2018/12/04
2017年は、映画『モアナと伝説の海』のエンド・ソング「ハウ・ファー・アイル・ゴー」で見事な歌唱を披露し、R&Bシンガーのカリードと共に参加した、ラッパーのロジックによる「1-800-273-8255」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”最高3位をマークする大ヒットを記録。続いて、日本でも高い人気を誇るEDM界の人気DJ=ゼッドとコラボした「ステイ」が、同チャート7位まで上昇し、2曲連続のTOP10入りを果たした、アレッシア・カーラ。今年2018年の1月に開催された【第60回グラミー賞】では、カナダ人初の<最優秀新人賞>を受賞する快挙を達成し、2015年のデビューから輝かしいキャリアを積み重ねている。
デビュー・アルバム『ノウ・イット・オール』からは、「ヒア」(5位)、「スカーズ・トゥ・ユア・ビューティフル」(8位)の2曲がTOP10入りし、本作は米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高9位を記録するスマッシュ・ヒットを記録した。その 『ノウ・イット・オール』から3年ぶりにリリースされた2枚目となるスタジオ・アルバム『ペインズ・オブ・グローイング』は、10代から20代にステップ・アップした、感情の変化や苦悩など、複雑な思いを歌にした曲が散りばめられた意欲作。売れて注目されることよりも、“アーティストとしての本質”を優先したような印象を受ける。
6月にリリースされた先行シングル「グローイング・ペインズ」は、前述のTOP10ヒット2曲はじめ、前作収録の計7曲を手掛けたプロダクション・デュオ=ポップ&オークがプロデュースを担当。彼らは、アレッシアの他にも、リアーナやケラーニ、ニッキー・ミナージュなどの人気シンガーにも楽曲提供してきた売れっ子で、本作でも「グローイング・ペインズ」含む計5曲のプロデュースを担当している。
「痛みが重なって逃げられなくなる」~「私にだけ太陽が見えない」と、自身が抱える“闇”のような部分をさらけ出した歌詞の世界が重く、深い。グレーのワンピースに化粧っ気のない顔、裸足で“心の中”を迷い込むようなミュージック・ビデオも意味深で、周りを囲む覆面の男達に、掴まれては放り出されするシーンには息をのむ。ダークな世界観を描いたこの曲だが、こういった歌詞も映像も、彼女だからこそしか表現できないものであり、ポップな前作にはなかった“味”ともいえる。救いは、アレッシアの突き抜けるようなボーカルと、重くなり過ぎないようフォローしたポップなサウンドだろう。
アルバムから2曲目のシングルとしてリリースされた「トラスト・マイ・ロンリー」も、恋愛観においての“ネガティブ要素”を歌った曲。「別れる時がきたわ」からはじまり、「早く出ていって」~「私の世界はあなたナシでも輝くの」と、恋人に見きりをつけると共に、「より幸せになるために必要なこと」という意味も込められていると、SNSで歌詞について説明していた。彼女の歌は、ただ辛い経験を綴るのではなく、そこから這い上がるための方法やポジティブな未来を描いているのが、安心できるというか、いいところでもある。
アレッシアの凄いところは歌詞の奥深さのみならず、全曲自身がソングライターを務めていること。楽曲センスも抜群で、ポップからR&B、ヒップホップにアプローチしたようなナンバーまで、幅広いジャンルも自在にこなす。本作では、ジョン・メイヤーあたりを彷彿させる、アコースティック・ギター1本のカントリー・フォーク「アイ・ドント・ウォント・トゥ」、ノラ・ジョーンズっぽい歌いまわしの弾き語り「ホエアエヴァー・アイ・リヴ」~「ガール・ネクスト・ドア」など、R&B寄りだった前作からシフトチェンジした、フォークやロック、カントリーなど、生音を重視したナンバーが多い印象を受ける。
トゥエンティ・ワン・パイロッツの「ライド」(2015年)や、メーガン・トレイナーの「ノー」(2016年)などのTOP10ヒットを手掛けた、米カリフォルニアの人気音楽プロデューサー=リッキー・リードが担当した「マイ・カインド」、言葉を巧みに刻み、時に強く時に優しく歌う、ロックとR&Bをクロスオーバーした「7デイズ」、中盤ではあるが、アルバムのトリを飾りそうな壮大なメロウ・チューン「オール・ウィー・ノウ」など、どの曲にも繊細な音作りがうかがえる。ジェイ・Zやカニエ・ウェストの作品で知られる、米シカゴ出身のヒップホップ/R&Bプロデューサー=ノー・アイディーと共作した「コンフォタブル」は、6/8拍子のブルース。レコードのノイズを入れているあたり、古い曲を意識して作られたのだろう。60年代ソウルのような 「ノット・トゥデイ」も、レトロ感覚のいい曲。
ラテン・シンガーのマーク・アンソニーがソングライターとしてクレジットされた「ニンテンドー・ゲーム」は、2人の現状と行く末をゲームに例えた曲。“ニンテンドー”とは、もちろん日本が誇るゲームメーカー「任天堂」のことだが、歌詞をみるかぎり、あえて任天堂にした理由がみつからない(アレッシアのお気に入り?)。 マドンナ~セリーヌ・ディオン、最近ではラナ・デル・レイのアルバムにも参加したベテラン・プロデューサー=リック・ノーウェルズによる「アウト・オブ・ラヴ」は、(個人的に)本作のハイライト。ピアノのイントロではじまる魂に響くバラード曲で、力み過ぎないアレッシアのボーカル・ワークはすばらしいの一言。
前述にもあるように、決して売れ線ではないが、彼女の本質とシンガーとしてのプライド維持・向上が伺える『ペインズ・オブ・グローイング』。ちょっと疲れてしまった時に聴いてみると、逆にパワーをいただけるカモ?ボーナスト・ラックには、「グローイング・ペインズ」のアコースティック・バージョンと、BRAVVOによるリミックス、さらにゼッドと共演した前述の「ステイ」も収録される。
Text:本家一成
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