2018/12/10 18:00
衝撃のタイトルがつけられた前作『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』から、およそ2年半ぶりにリリースされた英マンチェスター出身4人組ロック・バンド=The 1975の新作『ネット上の人間関係についての簡単な調査』。またも意味深且つ長文タイトルがつけられた本作は、ほぼ全楽曲をメンバーのジョージ・ダニエルとマシュー・ヒーリーが手掛けた、彼らにとって通算3作目となるスタジオ・アルバム。
トラップのような不気味なイントロ「The 1975」から、6月にリリースされた1stシングル「ギヴ・ユアセルフ・ア・トライ」で幕を開ける本作。同曲は、ドラッグ中毒に苦んだ経験をもとに作られたメッセージ・ソングで、同英国のロック・バンド=ジョイ・ディヴィジョンの「ディスオーダー」(1976年)のギター・リフを曲間に取り入れた 、スピード感のあるポスト・パンクに仕上がっている。彼ららしくもあり、これまでのサウンドとは異なる面もみられる意欲作。この曲から、8月発売の3rdシングル「トゥータイムトゥータイムトゥータイム」へと繋ぐ。
「トゥータイム~」は、本作の中でも最もキャッチーなコーラス(サビ)が印象的なバブルガム・ポップで、80年代っぽくもあり、数年前に大流行したトロピカル・ハウスっぽいニュアンスも感じられる、フロアライクな1曲。The 1975は、おおまかなジャンル区分としては「ロック」だが、エレクトロ・ポップやR&B、フォークやヒップホップまでジャンルに囚われないスタイルが人気の理由ともいえる。同曲のミュージック・ビデオは、シンプルながらもパステルカラーの色彩が美しい、アート作品のような仕上がりとなった。
この煌びやかなダンス・ポップから、ドリーミーなエレクトロニック・メロウ「ハウ・トゥ・ドロー」~再びダンス・フロアに飛び出したくなるハウス調の「ペトリコール」へ。目まぐるしく変化を遂げる音楽は、展開の早い映画を観ているような気分にさせてくれる。この曲で歌われているのは、アルバムのテーマでもある「ネット社会における問題点」。ボーカル・パートこそ少ないが、その分訴えていることがダイレクトに伝わる、アルバムの基ともいえるナンバーだ。彼らの曲は、サウンド自体細やかでクオリティ高く、ボーカルのないインストでも十分楽しめるようになっている。
5曲目に収録された「ラヴ・イット・イフ・ウィ・メイド・イット」は、7月にリリースした2ndシングル。しなやかなグルーヴ感と突き抜けるようなボーカル、完璧なサウンド・プロジェクトと文句のつけようがない旋律に魅了され、何度もリピートしてしまうのは筆者だけでないハズ。この曲では、トランプ大統領やそれを支持するカニエ・ウェスト、薬物過剰摂取により死去したラッパーの故リル・ピープなど、話題となった人物を取り上げつつ、現在の社会情勢を批判している。鮮やかなサウンドの中に、シリアスな歌詞を埋め込むという楽曲センスに感服。
一転、次曲「ビー・マイ・ミステイク」はフォーク・ギターの弾き語り。ボーカルも、前曲「ラヴ・イット~」とは打って変わって優しく囁くような歌い回しをしている。さらに次の「シンセリティ・イズ・スケアリー」では、ハイハットのアクセントを控えたヒップホップのドラム・ビートと、ゴスペル・コーラスをバックに従えた、ブラック・ミュージック的アプローチに挑戦。シューゲイザー風の「アイ・ライク・アメリカ&アメリカ・ライクス・ミー」、ピアノとストリングスが美しく響くメロウ「インサイド・ユア・マインド」、初期の音に近いニューウェイヴ調の「イッツ・ノット・リヴィング(イフ・イッツ・ノット・ウィズ・ユー)」と、後半も目まぐるしくジャンルが変化していくが、前述にもあるように、それがひとつの物語のように統一されていて、違和感や聴き心地の悪さは一切感じない。90年代のUKロックを映し出したような「サラウンデッド・バイ・ヘッズ・アンド・ボディーズ」、北欧のお洒落系ジャズ・ポップをシルキー・ヴォイスでキメる「マイン」、マイルドなトーンを活かしたゴスペル・バラード「アイ・クドゥント・ビー・モア・イン・ラヴ」と、最後まで一切妥協ナシの傑作が並ぶ。
本作について、「最も重要な分岐点」と話しているマシュー。テーマが重いだけに、賛否が分かれる作品でもあるかもしれないが、彼らのキャリアにおいて重要な作品となることは間違いないだろう。なお、何かと比較されがちなアークティック・モンキーズについては、「競争相手ではないし、自分達がそこまで成熟してるとは感じていない」と控えめなコメントを残している。
本作は、今週発表された最新のUKアルバム・チャートで、デビュー・アルバム『The 1975』から3作連続のNo.1を獲得したばかり。来年の5月には、本作の続編となる4thアルバム『ノーツ・オン・ア・コンディショナル・フォーム』をリリースするとも発表していて、彼らの躍進はまだまだ止まらない。
Text: 本家 一成
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