2018/12/11
誰もが耳にしたことがあるヒット曲がないからか、日本での知名度はイマイチといったところだが、ミーク・ミルの功績を振り返ると、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高2位、R&B/ヒップホップ・チャートとラップ・チャートではNo.1をマークした2012年のデビュー・アルバム『Dreams and Nightmares』から、コラボレーション・アルバム3枚含む全6作がTOP10入りするという偉業を成し遂げているワケで、実は(人気含め)凄いアーティストなのだど、あらためて言わせていただこう。
アーティストとしての活躍もそうだが、“ゴシップ・ネタ”でも話題に事欠かないミーク。保護観察違反により実刑判決を受け、2017年11月から服役し、保釈後のインタビューでは恋人のニッキー・ミナージュを批判したり、ホワイトハウスへの訪問を急遽キャンセルしたりと、ここ最近も世間を(ちょっとだけ)賑わせているワケだが、そんなミークといえば、何といっても「ゴーストライター疑惑」を浮上させたドレイクとのバトルが、“ゴシップ・ネタ”としては最も有名。そのドレイクとは今年9月にツアーで共演し、本作『Championships』でもコラボするなど、和解モードに入っている。
両者がコラボしたのは、ミーゴスやリル・ベイビーなど、今年を代表するヒップホップ・アーティストたちを手掛けるウィージーによるプロデュース曲「Going Bad」。過去のビーフについては意味があったとし「また一緒にやっていこう」と前向きなメッセージをドレイクが送っている。そもそもは、ミークが服役した際にドレイクがメッセージを送ったことが和解のキッカケになった模様。お互いいい年だし、いつまでも若手ラッパーみたいないがみ合いはしてもいられない、しね……。
ドレイクとの関係については、ジェイ・Zとリック・ロスがゲスト参加した「What's Free」という曲でも触れている。タイトルが示す通り、「自由とはなんなんだ?」という疑問を基に、「ディスり合っていたことは、いったい何だったんだ?」と。リスナーからすれば「こっちが聴きたい」って感じなんだけど(?)、当時は不安定な状態で、言動や音楽活動が迷走していたとうことを、どうやら言いたいらしい。ドラッグ使用についても触れていて、「怒りっぽくなっていた」ようなコメントも残している。この曲には、故ノトーリアス・B.I.G.の「What's Beef?」(まんま)がネタ使いされていて、裁判沙汰の6ix9ine(シックスナイン)についても散々な叩き方をしている。ニッキー絡みも、あるのかな……。
この2曲はじめ、本作は歌詞の意味を読み取るとなお、面白い作品に仕上がっている。女、金、ドラッグ……そんな(ありがちな)野蛮なリリックじゃなくて、もっと心理に迫ったことや、政治的・社会的内容も多数含まれていたり。服役していた際には、法律の勉強をしていたり、地元米フィラデルフィアの学生に支援したりと、政治家みたいな活動(ちょっと違う?)もしていたりするから、彼の作品を支持する人は多いのかもしれない。あのジェイ・Zが認める数少ないアーティストの1人だったり、『NME』が「趣旨のしっかりした作品」と高く評価したのも、サウンド面よりリリックのクオリティではないか、と思う。
もちろん、高評価は楽曲の良さもあってこそ。トニー・フォンテインのソウル・クラシック「I Found The Girl」をサンプリングしたタイトル曲や、ロニー・リストン・スミスのピアノ・メロウ「A Garden of Peace」を早回しした「Respect the Game」、ファンク・ユニット=マザーズ・ファイネストの「Love Changes」を従えた「Oodles o' Noodles Babies」など、スタンダードな東海岸らしいサウンド・プロジェクトは、今の若手では決してできない業。ネタものでは、モブ・ディープの「Get Away」を使用した「Trauma」や、ザ・ウィークエンドの最新曲「I Was Never There」を取り上げた「Cold Hearted II」、ビヨンセの「Me, Myself and I」をバックにエラ・メイが歌う「24/7」がいい。
そのエラ・メイの他には、シックスナインの新作にも参加しているプエルトリコ出身のレゲトン・シンガー=アヌエルAA、同東海岸出身のファボラスに、ニッキーと犬猿の仲が囁かれているフィーメール・ラッパーのカーディ・B(恋人をライバルとディスるっていう……)、フューチャー、コダック・ブラック、ヤング・サグ、21サヴェージ、PnBロックといった昨今のヒップホップ・シーンを担うラッパーたちが揃って参加している。PnBロックとジェレマイがコラボした「Dangerous」は、シングル・カットを熱望したいくらい、いい曲。
本作について、自身の経験を基に社会的問題について取り扱ったアルバムだと公言している、ミーク・ミル。たしかに、そのコンセプト通りの“内容の濃い”作品になっていて、過去3作以上のインパクト(服役も含め)を与えたのではないか、と思う。
Text: 本家 一成
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