。ちょうど夜明けの頃に岩戸が開き、朝10時のエンディング前には、私のような来訪者も座に上り、一緒に舞う。日本のトラディッショナルなレイヴであり、トランス系のダンス・ミュージックである。岩戸地区の方から御礼の葉書が届いた。気持ちは決まった。日本の民俗音楽は、視座を変えれば新たな「内なる資源」になる可能性があると、私は常々考えている。自分なりに、日本の音楽に向かい合っていきたい。それが、新年の抱負だ。

皆さまにとって、2019年が素晴らしい一年になりますことを、心からお祈りいたします。Text:原田悦志


原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。