2018/11/30 18:31
確かに「変数」のようなライブであった。
2018年9月2日、相対性理論による【変数I】が、東京・EX THEATER ROPPONGIにて開催された。昨年完結した自主企画シリーズ【証明】、6月にロームシアター京都にて【OKAZAKI LOOPS】とのコラボレーション企画として行われた【変数分離】を経て、新たに始まった自主企画シリーズの第一弾。東京でのライブは約1年ぶりである。
オーディエンスが期待に胸を膨らませる中、ノイズの流れ続けていた会場が暗転すると、吉田匡(b)、山口元輝(dr)、永井聖一(g)に続き、赤と黒と金がきらびやかなチャイナ風の衣装を身にまとい、鹿の角のようなカチューシャを着用したやくしまるえつこ(vo,g,dimtakt)が登場。彼らとオーディエンスの間には透過スクリーンが下ろされており、ここに投影される映像の向こう側、SEの流れを汲んで「ウルトラソーダ」のイントロが鳴り響くと、様々な機材の置かれたステージは一気に華やいだ。
このときもクリームソーダの泡を彷彿とさせる光の輪が会場を埋め尽くしたように、楽曲に沿った映像やライティングをはじめ、光を発するオリジナル9次元楽器「dimtakt」(ディムタクト)、ジェスチャーや動きで音や映像から照明までをコントロールし、その様子をリアルタイムでムービーとしてスクリーンに映し出すことが出来るオーディオ/ビジュアル・3Dコントローラ「YXMR Ghost“Objet”」(ヤクシマル・ゴースト・オブジェ)など、テクノロジーを駆使することで知られる相対性理論。この日も数々の演出に目を奪われたが、いつも以上に攻撃的なバンド・アンサンブルに圧倒された人も多いのではないだろうか。
あまり印象はないかもしれないが、相対性理論による生演奏の迫力はほかのバンドの追随を許さない。序盤から容赦なく、ノイズ混じりの鋭いギターから始まった「キッズ・ノーリターン」では、テクニカルなドラムや骨太なベースも大きな存在感を発揮し、オルタナティブ・ロックバンドにも勝るすさまじい爆音がライブハウスを埋め尽くした。この楽曲をはじめ、やくしまるも涼しい顔でジャズマスターを操り、メンバーと共に大音響を生み出していくことになる。とはいえ、そのキュートさはもちろん健在。
●「こん、こん、こん。なんの音? 相対性理論の音。相対性理論 presents 変、数、I」
透過スクリーンが上がると、犬のパペットを持って「ケルベロス」を歌唱し、続く「チャイナアドバイス」は、両手を反対側の袖に入れるチャイナイメージの立ち姿で。細かな仕草にも目を奪われる。また、先ほどの一言MCは「ワン」にかけていたが、お馴染みの一言MCも次の曲と巧みに関連づけられており、楽曲の世界観を構築することには余念がない。
●「Hey Siri、ここは一体どこなの?」
こんな問いかけからは、トーキョーシティをさまよう「帝都モダン」。
●「君たちが静かになるまでに、10秒かかりませんでした」
学校でよく聞くフレーズのパロディからは、TVアニメ『ハイスコアガール』のED主題歌「放課後ディストラクション」。
●「着信音じゃないよ。世界を終わらせるラッパの音」
実際にやくしまるのiPhoneの着信音をつかった流れからは、天地創造を投げ出してしまう「天地創造SOS」。
――その間も視覚的な楽しみは途切れることなく、浮遊感あふれる「ムーンライト銀河」などは、ミラーボールやレーザービームをはじめ、とにかく使用できる照明機材はすべて使用したのではと思えるほど。本当に銀河へ飛び込んだ感覚に陥った。
やくしまるの衣装にもさらなる遊び心があり、終盤で羽織りが脱がれると、前身ごろに大きな「相対性理論」の文字が。そして、まさに相対性理論の真髄と言えるだろうシュールなギター・ポップ2曲、「夏の黄金比」と「小学館」が演奏されたあと、彼らの音楽は一旦、ミステリアスな雰囲気漂う「FLASHBACK」に集結した。ミニマルな曲調の中で展開していき、壮大な音像へと変貌を遂げるナンバー。これまでの多幸感が静かにフラッシュバックする。
●「バイバイ」
アンコールの3曲は、相対性理論とやくしまるの多彩な音楽性の凝縮と言えるだろう。NHK Eテレの科学教育番組『カガクノミカタ』第2シーズンで使用されていた「あたりまえつこのうた」は、やくしまるのチャイルディッシュな歌声が光る柔らかな楽曲。一転、「たまたまニュータウン」では、やくしまるの「dimtakt」も加わったシューゲイザー風の破壊的な轟音が、テクノロジーが描く幾何学的な光の洪水の中、数分間にわたって耳をつんざくことに。そして最後は、代表曲のひとつ「ミス・パラレルワールド」で、再びポップ・ミュージックが回帰した。
●「グッナイ」
奏でられる音楽も、用いられるギミックも、目まぐるしく入れ替わった【変数I】。過去と比べると進化も目覚しい。しかし、それらはあくまでも“相対性理論”という範囲の中にあり、今回のライブを振り返ってみても、相対性理論以外のなにものでもなかったのだ。“相対性理論”という範囲――この広さを改めて実感することになったわけである。
TEXT:佐藤悠香
PHOTO:Tomohiko Tagawa / Taisuke Nakano
◎セットリスト
【相対性理論 presents『変数I』】
2018年9月2日(日)東京・EX THEATER ROPPONGI
01. ウルトラソーダ
02. BATACO
03. キッズ・ノーリターン
04. ケルベロス
05. チャイナアドバイス
06. とあるAround
07. 帝都モダン
08. 四角革命
09. ムーンライト銀河
10. 放課後ディストラクション
11. ヴィーナスとジーザス
12. 天地創造SOS
13. 夏の黄金比
14. 小学館
15. FLASHBACK
EN1. あたりまえつこのうた
EN2. たまたまニュータウン
EN3. ミス・パラレルワールド
◎リリース情報
▼相対性理論
配信シングル「NEO-FUTURE」
2018/10/02 RELEASE
▼やくしまるえつこ
配信シングル「あたりまえつこのうた」
2018/08/22 RELEASE
▼やくしまるえつこ
配信シングル「あたりまえつこのうた」
2018/08/22 RELEASE
シングル『放課後ディストラクション』
2018/08/22 RELEASE
<CD>QAMR-99999 / 1,200円(tax out.)
<7インチアナログレコード>QAMR-99998 / 1,500円(tax out.)
配信シングル「Ballet Mecanique」
アーティスト名:やくしまるえつこ+砂原良徳
2018/11/16 RELEASE
・iTunes:https://apple.co/2PD2qY3
・Apple Music:https://apple.co/2zbQJNR
・Google Play Music:https://bit.ly/2PAGRHu
・レコチョク:https://bit.ly/2RZG53B
・ototoy:https://bit.ly/2QW34MU
ほか、DL・サブスク・ハイレゾなど各音楽配信サイトにて配信
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