2018/12/15
2018年にSpotifyで私がどんな音楽を聴いたのかというリポートが届いた。1位はYMO、2位はジェネシス、3位はニュー・オーダー。仕事柄、非常に多くの楽曲を常に聴き続けている。だが、心をクールオフさせる時は、自分にとって心地よい音楽を選んでしまう。音楽は人生に寄り添うもの。私の「1人1ジャンル」の礎は、80年代のロックやテクノと、オーケストラによるクラシック音楽だ。
そして、この年末に、非常に嬉しい知らせが舞い込んできた。YMOの高橋幸宏さんと、ムーンライダーズの鈴木慶一さんによる、The Beatniksのアルバム『EXITENTIALIST A XIE XIE』が、記念すべき60回目の「輝く!日本レコード大賞 優秀アルバム賞」に輝いたのだ。6曲目の「Softly-Softly」は2017年度下期のJ-MELOのオープニングテーマ曲。私が、心から希った曲だ。
幸宏さんからは、サディスティック・ミカ・バンドやYMOなどの曲を聴き、1人のリスナーとして大いに感化されてきた。学生時代の私は、ソロ・アルバムも、何度も聴き返した。「EGO」(1988)や「A Day in the Next Life」(1991)は、最初の一音から再現できるほど、聴きこんだ。
慶一さん率いるムーンライダーズの「AMATEUR ACADEMY」(1984)は人生を変えたアルバムの1つだ。数字や略語だけのタイトルと、緻密に計算されたサウンド。ストレートなアイディアとユーモアが交錯した、ソロ・アルバムの「SUZUKI白書」(1991)にも、衝撃を受けた。
The Beatniksのアルバムを初めて手にしたのは、「Exitentialist A Go Go ビートで行こう」(1987)だった。ライブでお2人がよく言っている話だが、1曲目の「Total Recall」は、当時、ある自動車メーカーのCMソングとして書き下ろされた。しかし、そのタイトルを見た経営陣がNGを出し、幻のタイアップ曲となったという。その代わりに、坂本龍一さんとイギー・ポップの曲が流れた。タイトルは「Risky」だ。
2011年、The Beatniksのスタジオライブを収録した。その場に立ち会った観客の方々は、本当に幸運だったと思う。その時に、私には、何かを生み出す役割があるのではと考えた。脳裏に鳴り響いたのは、慶一さんが作詞、幸宏さんと慶一さんが作曲し、幾つものバージョンがある「Left Bank」という曲だ。「ゆく川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず」。鴨長明が鎌倉時代に著した「方丈記」の冒頭だ。慶一さんは「この河はいつからか 水が流れてない」とストーリーを紡ぎだした。水の流れない河を舞台に、いまは会えない人への思いが一人称で語られる。念願の相手に会えるハッピーエンドは訪れず、主人公は泥で顔を洗い、曲は終わる。この曲が生まれたのは20世紀の終盤だ。
テーマ曲の条件はたった1つ。「いま、世界に伝えたい曲を作って下さい」ということだけだった。
「Softly-Softly」のデモと歌詞を受け取り、涙が流れた。この曲こそ、現代に必要だと感じた。慶一さんが、私の友人でもあるLEO今井さんと共に書き上げた歌詞には、他人を思いやる気持ちに溢れ、過度の単純化や対立を煽る風潮に抗う、対話の重要性が綴られていた。幸宏さんと慶一さんが共作したメロディーは、大切なメッセージを優しく包み込んでいた。いま、世界に必要なのは、自分だけをアピールしようというスピーチではなく、歌詞にある「All We Need is Talk」というような、お互いがSoftlyに語り合おうという心持ちなのではないだろうか。幸宏さん、慶一さん、受賞、おめでとうございます。いつものように、一升瓶の国産ワインで、乾杯をさせてください。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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